⑬

 またもレオは満足そうにうな……ずくことはなく、紅茶を飲んでいた。ええー、さっきと落差があり過ぎませんか、レオさん。レオは紅茶の入ったコップを置く。


「そう。この手紙の指定した場所は亀山町の桜並木だと思う。でも、私にはどの桜の木の事を示しているのかまでは分からなかったから、ああいう言い方になってしまった」


 レオの話を聞いても、やっぱり私にもどの桜の木なのか見当もつかない。


「レオ、亀山町の桜は私も見に行ったことはあるけど、私にも、どの桜かは分からない

よ。レオの考えだと、Xと私は親しくて、この手紙を読めば、二人の共有している場所にたどり着くわけでしょ。でも、どんなに考えても私にはその場所が判らない」


 亀山町の桜、あの場所で何かあっただろうかと思い出してみても、何も思い出せない。


「しずく」


 そんな迷路に迷い込んだ私に、道を指し示すかのように優しく声をかける。


「その疑問に答える前に、私がどうして亀山町の桜だという答えになったのかを話してもいい?」

「えっ、うん」


 私のこのモヤモヤした霧を晴らし、ゴールまで導いてくれると思っていたのだが、どうやら違うようだ、少し肩透かしをくらってしまったが、私自身レオがどうして、亀山町の桜をという答えに行きついたのかは気にはなっていたから、いいか。きっと必要なことなのだと私は自分に言い聞かせた。


「しずくから話を聞いて、この手紙を見てすぐは私にも何がどうなっているのかは分からなかった。ただ、この言葉からこの恋文は呼び出す為のものなのは明白だった。そして私は、この手紙の桜模様に意識を向けた時、私はある物を思い出した、いいえ、気付いたという方が合っているような気がする」

「ある物?」

「それは、しずくも知っている」

「私も…知っている」


 はて、何のことだろうか。レオは、桜模様からそのある物に気付いたというが、顎に手を持っていき考えるが、やっぱり私には何のことなのかは判らなかった。


「そんなに難しく考える必要はないよ。しずくは、ほんの数時間にそれを実際に見ているから」

「そんな直近で……」


 数時間前に私はそれを見ている、そして、桜模様、桜……そこで私は思い出した。いや、レオの言う通り気付いたというべきなのかもしれない。顎から手を離し、レオに言う。


「そのある物って、あの絵の事だよね」


 私の言葉にレオは微笑む。その反応から私の考えが当たっていることは間違いないだろう。


「あの絵は昇降口の廊下にあるから、いやでも生徒は必ず目にする。恋文をその場で開封して、見る可能性はほぼ無いと言ってもいい、なぜならその時には周りには登校してきた生徒たちでいっぱいだから。貰った当人は当然、後で一人になれる場所で読むはず。そして、手紙の内容と桜模様の便箋が目に入る、そこからは記憶を辿り考える。そして、気付くのではないだろうか、つまりあの絵も桜だったいうことに」

「ちょっと待ってよ。レオの話だと、あの絵を見た前提での話になってるけど、もしも見ていなかったら? 見ていなければ、その発想にはならないよね」


 レオは私の反論を待っていたかのように、


「それは、早いか遅いかの違いだけで、絵がある位置を考えれば必ず目につく場所にあるのだから。仮に朝、登校した時に見ずに手紙を見ても、その後見る機会はある。しずくは、実際に手紙を見て、その後にあの絵を見ている。見る順番は前後しても構わない、どちらも見て知っていることが重要だった」


 レオの言う通り、あの絵は昇降口と各学年の教室がある東校舎をつなぐ廊下にある。生徒は必ずその前を通るわけだから見ないということはまずないだろう。だけど、


「なんで、あの絵から亀山町ってことになるの?」

「もう忘れたの。ついさっき猪頭君に確認した時にあの絵は亀山町の桜がモデルだと思うと言っていたでしょ」

「あっ…」


 あいつの存在を綺麗さっぱり頭の中から消していた。そういえば言っていたな、そんなことを。


「だからこそ私は、この手紙が指し示す場所は亀山町の桜並木のどこかだと考えたわけ」

「なるほど…って、ちょっと整理させて」


 あの手紙は告白場所に呼び出す為だった。その場所はあの絵のモデルになっている亀山町の桜並木のどこかということ。でも、それって、


「ねぇ、レオ。その考えだと、Xとその想い人はこの絵のモデルがどこだったのかを知っていることになる。でも、私がそのことを知ったのは、猪頭から話を聞いたから。あの絵だけからは私は、どこの桜か分からなかった。絵を見ただけで分かるのは、あの絵が描かれた状況を知る美術部、顧問、そして、作者本人だけ。あの絵は、今日の月曜日にあの廊下に飾られて、生徒が知ることになった。そして、このラブレターはあの絵を指している、つまり書いた時絵の事を知っていた人物。だとすると、この手紙の差出人のXは」

「しずくが思っている人物と私が思っている人物は合っているよ」

「Xの正体は、作者」


 未知が、未知でなくなる。

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