⑪

「でも、それのどこがヒントになるの?」

「もしこれが、女性が差出人Xだとするならば、また違う考えになるのだけど…書かれている文章の印象から男性と考えて良いと思う」

「その考えはなかったよ…」


 同姓からのラブレターなど貰ったことがないし、そんな好意を寄せられたことすらない。できれば、異性からの好意の方が嬉しい。まあ、百合作品を少しばかりかじっている私としては、その展開もありかなしかで言えば……ではなく。


「意中の相手に出す手紙にこの手紙を選んだ理由…可愛いからとか」

「その答えが可愛いよ」


 恥ずかしい。


「真面目に答えたのに、茶化すのは止めてよね。じゃあ、レオならどう考えるわけ?」

「ごめん、ごめん。そうだね、女子がこの手紙を選んだのならその考えもありだと思うけど、これを男子が送ったと考えたとき、果たしてこの柄を選ぶかと言われれば違和感はある」

「でも、絶対じゃないでしょ」


 私は少しだけ意地になって答える。けして、さっきのことを根に持っているわけではないのだが。


「そう、絶対ではない。けど、そんな感性の持ち主ならば、この手紙の内容はやっぱり違和感が出てくる。それならば、いっそのこと何か意味があるものと捉えた方がしっくりくる気がする」

「じゃあ、どんな意味があるっていうの?可愛い以外に」

「偶々手に取ったのがこれだったから、そのまま使用した」

「うそでしょ」


 あれだけ意味があるとゴリ押ししてきたのに、そんな理由であってたまるか!


「うん、冗談」

「ここでその冗談は必要ないよね」

「場を和ませようかと」

「別にそういう雰囲気になってないから、それこそ意味がないよ」

「しずくが可愛いに囚われているから、その考えから脱獄させようかと」

「別に捕まってないし、脱獄させる方法が雑過ぎる」


 可愛いの個室に投獄などはされていない。ただ、茶化されたことに対しては固執していたが。


「場が和んだところで」

「最初から場は和んでいるけどね」

「桜模様から考えられる事。例えば、桜というものに何か意味があるとしたら…」


 私の指摘をまるでなかったかのようないつものやり取りに、慣れてしまったな、私。しかし、桜自体に意味がある……それって、


「もしかして、花言葉…」


 私は自分のスマホを取り出すと、すぐに桜の花言葉を調べる。桜の花言葉は、精神美、優美な女性、純潔、これらが一般的な意味らしい。しかし、改めて知るとこそばゆい。この意味が私に向けられたものだと考えるとだが。


「レオ、もしかしてこの手紙に好きとかの言葉がないのは、この桜模様自体言葉の代わりだったってことじゃない?」


 そうだ、花言葉で想いを伝えるとは、なかなか洒落た事を考えるではないか。


「しずくの言う通り、花言葉で伝えたとも考えられる」


 うん? 引っ掛かる言い方だ。


「レオは違うことと思うの?」

「確かに花言葉で好意を伝えるというのは、とても素敵で、女性なら憧れるものの一つだと思う」

「レオはそういうのが憧れなんだ」

「一般的にはという話」

「いや、絶対主観で話してたでしょ」

「一般的にはという話」

「あ、はい」


 レオの知られざる内面の一つを知れて、少しだけ嬉しさを覚える。だって、いつも私ばかりが一方的に知られてしまっているようで、バランスが取れてなかったし、それにどこか遠くに感じるレオが少しだけ、近づいた気がして嬉しい。


「もし、花言葉で伝えるのならば、どうして模様なのかという疑問がでてくる。」

「別に模様で良いと思うけど」

「ちょうど、桜が開花して見頃のこの時期に?」

「近くに桜がなかったとか」

「隣町に有名な桜並木があるのに?」


 そう言われれば、隣町の桜が開花して、昨日の休日は人がすごいことになっていたとニュースでやっていたのを見た。でも、


「ほら、桜の木って折ってはダメって聞くし、本物を用意するのは気が引けたとかかもよ」

「だったら、花弁でも良かったと思わない?花言葉で伝えたいのなら、本物を同封した方が模様に比べて分かりやすいと思うけど」

「あれじゃない、花弁とかって、すぐに萎れちゃうし、封を開けたときに桜の花弁と分からないと思ったんじゃないの」


 私の言葉にレオはびっくりした表情を見せる。


「ど、どうしたの?」

「今までだったら、思考を放棄して私の言葉を鵜呑みにしていたしずくが、ここまで反論でいるようになるなんてって、成長したなって感激していた」

「なかなか言ってくれるね」


 褒めているのかどうか分からない、褒めてくれるならもっと素直に褒めてくれないだろうか。私は褒めて伸びる子なんですよ……まあ、レオはその辺も分かった上でのことなのではないかと勘繰ってしまう。


「それほどでも」

「いや、褒めてないからね! なんだったら、私を褒めてよ!」

「よく出来ました」

「雑!」


 あからさまな手抜きの誉め言葉に吠えたくもなってしまう。いや、吠えたけれども。そんな私の行動を見て、レオは口元に手を持っていきほほ笑んでいる。くっ、またいいようにからかわれている。

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