④
私は今朝来た図書室の入口の扉の前に立っている。だが、今朝と違うのは私がサボりに来たわけではないこと、そして、狼乃森先生ではなく、レオと一緒に来ているということだ。
私が図書室のドアに手を掛け、開けようとすると、勝手に引き戸になっている図書室の扉が開かられる。あれ、この短い時間の間に図書室のドアが自動ドアになったというのか。
などと、そんなことがあるはずもなく、中から人が開けただけの事だ。その開けた人物は私達の、というかこの人の言葉をきっかけに、放課後ここに来ることになった。
「あれ、二人ともどうしたの?」
そう、砂月先生だ。
「あっ、もしかして、さっき私が言った本を見に来たのかな」
「はい、羊佐和先生がおっしゃっていた本が気になってしまって、今日は私たちのクラスは準備もなくて、時間があったので」
「そうなんだ。私もちょうどあの話をして、久しぶりに読みたくなってね。見に来ちゃった」
「ありましたか、本は?」
「まだ、誰を借りていなかったから、もし良ければ読んでみて」
そう言って砂月先生は微笑む。
「またね」と言うと、私たちは横にずれて砂月先生が図書室から離れていく背中を見送る。
「まだ、あの本はあるみたい」
「だとすると、他の三冊も確かめてみないと」
レオはそう言って、図書室に入っていく。しかし、レオとあんな話をしていたからなのか、砂月先生が図書室にいたのは、もしかしてと考えてしまう。だけど、砂月先生は今さっきここに来て本の所在を確認したような口ぶりだった。だとすると、私が今朝拾ったメモ用紙が図書室にある理由の説明がつかない。
もしかして、砂月先生が嘘をついている………いや、嘘を吐く必要がないか。そんな風に考えていると、入口からレオが顔を出す。
「どうしたの、しずく」
「あ、ごめん」
レオの呼び掛けに、考え込んでいた私は考えるのを止めて、図書室に入る。
文化祭の準備中というのもあるからなのか、図書室には人がいなかった。正しく言えば、利用者がいないだけであって、カウンターには図書委員の人たちが二人座っていた。私とレオに一瞥くれると、二人はなにか作業をしていたのか、その作業に戻る。
レオはさっそく本を探す為なのかカウンターには寄らずに、奥の本棚に向かう。
「ねえ、レオ。図書委員の人に訊いた方が早くない?」
正直作品のタイトルと著者名は判っているけど、この本の山から探すのは中々大変だと思うのですよ。なら、この山の事を私たちより知っているであろう人たちに頼るのが一番早いし、確実じゃない、うん、そうしよう。決して探すのが面倒くさいわけではない。
「しずくは私の事をまだ判っていないみたいだね」
「どういうこと?」
レオのなにを私がまだ知らないと言うのだろうか。ならば、教えてもらおうではないか。私がレオのなにを知らないって。
「しずく、私は本を読むのが好き」
「知ってる」
「私はよくここに来ている」
「知ってる」
「私はここにある本をすべて読んでいる」
「知らない!」
えっ、そうなの、レオ。確かに、レオが本を読むのが好きなのは知っているし、部室でもよく読んでいるけど、まさか、図書室の本を全て読み終わっているとは。そんな人本当にいるんだ……。
「まあ、そんなわけはないのだが」
「なんなの!」
ていうか、すぐ考えれば判ることだ。もし、レオが本当にここの本を全て読み終わっているとするならば、こうして、ここに来て本の有無を確認などする必要などないのだ。またしても、こんなさらりとからかわれるなんて、そのレオのドヤっている顔は………可愛いから、まあ、いや、いいわけないだろ!
「しずく、図書室では静かに」
「誰の……」
その時私の背後から強烈な視線を感じ、振り返る。その視線の主たちは、カウンターから私に訴えかける。静かにと。
私は謝罪の意味も込めて軽く頭を下げる。なんて理不尽な。
「さあ、探そうか」
私の気持ちとは裏腹に、レオはウキウキしていた。文化祭準備とかいろいろな事があってこういう、レオに言わせれば部活動なのだが、活動することが出来なかったからなのかな。さっき私をからかったからではないと信じたい。
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