⑧

「レオ、部活って言っても、やっぱりこの四冊の本にそこまでの意味はないと思うけど。それこそ、このメモはやっぱり、落とし主が本を探していただけで、それ以上の意味はないと思うけど」


 改めて、本を見てみるけど、ジャンルはバラバラで統一性がない。何か意味があるのかと言われれば、特になにも思いつかないのが正直な話だ。


「そうだね」


 レオが私の言葉に同意する。あれ、ってことは、部活動はもう終わりになっちゃうけど? レオらしくもないと思いながら、疑問を持った目で私はレオを見る。


「普通に考えればその可能性が高いけど。しずくだって気になっていたはずだよ。このメモに」

「メモに気になるって…それって、メモを拾った経緯の事を言っているの?」


 レオは私の言葉に頷く。


「このメモが誰かの落とし物だとするならば、床に落ちているのが自然だよね。でも、実際しずくがこのメモを拾ったのは」

「本と本の間の空間」

「そう。つまり、このメモを誰かが何かしらの意思を持ってあの場に置いたという事」


 私もこのメモを見つけた時は、なんでこんな場所にメモ用紙があるのかと、疑問を持った。たまたま落として、たまたまその場所にメモが入り込む。そんな、偶然が起こるのかと。

 だが、そうではなく、このメモが明確な意思を持った人物が置いたというレオの言葉の方が説得力はある。そうなると、次の疑問は自ずと浮かび上がる。


「では、誰が、何の目的でこのメモをあんな場所に置いたという疑問が生まれてくる」


 レオは私の心の声に答えるように、言う。


「だけど、レオ。誰かが置いたとして、メモの内容は正直意味が判らないよ。メッセージとか書いてあるなら判るけど、実際書かれていた内容は、本のタイトルと著者だけだし」

「だからこそ、こうして実際にメモに書かれた本を借りてきた。このメモが誰かに対しての明確な意思を伝える為の物なら、きっと私達が気付いていないだけで、ちゃんと意味があるはず」

「そうは言ってもね」


 私は並んでいる四冊を見ている、ジャンルもバラバラだし、これと言って何か意味があるのか言われると……。本を眺めていた私は、ハッとある事を思い出した。もし、ここがマンガの世界なら頭に豆電球が灯っただろう。

 私は、思いついたこの考えが合っているのかを確認するべく、本を一冊ずつ手に取り、パラパラと本を捲っていく。一冊また一冊と捲っていくが、四冊目も捲り終わって、私は自分の考えが外れていた事を確認することになり、肩を落とす。あれ、ありかと思ったのに…。


「しずく?」


 私のいきなりの行動にレオは訊いてくる。そりゃ、いきなり本を捲り始めて、終わったと思ったら急に肩を落とすのだから、不思議がるのも当然か。

 私は、落とした肩をそのままにレオの疑問に答える。


「このまえ、ドラマかなんかで、本にメッセージを書いたメモを挟んでやり取りするみたいなのを見たから、てっきり本に何か挟まっていると思って…」

「それで、本を捲って確認をした」

「うん」


 でも、本には何も挟まってなどいなかった。私の思い付きが外れた証拠だ。


「しずくのその考えは面白いね」


 そんな私に、レオは落ちた肩を戻してくれるかのように言う。実際、その言葉で私は背筋を少しだけ伸ばした。


「ほ、ほんとうに?」

「うん。本に挟んだメモないし手紙でやり取りをするにあたって、どの本に挟んだのかを報せる為に、挟んだ本を書いたメモをあの場所に置いていた。それなら、あのメモがあんな場所に置いてあったのにも、書かれた内容にも説得力があるし、理解できる。でも、それは外れてしまったけど」

「ぐう」


 そんな言葉しかでない。もし、この本にメモとかが挟まっていれば。


「でもさっきも言った通り、その発想は面白いし、私も似たような考えは持っていたから」

「そうなの?」

「うん。確かに、しずくの考えは外れてしまったけど、このメモがそういった意味を持つものを考えるのは私も賛成。だとすると、このメモに書かれている本は、あるものを隠した場所ではなく、本自体に意味があると考えるべきなのかも」

「本自体に意味?」


 本自体の意味ってなんだろう。それぞれのジャンルもバラバラ、著者だって違うし、この四冊に一体どんな意味が? 

 考えてみるが、先程みたいに何か思いつくこともない。そういえば、私はこの四冊について何も知らない。まずは、この四冊がどんな意味なのかを考える前に、この四冊がどういう本なのかを知る事が重要なのかも。とは言っても、今からこの本たちを熟読するほどの集中が私にあるのかと、問われれば……。


「本の持つ意味の前に、この本たちがどんな本なのかから見ていこうか」

「そ、そうだね、そうしようよ」


 私の心を読んだのではないのかと、思うほど、レオは的確に提案してくる。そう言った、レオは、最初に均等に並べていた本をまとめ、その内三冊を積み上げると、その積み上げた本をパンケーキの皿とは逆方向にずらす。そして、積み上げなかった一冊の本を私とレオの間に置く。

 その本はメモの最初に書かれていた本『四季恋』だった。

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