⑥
帰りのホームルームも終わり、今日の学校での仕事は終わりを告げた。しかし、私は今日一日上の空だったことは言うまでもない。結局午後の授業も集中することは出来なかった。まあ、いつも集中なんてしていないのだが。
「しずく、いい?」
帰り支度をしている私にレオが声をかける。どうしたのだろうか。答えは聞かなくても、ある程度予想は出来るけど。
「今朝の恋文の答えは出たの?」
ああ、そっちか! てっきり、あの絵のことを聞かれると思っていたけれども、まさかレオの方から振ってくるとは予想していなかった。でも、この問いは私にとっては渡りに船なのかもしれない。
「レオ聞いてくれる?」
「だと思ったよ。授業中も先生に指されても答えがでてなかったから」
「それはいつものことだよ」
「胸を張って言うことではないよ」
「誰が無い胸張っているって!」
「そこまで言ってない」
「じゃあどこまで言ったのさ!」
「もういい?」
「はい」
この不毛なやり取りをレオはあっさりと一刀両断する。もうちょっと付き合ってくれてもいいのでは!いいのでは!
「じゃあ詳しい話は部室で」
「うん」
正直この提案はありがたい。教室で私がラブレターを貰ったなどと判れば、日頃そういうのに飢えている狼たちに食い尽くされること間違いない。部室でなら、私とレオしか部員はいないし、漏れることはない。ただ、一言言わせてもらうと。
「いつも思うけど、よく部として認められたね? なにしたの?」
「秘密」
「さいですか」
あまり深く聞くのは止めておいた方がよさそうな案件だ。ウチの高校は部活動として認められるには、いくつか乗り越えなければいけない関門があるのだが、私たちの部活はそれを満たしているとはとても言い難い。それにも関わらずレオは部活として認めさせた。正直絶対何かあると思っているがいつ聞いてもはぐらかされてばかりだ。もうこれは、学校の七不思議としてカウントしていいと思う。
「行くよ」
「あ、待ってよ」
この件は考えるだけ無駄かな、うん。そうして私は考えることを止め、教室から出ていこうとするレオの後を追おうとする。
「お、今日も直帰か?」
そんな私に対して、声をかけてきたのは同じクラスで尚且つ隣の席の
「違うわよ」
「そうなのか。そいつは珍しい、帰宅部のお前が」
「帰宅部じゃないわよ。しっかりとした部活に所属しているわよ」
しっかりとしているかどうかは怪しいけれども。まあ、こいつにわざわざ言う必要もないから別にいいか。
「あれ、お前って帰宅部じゃないの?」
「私と同じ部活だよ」
「⁉」
私に代わりレオが答える。とういか引き返してくれたのか、本当に友情に厚い。それにしてもこいつびっくりし過ぎだろ。
「し、獅子谷さん。い、居たのか」
「うん。とは言ってもしずくが付いてきてないから戻ってきただけだけど」
それはすまいね、というかこいつはレオのことをさん付けしているのか、しかも妙にオドオドしている。まあ、接点なさそうだし。
「でもちょうど良かった。猪頭君に訊きたいことがあるの」
「え、俺に? な、なに?」
いや、慌て過ぎだろ。私に対しての態度との差が激し過ぎてびっくりだわ。しかも、なにちょっと期待を滲ませた顔している、万に一つも、億が一つもお前が考えているようなことはないから安心しろ。
「美術部について訊きたいことがあるの」
「へ、美術部のこと?」
「そう」
猪頭はがっくりと肩を落とす。貴様なんぞにレオの相手など百億万年早いわ! てか、こいつになんで美術部について訊くのだろう?
「猪頭君は美術部だったよね?」
「そうだけど…」
「えっ、あんた美術部なの⁉」
「そんな驚くことかよ」
「いや、だって…」
正直こいつが文化部なのが意外過ぎる。どちらかといえば運動部ですといった方が、しっくりくる。性格といい見た目といい運動部だろ、お前は。そんなギャップいらないんだよ。
「なんだよ、どうせ似合わないって言いたいんだろ」
「うん」
「ちょっとは否定しろよな。まあ、別にいいけど」
「似合う、似合わないで部活は決めるものじゃない。その人自身が何をしたいかで部活は決めるものだと私は思う。だから、猪頭君の意思があるのなら、それでいいと思う」
「獅子谷さん…」
なんだか私が嫌な奴みたいになってない、これ。まあ、レオの言う通りだけど、なんだが釈然としない…あれ?
「ねぇ、レオ」
「何?」
「私、気づいたらレオの作った部活に入っていたけど、私自身は別にしたいことがあって入ったわけではないんだよね。ということは、私は部活に所属しなくてもいいのでは?」
「それはそれ、これはこれ」
いや、どれがそれで、それはどれよ。理由になってないじゃないか! 昼にサボっていることを責められたけど、その理屈なら私は無罪ではないか!
「しずくにとって別に不都合はないと思うけど?」
「それは…そうだけど」
まあ、よくよく考えれば特にこれといって私に不都合はない。じゃあ、別にいいのかな。
「しずく、そんな簡単に納得してはダメ」
「じゃあ、どうしろと!」
そんな、私の反応を見てレオは軽く笑っている。もう! 私をからかってなにが楽しいのか
分からない!てか、猪頭!お前もお前でレオに見惚れている場合か! ああ、もう!
「で、レオはこいつに何を訊きたいわけ!」
私は強引に話の腰を叩きおり、間違ったレールに乗ったものを本筋に戻すべく、ビシっと猪頭を指差す。私に指され、マヌケ顔だということに気が付いたのだろう。すぐに切り替え、レオからの言葉を待つ。
「そうだね。放課後の時間は限られているし、寄り道は減らさないと」
「だったら、さっきのやり取りいらないよね!」
「脱線させたのは、しずくだと思うけど?」
私は無言で頭を下げた。
「グッドコミュニケーション」
今回はしっかりと好感度の回復に成功した。
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