⑪

 居間のテーブルに料理が並ぶ。サラダ、豚カツ、漬物、様々な副菜が並んでいる。どれも美味しそうだ。そして、お茶碗に盛られた白米、豆腐とネギの味噌汁、最高な食事になりそうだ。


「いただきます」

 

 おじいちゃんの、いただきますの言葉に合わせて、私たちも、いただきますをする。そして、至福の時間の始まりだ。

 まずは、サラダを取り分けると自家製のドレッシングをかける。このドレッシングは、おばあちゃんが作っているもので、和風ドレッシングだ。これがまた美味いのだ。野菜もシャキシャキしていてたまらん。

 厚い豚カツを一切れ取り皿に置き、ソースをかける。そして、一口。こんなに厚いのに嚙み切れてしまう柔らかさ、たまらん。

 そして、白米を口に運ぶ。このコラボは白米が進んでしょうがない。ここで、味噌汁に手を付ける。味噌汁の具材は数あるが、この、豆腐とネギのコンビは私の中で上位を占めているコンビだ。

 合間に食べるこの漬物も、あまり濃いものではないので、食べやすい。偶に送ってくれて私たち家族に大好評の逸品だ。

 

 レオの表情は読み取りづらいが、箸の進むスピードが止まることがないので、かなり好評のようだ。かくいう私も、箸が止まらない。

 対面のおじいちゃんとお父さんは、食事というよりかは晩酌に近いようで、食べるよりかは飲む方がメインみたい。おじいちゃんが先程、この日の為にと用意していた日本酒を持ってきたので、お父さんもすいませんと言いつつ顔がにやけていたのを私たちは見逃さなかった。

 完璧に飲むことを楽しんでいる男性陣を後目に、私たちは料理に舌鼓を打つ。


「剛君が来てくれて本当に良かったわ。あたしは、あまりお酒は飲まないから、いつも一人で寂しそうに飲んでるから、今日来てくれるのを楽しみにしていたからね」

「そう言っていただけて嬉しいです。僕もお義父さんと飲めるのを楽しみにしていましたから」

「おお、剛君ありがとう。さあ、飲もう」

「はい」


 おじいちゃんが瓶の口を向けて、お父さんのグラスに注ごうという意思を感じ、お父さんはすいませんという謝罪とありがとうございますという感謝をしながら、左手に持っていた箸を置きグラスを手に持つ。


 おじいちゃんがお父さんのグラスにお酒を注ぐ。そのお返しにと今度はお父さんがお爺ちゃんのグラスにお酒を注ぐ。大人はお酒をよく飲むが、私にはそのお酒判らないな。それは、私がまだ子供で、お酒を飲める年齢になればこの考えは変わるのかな。


「そういえば、おじいちゃんもおばあちゃんもレオが来た時すごい喜んでたけど、普段からお父さんたちに聞いているの?」


 なんだかんだで、訊く機会がなかったが、あの歓迎ぶりからすれば、ある程度は予想できるが、訊かずにはいられなかった。

 私の質問におばあちゃんは箸を置き、私の質問に答える。


「それはもう毎日」

「毎日⁉」

「というのは冗談よ」

「ですよね」


 レオが少し安堵している。流石に、毎日自分の知らないところで、友人の家族が自分のことで連絡を取り合っていたら、恥ずかしいし怖いだろう。私なら、きっと恥ずかしいと怖さがあるよ。


「毎日とまでは流石にいかないけど、連絡がある度に、純子から聞いていたからね。それこそ、しずくのことより詳細にね」

「それはどうなの…」


 何故、愛娘よりも報告が多いのか………もう触れない方がいい気がしてきた。


「だから、会うのを楽しみにしていたんだよ。だが、実際に会ってみて思ったが、話に聞いていた以上に、別嬪さんで驚いたぞ」

「ほんとよね。二人の補正が入っているんじゃないかと思ったけど、そんなことはなかったね」


 おじいちゃんとおばあちゃんが大絶賛している。そして、私の横にいるレオはまたもや恥ずかしがっている、可愛い。しかし、私は意気消沈している。親友が褒められるのは嬉しいだが、出来れば孫娘ももっと褒めてくれてもいいではないか。このままじゃあ、私はいじけてしまうぞ。


「大丈夫。しずくが可愛いのは、私が一番知っているから」

「レオ…」


 本当に私の親友はイケメンかよ、惚れてしまうぞ。


「ははは。本当に二人は仲が良いんだな」


 おじいちゃんが私たちのやり取りを見て豪快に笑う。他の三人もどこか微笑ましそうに笑っている。なんだか、恥ずかしくなって、味噌汁を啜る。レオは、どこか誇らしげにそうなんですとか言ってるし、さっきの恥ずかしがっているお前はどこに行ったんだ


「そういえば、純子にも昔いたわよ、ね?」

「えっ」


 突然のおばあちゃんからの言葉に、お母さんの箸が止まる。昔にいたってなんで過去形なんだろう。私は横目でお母さんを見る。


「その方とは今は、交流はないのですか?」


 レオも気になったのかお母さんに訊く。


「そうね。ちょうど二人と同じ高校生の時に、ね。でも、今はどうしているのかな」

 

 お母さんはそう言って、遠い目をする。その当時の事を思い出しているのだろうか。その顔はどこか悲壮感とも違う、ただただ残念そうに見えた。

 なんだか、さらに踏み込んでいけない雰囲気になってしまった気がする。レオもそれを察してからなのか、それ以上はなにも訊くことはなかった。


「まあ、二人はいつまでも仲良くいてくれ」


 お父さんが私たちに向けて笑っていう。私とレオは頷く。お父さんもさっきある人から影響を受けたと言っていたけど、もしかしたら、お父さんも……。

 私たちは、また美味しい料理を堪能する。しかし、私はさっきの話が頭から離れることなく残っていた。

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