⑦
居間に戻ると、お父さんの姿が見えなかった。
「あれ、お父さんは?」
キッチンにいるお母さんに問いかける。
「お父さんのとこに行ったわよ」
なんか字面だけ見ると、意味の判らないことこの上ないが、つまりお父さんが私のお爺ちゃんのとこに行ったということだ。レオの隣に座ると、ちょうどいいタイミングでお祖母ちゃんが切ったスイカを運んできてくれた。おお、待ってました。
皿にカットされたスイカとフォークが置かれる。なんと綺麗な赤だろうか、もう見ているだけで、もうよだれが止まらんよ、これは。私は、フォークで見える部分の種を取ると、ついに待ちわびたその瞬間を迎える。
口の中に最上の甘さが広がる。美味しすぎかよ!
「甘くて美味しい」
「でしょ!」
レオもこのスイカの美味しさにびっくりしているようだ。
「こんなに甘いスイカ初めてかも」
私たち二人の手が止まる事はなかった。夏にはやっぱりスイカだな、などと考えつつ食べる手が止まることはなかった。
「二人とも、良い食べっぷりね」
お母さんが私たちの対面に座る。お祖母ちゃんはまだキッチンで何かをしている。
「お母様。よろしいでしょうか?」
「なに、愛ちゃん?」
スイカを食べる手を止め、フォークを皿の上に置き、レオはお母さんに質問する。
「お母様には、御兄妹はいるのですか?」
「ええ。兄と妹がいるわよ」
叔父さんと叔母さんたちには、会ったことがあるが、どちらも何というか個性的な人たちという印象が強い。叔父さんは結婚していて、サラリーマンをしているが、後々はこっちに帰ってきて農業を継ぐと常々言っているらしい。今は、まだ
叔母さんは、凄く自由な人だ。私は一生独身令嬢だーと言って、三十になっても体力が衰えるどころか、老いてますます盛んというやつなのか、これを言ったら怒られるのでここまでにして。そんな叔母さんは世界各地を旅しており、時々そのお土産を持って我が家に来ることがある。その度に、滞在先での事を色々と話をしてくれるので、私にとってはとても大好きな叔母である。
「そうなんですね。ありがとうございます」
「何か気になることでもあったの?」
「いえ、たいした事ではないのです。勝手に入ってしまって申し訳ないとは思ったのですが、どうしても気になってしまって、二階のある部屋に入ってそこに様々な物が置かれていたので、もしかしたらと」
「ああ、二階の物置部屋の事ね。全然気にしなくていいのよ、我が家だと思って好きにして構わないのだから。でも、あそこは片付けが行き届いていないから、気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
あの部屋には、それこそ男の子が好きそうなおもちゃもあったし、雑誌や漫画のジャンルも多岐にわたっていたから、聞いたのだろうけれども。
「ねぇ、レオ。お母さんに訊いてみない、あの手紙の事」
「それは、まだ早いよ」
私はレオにしか聞こえないぐらいの声量で話かける。もしかしたら、何か知っているのではと思っての提案だったが、レオはそれを却下する。しかし、まだ早いとは一体どういうことだろう?
「少なくとも、残り二通の手紙の中身を確認してからでも遅くはないよ」
レオはまだ、この謎を楽しみたいらしい。私は了解と小声で言うと、スイカを食べるのを再開する。今は、この至上の時間を楽しむとしよう。私はフォークを手に持つ目の前の赤い果実を食べる為に突き刺すのであった。
おやつタイムが終了すると、夕食まではまだ時間があるので、私とレオは再び二階に上がる。目的はもちろん物置小屋にある例の手紙を見る為である。私たちは、部屋に着くとさっそく缶を手に取る。
レオは缶の蓋を取ると、中から例の封筒を取り出す。取った封筒の消印は、最初の封筒から二週間が経っていたので、おそらくこれが次の手紙だろう。
封筒の宛名と差出人の名前に変わりはない。レオは迷うことなく中から便箋を取り出す。もう、一切の迷いがない。あんな長い言い訳を早口で言った人間と同一人物とは思えない。いや、そうでもないな、うん。
レオが中から取り出した便箋は、最初の手紙とは違い一枚ではなく、何枚かあった。二回目ともなると、やはり伝えたいことの量は増えるのだなと思った。今度は一体どんな内容になっているのかなっと。
レオの横から便箋に書かれている内容を読んでみる。内容自体は前回と同じような感じだ、書いた人物の近況が書かれていた。学校での出来事、夏休みになってから部活でもしかしたら返事が遅くなるかもしれないといった内容、そして、届いた手紙の内容についての返事が主だった。封筒の消印を見ると、七月の中旬、つまりあと少しすれば夏休みに入るわけだ。
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