⑥

 レオはカウンターに本を持っていくと、レオは生徒手帳を図書委員に渡している。受け取った生徒はPCに打ち込み、次に本の裏にあるバーコードをリーダーのようなものでスキャンする。すると、レシートみたいな用紙が出て来てレオに渡す。どうやら、あれは返却期限の紙のようだ。しかし、学校の図書室も随分とハイテクになったんだなと感心してしまう。昔は、本の最後に貸出用紙がありそれに記入して管理していたと聞いた事があるが、今の方がきっと管理しやすいのは間違いない、技術の進歩は目覚ましい。


 などと勝手に感心していると、レオが借りてきた本を持ってこちらに戻ってくる。それと同時に、カウンター奥の図書準備室の扉が開き、中から狼乃森先生が出てくる。


「あっ」


 思わず出てしまった私の声に狼乃森先生が気付き、私の反応からレオが後ろを振り返り、レオも狼乃森先生に気付く。


「獅子谷さん、兎月さん、二人でこの図書室に来るのは珍しいですね」


 そのまま、狼乃森先生がこちらに来る。先生は片手に文庫本を何冊か、持っている。


「ええ。今日はちょっと本を借りに来ました」


 レオはそう言うと、先程借りた本に視線を落とす。その本を見て、狼乃森先生は納得したみたいだ。


「ところで、先生が持っているその本はなんですか?」


 私は気になって訊く。まさか、先生が借りていく本だったりして。


「ああ、これは修復した本ですよ」

「修復ですか?」

「ええ。ここにある本は貸出している本ですので、やはり少なからず本が傷んだりしてしまうのです。なので、それを修復して読めるように戻すのも僕の仕事なので。昨日の放課後偶々見つけましてね。まあ、こことの付き合いも長いですから」 


 狼乃森先生はなんでもないように言うが、それって結構凄い事だと思うのだが。狼乃森先生はこの高校の図書室の番人をしていると、聞いたっけ。


「昔からということは、先生は砂月先生……羊佐和先生がここの生徒だった時の事も知っているということですよね?」


 さっき砂月先生に会ったからなのか、そんな質問をしてしまう。


「羊佐和さん、いえここでは羊佐和先生と呼んだ方がいいですね。ええ、彼女のことは生徒の頃から知っていますよ。よく図書室に来てくれていましたから」

「図書委員だったとか」

「いえ、彼女は図書委員ではなかったですよ」

「委員でもないのに、図書室に来るということは、本を読むのが好きだったんですね」

「そうかもしれませんね。彼女には本を薦めたこともあります。そういえば、図書室によく来るようになったのも、本を薦めた事がきっかけでしたね」

「その本はこれですか?」


 レオは借りた本の一つを先生に見せる。それは、砂月先生が言っていた中高年の文化祭特集の本だった。


「ああ、それです。当時彼女が文化祭の準備で何か参考になりそうな本がないかと、図書室に来て、その本を薦めました。そのおかげかどうかは判りませんが、彼女のクラスの出し物はとても盛況だったそうです。文化祭が終わった後にお礼を言われました。彼女達が頑張ったからで、私はなにもしていないのに律儀な子だと思いましたね」


 砂月先生って、昔からいい人だったんだな。それに、やっぱり狼乃森先生も見た目の雰囲気とかに反して、優しい人なんだよね。なんだかかんだで、私も結構助けてもらっているし。


「先程、羊佐和先生がこちらに来ていたみたいなのですが、会いましたか?」

「いえ、私は準備室で作業してしたので気が付きませんでした」


 レオの質問に狼乃森先生は首を横に振る。砂月先生は狼乃森先生に会っていないのか、ならこの図書室に来たのは、この文化祭の本の所在を確認しに来ただけってことなのか。

 話の流れから、そのまま狼乃森先生に会いに行ったと思ったけど、そうではないみたい。


「それでは、僕は作業に戻ります」

「はい」


 狼乃森先生はそう言うと、文庫棚の方に向かう。


「じゃあ、私達も行こうか」

「帰るの?」

「しずく、私達は部活動をしている。なら、向かう先は一つ、部室しかない」

「ですよね」


 きっと、そのために本を借りたのだと思う。しかし、いいのかな。メモに書かれていたという事は、このメモを書いた人はレオの手にある本を借りたいと思っているのではないのだろうか。申し訳ない気持ちを自覚しながら、私はレオの後を追うのだった。

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