➁
昼休みになると、私とレオは部室棟の不思議探求部の部室で昼食を食べている。先に食べていていいよと言ったが、レオは律儀に私が来るのを待っていてくれていた。私が、なんで遅れてしまったのかは、遅刻届を担任の先生である鳩峰先生に提出しに職員室に行っていたからだ。
提出しに行った時に鳩峰先生は砂月先生と一緒に昼食を食べていた。しかも、手作りのお弁当を! いつもの鳩峰先生は買ってきた菓子パンとかカップ麺とかなのに、何があったのかと訊くと、砂月先生の手作りだと言う。
よくよく見れば、二人のお弁当は同じだった。砂月先生の女子力の高さにびっくりすると同時に、鳩峰先生に非難の視線を送る。
その視線に気付いたのか、砂月先生がフォローの為に一つ作るのも二つ作るのも一緒だからと言っていた。それに対して、なぜか鳩峰先生がドヤっていたのが少し納得できなかったが。そんなやり取りがあり、職員室を後にした私は、遅れてこの部室へと来たというわけだ。ちなみに、一連の出来事はレオに報告しており、レオは鳩峰先生らしいと笑っていた。
不思議探求部の部室はレオがいろいろな備品をどこからか調達してくるので、この部室は他のちゃんと活動している部室よりも潤っている。しかも、不思議探求部の部員は、部長であるレオと、なぜか入部している私の二人だけなので、誰に気を遣う必要もないので楽なのだ。だから、基本的にレオと私はここで昼食を摂る。
「ねぇ、レオ」
お弁当の沢庵をポリポリ食べながら、卵焼きを食べているレオに話しかける。
「なに? お茶のおかわり?」
「まだ、あるから大丈夫。そうじゃなくて、我らが不思議探求部は出し物とかしないの?」
部室に来る途中に、部室棟のいくつかの部活は文化祭に向けての準備をしていたので、そういえば私はレオから特に言われていないが、なにかするのかなと思い、こうして訊いてみたのだが。
「特にはないかな」
「そうなんだ。なんか意外」
「意外?」
「レオならなにかとんでもない事をすると思っていたから」
「しずくは私をなんだと思っているの?」
「自分の胸に手を当てて考えてみたら」
レオは本当に自分の胸に手を当てて考えている。そして、胸から手を離し、私に対して言う。
「ごめん」
おい、待て、こら。おのれは私のどこを見てその言葉を言っているんだ、おい。憤慨している私を後目に言う。
「正直な話をするなら、二人で出来ることなんて限られているし、したい事もないから。不思議探求部はなにもしない」
「そっか」
さっきの事は後で話をするとして、そっか、それならいいか。
「それに、クラスの出し物を手伝うだけで大変そうだから」
「レオはそうだよね」
2―Aの出し物は喫茶店のようなものをすることになっている。最初は男子が馬鹿みたいな提案をしていたのだが、レオがバッサリと却下した。そして、よくある喫茶店のようなものになったのだが。レオが監修をしているので、それはもう凝った造りになりつつある。
私たちの高校は文化祭が近づくと一日の授業の内の一コマを自習という名目で、文化祭の準備に充てられる。今日も、午後の最後授業は実習という名の、文化祭準備だ。私達のクラスは極めて順調で今のところは遅れなしだ。
そういうのも、レオが出し物の監修とスケジュール管理をしているからに他ならない。レオの求心力による、クラスの一致団結感がすごいので、目立ったトラブルも起きない。その一致団結感は今朝の私に対する、反応で判る。あのクラスは変なところで妙な団結があるのだ。
文化祭かー。お弁当を食べ終わった私はまったりした昼休みを過ごしていた。レオも今は本を読んでいる。あっ、そういえば、文化祭という単語で思い出した。
私は制服のポケットから今朝拾ったメモ用紙を出す。そうだった、今の今まだ忘れていた。図書室を出る時にでも、狼乃森先生に渡しておくんだった。
「しずく、それは?」
レオは私が取り出したメモ用紙に気が付いたのか、読んでいた本を閉じて訊いてくる。
「今朝、図書室で拾ったんだよね」
私はレオにそのメモ用紙を渡す。
「なんで、また図書室に………狼乃森先生ね」
「そう、またサボらせてもらった」
「呼んでよ」
「いや、呼べるかい」
レオには私がたまに図書室でサボらせてもらっている話をしている。レオはよく図書室にも顔を出しているので、狼乃森先生とは結構仲良しである。二人が話をしているところを聞いたことがあるが、私の知らない本の話をしており、ついていくことが出来なかった。
レオは二つ折りになっているメモ用紙を開く。
「これは…」
「誰かが借りる為に本のタイトルと作者をメモをしたものだと思うだよね」
「図書室に落ちていたならそうだね。中身に統一性がないのが気になるところだけど」
「あっ、でも気になる事があるんだよね」
「気になる事?」
「うん」
私はそのメモ用紙を拾った時の状況を詳しくレオに話をした。レオはもう一度メモ用紙に視線を向けると。
「それは、気になるね」
微笑んだのであった。この表情絶対にレオの好奇心という名の猛獣にエサを与えてしまったかもしれない。
「このメモについては、時間のある時にでも話そうか」
「今じゃないの?」
レオは携帯の画面を私に見せる。その画面の時計は、あと少しで昼休みの終了を終わる事を示していた。朝に続いて、午後までも遅刻するわけにはいかない。私たちは部室を後にした。
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