⑫

「ごめん。あまりにも楽しくて」

「レオだけだから、それ。いいから、脱線した話を元に戻しても?」

「そうだね。しずくの言う通り、花ないし花弁が萎れてしまい、結果的に伝わらない可能性は大いにあり得る。でも、恋文を出す直前に用意することは出来なかったというわけではない」

「つまり、私の下駄箱に入れる直前に用意して入れることは可能だったってことだよね。そう言う根拠は?」

「もし、しずくが恋文を出すということになったら、相手の事は当然よく知っているよね?」

「当たり前じゃない」


 なにを今更。相手を知らずしてどう好意を伝えるというのか。


「なら、ある程度相手の行動を知っている…例えば、相手が大体どのくらいの時間に登校するのかとか」

「なにそれ、怖い」


 それは、もはやストーカーでは…レオの新たな一面を見た気がする。そっか、レオは好きになった相手は徹底的に調べ尽くすタイプか。


「言い方がちょっと悪かったわ。恋文を下駄箱に入れるにあたって気を付けるべきは、相手ないし他人に見られたくはないのが普通だと思う。となれば必然的に人があまりいない時間に下駄箱に入れる」


 レオの言葉を聞いて私にもある程度理解できた。


「その時間帯は早朝、あまり学校に生徒が登校していない時間ってことだね」

「そう」

「でも、Xよりも早く登校する可能性はあるよね?いくら、相手の事を知っているっていってもその人の行動すべてを分かっているわけじゃないでしょ」

「何を他人事のように言っているの?この恋文はあなたの下駄箱に入っていたのよ」

 机に置いてある手紙を指指しながら言う。

「それがどうしたの?」

「あなたという人間を知っているのならば、早朝に恋文を下駄箱に入れても間に合うことは明白」

「?」


 本当に判らないという反応をする私に、レオは一つため息をつくと、紅茶の入ったコップに口を付け、コクリと喉を鳴らすと、コップを置き私に視線を合わせる。


「しずく、あなたの遅刻癖はまあまあ知れ渡っていることよ」

「ちょっと待って! そんなことないでしょ!」

「いや、生徒室指導室に連れて行かれて、その翌日も遅刻してくる伝説を一年生の時にした人物がどの口で否定するの」

「ぐう!」


 それを言われてはぐうの音もでない。いや、言ってしまったが。だが、それは一年生の時の話、今では、かなり改善されている……はず。


「しずくが朝早くに登校する可能性は低い。それどころか、遅刻する可能性すらあった。Xは桜の花ないし花弁を用意して、それを同封することだってできた」


 名誉のために言うが、二年生になってからはまだ遅刻していない…まだ。


「ここで同封さていなかったという点に注目して考えた時、この手紙の桜模様は花言葉ではなく、何か違う意味を持っているのではないかという考えも出てくる。」

「違う意味って?」

「私がこの恋文は呼び出す為に出されたものだと言ったよね。だとすると、やはりこの模様はXが、相手を呼び出したい場所のヒントないし場所だと私は考える」


 レオの言葉を聞いて、私はコーヒーを一飲みして、考える。桜模様の意味を花言葉による意味での好意を伝えるためのものではなく、呼び出す為のものだと思ってる。だとすると、そういう考えだとするならば、ラブレターにある言葉とこの桜模様を関連していると思っていいだろう。とういうことは、


「その場所は桜の木があるところってことだよね」


 私の答えに、レオは満足そうに頷く。


「でも、その桜の木がどの桜の木なのか私には分からないんだよね。そんなところで、誰かと何か、それこそ異性と何かあったなんてことないし」

「私にもそれが、どの桜の木なのかは分からない」


 どの? レオはすごく引っかかる言い方をする。その言い方だと大体の場所は見当がついているみたいではないか。私のそんな思いに気付いたのか、


「しずくの思っている通りだよ。私には、おおよそここではないかという場所の見当はついたよ」


 そんな風に自信があるのだろうか、その言葉には揺らぎが無いように聞こえた。でも、貰った本人である私が全く分からないのに、どうしてレオには分かったのか。私は聞かずにはいられなかった。


「その場所はどこなの?」

「しずくもその場所は知っているよ」


 私が知っている場所……そう言われると、私の思い浮かべるところは一つしかなかった。


「亀山町の桜」

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