⑤
「それじゃあ、僕は先に戻ってるから」
「うん。ありがとう」
「ありがとうございます」
お父さんは扉を閉めて、部屋から出ていく。
「それにしても、レオ荷物多いね」
私はずっと気になっていたことを訊いた。
「そうかな」
「まあ、私がそんなに荷物をあまり持ってきていないっていうのもあるけど」
「備えあれば憂いなしというでしょ。それに、あまり外泊の経験がないから、私」
「えっ、そうなの?」
レオが頷く。
「だから、少しワクワクしてる」
「そっか」
相変わらず冷静ないつものレオにしか見えないが、内面は違うらしい。まあ、レオが楽しんでいるのなら嬉しい。
「そういえば、気になったのだけど」
「…」
キャリーケースを開けて、中の荷物を確認しながらレオが訊いてくる。キャリーケースの中身をしっかりと見るわけにはいかないので、チラチラと見るが、中は着替えなどが、主なようだ。しかし、なるほど、ほーお、ふーん。
「しずく、聞いてる?」
「はっ、ごめん。どうしたの?」
しまった。あまりにも見ることに集中し過ぎてしまった為にまったく話を聞いていなかった、これではただの覗き魔では、いや、同姓だから……やっぱり背徳感が半端ではない、これ以上は止めておこう。
「この部屋以外の部屋ってどうなってるの?」
「えーと、階段から上がって右側にある部屋が、お父さんとお母さんが泊まる部屋で、正面の部屋は物置として使っていて、この部屋の隣は、この部屋と同じく空き部屋だったはずだよ」
「そうなんだ。ちょっと中覗いて見てもいいかな?」
「うん。大丈夫だと思うよ」
言うが早いか、キャリーケースを閉じると、レオは部屋から出て行こうとする。
「ちょっと待ってよ」
私も後に続く。ここに来てからレオの好奇心がずっと疼いていたのだろう。目がキラキラしているのを私は見逃さなかった。
レオは部屋を出ると、物置として使われている部屋にまっすぐ向かう。部屋のドアノブを回して部屋に入る。物置だし鍵なんて掛かってるわけないよね、うん。でも、レオさっきまで借りてきた猫みたいな感じだったのに、今はいつものレオに戻っている。一切の迷いが感じられない。
まあ、私はこの部屋にあんまり入ったことないから、ちょっと気になってきたから、ちょうどいいか。私もレオのあとに続いて部屋に入る。
部屋は私たちが使っている部よりかは広いが、色々な物が置かれていて、比べてしまうとこっちのほうが狭いと思ってしまう。レオはというと、それはもうお宝を見つけて子供の如く目を輝かせている。もう私にはただのゴ…壊れかけのおもちゃのようなものを拾っては、一人でうんうんと頷いている。
しかし、こうして部屋の中を見回してみると、本当に様々な物が置かれている。使わなくなったであろう机やイス、古い本がビニール紐で縛られて山のように積み重なっている。衣装箪笥もあるから、着れなくなった服などもあるのかもしれない。おじいちゃんとおばあちゃんって意外と物が捨てられないタイプなのかな。
レオは未だに発掘作業をしているので、これはまだ当分かかると踏んだ私は、少し暇を持て余していると、さっきの衣装箪笥の上に、円形のクッキーの缶が乗っているのに気が付いた。なんだろうと、気になった私はそれを手に取る。
その缶は見た目からは想像できないほど軽かったが、軽く振ると、中から何かが当たる音がする。この缶の中に何か入ってる?
これで、開けたら中は虫の死骸とかだったら最悪だなと考えて、開けるか迷う。
「しずく、それは?」
私が、迷っていると、探索途中のレオが私が持っている缶を見ながら言う。
「中に何か入ってるみたいなんだけど…」
私が開けるかどうか迷っていると、レオが私の手からその缶を奪うと、いや実際この表現が正しい。取られた瞬間が判らんぐらい早かった。なんの躊躇もなくその缶を開ける。
私は思わず、手で顔をガードするという防衛本能を起動させたが、レオの方から特段強い反応はない。恐る恐る私はガードを下げ、缶の中身を確認すると、そこにあったのは、
「手紙?」
そうそれは、白い封筒であった。私が何故それを手紙と思ったのかには、わけがある。その封筒は縦のものではなく、横型だったからである。手紙は一通だけではなく、何通かあるようだ。レオは、その封筒を手に取る。全部で三通だった。
「随分古いもの。二十二年前の物だね」
「どうして判るの?」
「これ」
そう言うと、レオは持っていた封筒のある部分を指差す。
「なるほど。消印か」
そこには、消印がしっかりとあり、今から二十二年前の物であることを証明していた。だが、ある部分に私は違和感を抱いた。
「誰?」
思わず言葉にしてしまった。
「ということは、しずくはこの名前に心当たりはないのね」
「うん」
その封筒にあった宛名の名前は私が知らない名前だったからである。
「お母様の旧姓は
「あれ、なんで知ってるの?お母さんの旧姓」
「玄関に表札があった」
「ああー」
そう言えば、立派な表札があった。でも、余計に判らない。この犬川雫なる人物は誰なのか、親戚にもそんな名前の人は私が覚えている限りいないはず。
「差出人は、
私は、封筒の裏の差出人の名前を見て、私は眉を顰める。猫山家にある犬川性の宛名の手紙、そして明らかな偽名の差出人。この、宛名の名前が私と一緒だから余計に何か気になる。
「この住所にも心当たりはない?」
「うん」
封筒の裏に書かれている住所にも覚えはない。
レオは封筒をしばらく眺めていると、おもむろに封を開けようとする。
「ちょいちょい、何やってんのレオ!」
親友のいきなりの行動に思わず大きな声が出てしまう。
「なに?」
「なに? じゃないでしょ! いくらなんでも、それは駄目じゃないかな」
気になる気持ちは判るが、それはいろいろとアウトな気がする。プライバシーとかやっぱりあるしさ。気にはなるけど。
「もう封は切られている。もし、この封筒を貰った本人がどこに仕舞ったのか忘れてしまったかもしれない、ならちゃんと持ち主に返さないといけない。でも、今の段階では何にも手掛かりがない。だとすると、申し訳ないけれど、もっと情報を引き出すとしたら中の手紙を見るしかない。幸い手紙は封筒に入っているみたいだし。二十二年前の手紙をこうして保管していたという事はやっぱりこれは相当大事なものだったはずだよ。なら、届けてあげないと。それが、見つけてしまった者の宿命と言っても過言でない」
「お、おお…」
早口言葉と思ってしまうほどの銃弾乱射に撃ち抜かれてしまって、私は怯んでしまう。
「決して私の好奇心ではない」
「もう台無しだよ」
本当にすべてを台無しにする一言だよ。レオの好奇心の強さは知ってる。それが勝ってしまうと、レオの中から常識という言葉は紙くず同然となり、非常識という価値観が流行する。本当に、もう。
「…しょうがないなー。一緒に怒られてあげる」
「しずく…お主も悪よなー」
「いえいえ、レオさんほどでは」
「じゃ、見ようか」
「変わり身早」
お代官様ごっこ終わるの、早。なんか、恥ずかしいよ普通に。レオは、もうすでに封筒から手紙を取り出している。躊躇がなさすぎる。
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