⑤

「じゃあ、最初はどの本から探すの? 砂月先生が言っていた本にする?」

「ううん。その本はあるのは判っているから、他のから行こう。ここはメモの上から順に行こうか」

「ってことは、この『四季恋』って本からだね」


 レオがメモを取り出し見る。私も横から確認する。

 でも、この四季恋って本を私は聞いた事がない。基本、本と言ったらマンガとかが多い私だから知らないだけかもしれんが。


「レオは、この『四季恋』って本は知っているの?」

「うん、恋愛小説だね。何年か前に出版された本だったかな、最初は単行本で出て、その後に文庫版も発売されたよ」

「恋愛小説、ふーん」

「なに?」

「べつにー」

 

 普段はクールで大人びているレオだが、こういう年相応なところもある。なんだか、少しだけ嬉しい気持ちになる。


「含みのある言い方だね、まあいいけど。じゃあ、まずは単行本の可能性から見てみようか」

「うん」


 図書室の本は単行本の棚と文庫本の棚があり、レオと私は単行本の棚に移動する。今朝もここを見ているが、四季恋なんてタイトルの本はあっただろうか。思い出してみるが、頭の検索には何も引っ掛かることはない。意識してそんなに見ていなかったから、私の目には何も映らなかった可能性はある。


 ちなみにだが、私たちの高校の図書室は小説などの本はタイトルではなく、著者の五十音順で並べられている。四季恋の著者は啄木鳥シンとメモには書いてある。レオにもそれとなく聞いてみたが、合っているらしい。

 か行の段を見ていると、


「在ったね」

「えっ、ほんと?」


 レオが本を棚から取り出す。表紙には真ん中の少し上にタイトルと作者名が白塗りの文字で大きくあり、そして一本の桜の木の下に二人の男女が描かれている。レオはこの本が恋愛小説と言っていたから、この二人の恋愛が描かれている小説ということだよね、きっと。一応、文庫本の棚も見てみたが、文庫本をこの図書室には置いていないみたいだった。


「そういえば、しずくはこの文庫本の棚でこのメモ用紙を見つけたんだよね?」

「うん、そうだよ。確かこのあたりだったはず………あっ、ここだよ」


 私が指差したところは、今朝と変わらず大体文庫二冊分ぐらいの空間だろうか、まだ空いたままだった。なんで、ここにあのメモ用紙は置いてあったのかな? 

 レオもその空間を少しの間眺めているが、特に何も言うことなく、その場離れようとする。私は思わずレオを呼び止めてしまう。


「えっ、レオ。もう離れるの?」

「うん。気にはなるけど、ここを見て私の答えは何も判らないかな。なら、このメモに書かれた本を見つけていけば、何か見えてくるかも。だから、本探しに戻ろう」


 レオの言葉に私は頷く。確かに、ここだけ見ても今ところ何もない。なら、メモに書かれた本を探すのが先決だと私も思うから。


「次は、『定番のお弁当おかず百選』って本だね。どの辺りだろ」

「こっち」


 レオは特に迷うことなく、移動する。その背中を見て、私は思ってしまった。本当にここにある本を読破しているのではないかと。そんな思いを抱えつつ、私はレオの背中に続いた。


 二冊目の本は、生活科学と書かれた仕切りのプレートがある棚の更に料理と書かれたプレートの場所にあった。ここの棚は著者別ではなく、本のタイトル順で並んでいる。本のサイズは単行本サイズだが、厚みは四季恋より薄い。しかし、本の表紙になっているお弁当は美味しそうだ。少し、本当に少しだがお腹が空いてきた。この、表紙はいけない。


「お弁当か、いいね」

「そういえば、レオの昼食って最近お弁当ってなんか変わってるよね」

「そんな、奇抜なお弁当ではないはずだけど…」

「そういう意味じゃなくて、前までとおかずの種類とか、お弁当の感じが変わってるって話」

「ああ、そういうことか。それは、最近私が作っているからね」

「へぇー、そうなんだ………なんて言った?」

「そんな、奇抜なお弁当…」

「いや、戻り過ぎ!」


 思わず大きな声が出てしまった。私は声のトーンを落として訊く。


「ついさっきだよ」

「私が作っているって言ったけど」

「お弁当レオが作っているの? じゃあ、今日のも?」


 私の言葉にレオが頷く。ちょっと待ってくれよ、あの美味しそうなお弁当をレオが作っているだと、てかレオ料理も出来るの?


「夏休み明けくらいから、お母さんとお母様に教わっているよ」

「えっ、いつの間に……というかお母さんからも教わっているって、私全然気が付かなったけど?」

「だって、私の家で教わっているし」

「なんで?」

「よく、お母様が遊びに来てくれるからその時にね」


 私は頭を抱えた。言われてみれば、結構な頻度で家を空けている時が多いとは思っていたが、まさかそんな事を。私だって、レオの家に遊びに行く機会なんてそんなにないのに。なんで親の方が遊びに行っているんだよ! これはもう憤慨ものだよ。


「今度、作ってこようか?」

「お願いします」

 

 怒りの気持ちは即座になくなり、私はレオに懇願する。だって、今日のレオのお弁当美味しそうだったんだもん。

「任せなさい」


 ああ、レオの手料理しかも一緒のお弁当だと。なんだこれは、急に青春みたいな学園生活になってきたではないか。


「まあ、とりあえずその話は置いておくとして、次に行こうか」

「おっけ」


 ウキウキな気分になった私はレオの後に続く。というか、レオの動きに迷いがないのだが。

 メモに書かれている次の本は砂月先生が言っていた文化祭の本だが、それはさっき砂月先生に教えて貰って在ることは確認済みなので、最後に書かれている本を探しに行っているのだが、メモに書かれている本の中で一番私に縁遠いな。

 その本があるであろう棚に来たが、どの本もタイトルだけでチンプンカンプンなのだが、私とは違いレオは棚の中から目当ての本を見つける。


「レオはこういう本も読むの?」

「うーん、偶に読むぐらいかな」

「なんか、哲学の本って難しいイメージがあるんだよね」


 勝手なイメージではあるが、だからなのか今まで触れてこなかったな。


「そうだね。しずくがそう思うのも無理はない。でも、哲学は一度読んでも理解でき

ないものだよ」

「レオでも?」

「しずくは私を買い被り過ぎだよ。私にだって判らない事、できない事だってあるよ」

「私にとっては被り過ぎてはないけど。じゃあ、レオは哲学をどう捉えてるの?」


 レオはそう言うが、私にとってはやっぱりレオは凄い人なんだよね。


「私にとって哲学は思考し続けるものかな」

「思考し続ける?」

「哲学は、本質を捉える学問だと言われている。でも、その本質にたどり着く為に、様々な人達が様々な思考をしている。ある一つの思考が生まれ、そしてその思考を認め発展させるのかそれとも疑い違う視点から思考するのか、そうして更なる思考が生まれる。ある意味で答えのない学問なのかもね」

「なんだか、途方もないな」

「そうだね」


 レオはそう言って、手に取っている本を見る。その本の表紙はタイトルと著者名だけで、後はサンタクロースにも似た可愛い感じのおじいちゃんのキャラクターの絵が描かれている。


「しずくも読んでみれば、最近は判りやすいように解説している本も多いし、この本もどちらかといえばそうだろうし」

「うーん、時間があればね」

「それは、読まないね」


 だって、何回も読まなければいけないんでしょ。その時点で私にはすでに難しいよ。


「それより、最後の一冊でしょ」


 私は難しい感じになりそうな雰囲気を切り替えるべく、本来の目的に話を戻す。レオは頷くと、今回もまた迷うことなく移動する。いや、だからなんでそんな迷いなく移動するんですか、レオさん。


 最後の一冊である中高生の文化祭は他の三冊に比べて、とても判りやすい所にあった。図書室は月に特集が組まれており、今月の特集が秋をテーマにしており、その中の一冊がこの本だった。砂月先生もすぐに気が付いたはずだ。他にも、秋のテーマに沿った本が置かれているが、文化祭に関する本今のところこれだけか。


「じゃあ、この四冊を借りてくる」

「えっ、借りるの?」

「モチのロン」


 そう言うと、カウンターに向かう。そういえば、私は入学してから図書室で本を借りたことは一度もないが、どうやって借りるのだろう。レンタルショップみたいに会員証みたなのが必要なのかな。

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