③

「そういえば、詳しく訊いてはいなかったけど、これから向かうところはどんなところなの?」

「あれ、言わなかったけ?」

「帰省するという話しか私は聞いていないから、詳しくは知らない」


 確かに、思い返してみても、ここまでの流れがすべて急過ぎてレオに話をした覚えはない。それでも来てくれるこの隣の親友は良い奴だ。


「えっと、今から行くのは、お母さんの実家なんだ。どんな場所かって訊かれたたら、自然豊かなところかな。周りは山に囲まれているし、避暑地って感じ」

「まあ、言ってしまえばただの田舎よ」


 お母さん…私がなんとかいい感じで濁していたのに、そんなあっさりと。


「そうなんですね。私はあまりそういう場所にいったことがないので楽しみです」

「レオ…」


 あんた良い子過ぎんか。


「まあ、田舎といってもそこまで不便があるわけじゃないし、大丈夫だろう。お義父さんとお義母さんも今年のスイカは甘くていいやつが出来たって言っていたからな」

「あと、張り切って美味しい御馳走用意するとも言っていたわね」

「おじい様とおばあ様は、農家の方なのですか?」

「そうだよ。結構広い畑もっていて、たくさんの種類の野菜を栽培してるよ。そうかー、今年スイカ食べられるのか。やった!」

「そんなに美味しいのね」

「もちろん。レオも楽しみにしていてよ」

「ええ」


 私が作ったわけではないのだが、二人が作る野菜はどれも美味しい、毎年の夏の楽しみといっても過言では決してない。普段食べるスイーツもいいが、おじいちゃんの家で出されるスイカなどはそれに匹敵するぐらい美味しい。ああ、思い出しただけでよだれが…。


「俺は昔、スイカが苦手だったけど、あるきっかけで好きになったから。お義父さん達のスイカは楽しみだな」

「そういえば、そうだったわね」


 へぇ、お父さんは昔スイカ駄目だったのか、もし今でも苦手だったら、あの美味しいスイカを食べられなくて、もったいない思いをしていたから良かったね。


「ちなみに、さっき山に囲まれているって言ったけど、その山から川が流れていてね、上流に行くと、滝とかもあって凄いんだよ」

「それは見てみたいかな」


 よーし、向こうに着いたら全力でレオを案内してあげよう。私にとっては遊び尽くしている庭のようなものだしね。


「あんまり、変な所に愛ちゃんを連れ回しては駄目よ」

「そんなことしないよ」

「そう言って、昔はよく迷子になっては泣いていたじゃない」

「いや、それは子供の頃話じゃん!」

「今も子供だろ」


 そう言ってお父さんとお母さんは笑う。もう、レオがいるのにからかってくるこの両親はどうにかならないものか。って、レオも笑わないでよ。


「一つ気になったのですが、いいですか?」


 レオは一頻笑った後に、私の両親に対して質問する。


「うん? なんだい、愛ちゃん」

「今回はお母様のご実家ということですが、お父様のご実家には行かれないのですか?」

「ああ。僕の実家は僕達の家から近くてね。先に妻の実家の方に行ってからでも大丈夫なんだよ。まあ、僕の家は俗にいう転勤族というやつでね。あまり、実家感はないんだけどね」


 そう言いながら、お父さんは笑う。というか、二人はレオに自分達のことを、お父様とお母様と呼ばせている。なんだか、知らないがそう呼んでと頼む二人は、普通にドン引きである。そして、それを恥ずかしげもなく了承するレオにもドン引…いや、豪胆な性格をしているなー。レオ、その私の心の中を全て見透かしているような顔は止めてもらっていいでしょうか。


「私の両親はどちらも実家が地方の方ではないので、少しワクワクしています」

「やっぱり誘って良かったわ」


 一体いつから計画してたのやら、本当に我が両親はレオが絡むとこんなに怖くなるのだろうか、両親の知られざる一面を知ってしまって本当に恐怖でしかないよ。


 はあ、さっきまではウキウキ気分でいたが、なんだか若干の不安を感じてしまう。一体どうなるのだろうか、この夏は。

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