第二章 夏の手紙

 ①

 夏は季節の中でも、いろいろなイベントが世の中にある。海やプールで遊んだり、山にキャンプに行ったり、花火大会、お祭り、などなど楽しみがたくさんある。ましてや、私たち学生にとっては、夏休みという名のご褒美期間のような時間がなんと約一か月もあるのだ。なんと素晴らしい事だ! 毎日が幸せな日々だ、なんてった夏は楽しいイベントだらけなのだから。あることを除けば…だが。


 そうそれは、宿題という名前の怪物である。これが、普段の比ではない。もう、なんでこんなに出すのかというほど、めちゃくちゃ量があるのだ。なんなのよ! そして、私は現在その怪物を絶賛討伐中なのだ。その場所は、自分の部屋ではない。なぜならば、自分の部屋では決して素直に討伐することができないから。自分の家というのは、誘惑だらけなのだ。


 そこで、勉強する定番といえば図書館だろう。しかし、図書館はこれまた私と同じ考えを持つ人達でいっぱいだった。こうして、私は勉強する場所を求めた。喫茶店などのお店に入るには、私の懐事情が寂しい。さて、どうしたものかと、頭を悩ませていると、私の親友からベストタイミングで連絡がきた。思わず、周りを見回して、私の事を見ているのではないかと疑ってしまった。


 電話に出た私に親友は言った。今、部室にいるけど来る? というものだった。そうか、部室という手があった! 私は部活に所属していることをすっかり忘れてしまっていたのだが、まあ活動内容が内容だからな…。それに、自分の意思で入ってわけでもないから、どうしても忘れてしまうのは致し方ない。


 忘れていた事は棚に上げて、私は二つ返事で了承すると、その足で部室に向かったのであった。そして、現在私は不思議探求部の部室で絶賛ダラダラ…することは出来ず、目の前の親友こと獅子谷愛ししたにあい、私はレオと呼んでいる。なぜ、レオかと言うと。まあ特に捻りもなく名字からくるアダ名なのだが。レオにアシストしてもらいながら、怪物討伐をしているわけなのである。


 ちなみに、レオはもう単独撃破しているらしい。早すぎでしょ! まだ、夏休みが始まって一週間やぞ! その賢さを私にも分け与えて欲しいものだ。


「レオはそういえば、どうして部室に来てたの?」


 怪物退治の傍ら、私は目の前で麦茶を飲んでいるレオに訊く。部室にはエアコンという文明の利器はなく、扇風機が一台絶賛首振りして、仕事を全うしている。だが、この扇風機は、レオがどこからともなく錬成してものである。どうやって手に入れたのか訊いても、しずくは知らなくてもいいことの一言で済まされてしまっている。まあ、他の部室には扇風機すらないわけだから、これ以上の詮索はいらんな。この扇風機のおかげで少しは涼めているわけだから。


「しずく。ここは不思議探求部の部室、ならやるべきことは明白でしょ」

「?」


 私は本当に判らず、頭の上に?マークを浮かべる。

 そんな私を見たレオはため息を吐く。


「部室ですること言えば、一つ。部活動に決まっているでしょ」

「ここで、活動するようなことなんてあったけ?」


 春にちょっとした事があったが、正直私はあれ以外に活動らしい活動は何一つした記憶がない。というか、不思議探求部の活動自体私はしっかり判ってはいないのだが…春の私が大いに関わっていたから、覚えているが。


「常にあるよ」

「常に?」

「今まさに」

「…それって、私の課題を終わらせることが活動ってこと?」

「……」


 いや、無言でパチパチしないでよ。なんの拍手だよ! なにか、私が、一人で課題をできないことが不思議ってことかな、レオさん。


「……」


 立って拍手するな! 確かに、教えてもらっているけれども、結構難しいし、量は多いし、大変なんだよ、普通は! 貴様基準で考えるな!


「まあ、このくらいしかないのもまた事実」

「このくらいっていうなよ! しかも、結局活動することないってことじゃんか!」

「そうとも言うね」

「他に言いようはないよ!」


 結局レオが私をここに呼んだ理由は、有体に言えば暇だったのだ。まあ、部活動という名の暇つぶしに夏休みの宿題を見てもらえるのだから、なんだかかんだで、レオは友人思いの私の自慢の親友だ。だが、夏休みだというのに私はまだ、休みらしいことを何一つしていないなあ。あっ、そうだ。


「レオ」

「どうしたの、しずく?」


 レオは、いつの間にか読んでいた本から視線を私に向ける。というか、どこから出したの、その本は? まあ、今はその疑問は置いておくとしてだ。


「レオは、来週って暇だったりする?」

「来週……別に予定はないけど」


 レオのお父さんとお母さんが、今は海外で仕事をしているのは知っている。もしかしたら、向こうでこの夏休みを過ごすかもしれないと思ったが、そうではないようだ。


「だったら、レオさえ良ければなんだけど…」


 こうして、私はレオにある提案をする。その、提案がきっかけで私は春にあった出来事と似たような事件というには少々大袈裟な表現になってしまうのだが、そう、言うなれば、部活動をすることになるとは、この時の私は知らなかった。

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