第2話 就職。そして使用人へ

「ガチャ」


「お待たせ致しました。本日担当させて頂きます、藤沢と申します」


そう言いながら出てきたのは、26歳ぐらいだろうか。とても美しく、いかにも仕事が出来る雰囲気を出している女性だった。


「はじめまして、長谷川希海と申します。本日はよろしくお願いいたします」


「はい、よろしくお願いいたします。それでは早速、部屋の方へご案内致しますので後ろについてきてください」


「あっ、はい。分かりました」


希海と藤沢は互いに黙ったまま屋敷の廊下を進んでいく。


(…めっちゃ気まずい…!!)


希海がそんなことを思った時だった。突如として藤沢が口を開いた。


「長谷川さんはどうしてこの仕事をしてみようと思ったんですか?」


「…えっ…」


 咄嗟にそんなことを聞かれた希海は答えに戸惑ってしまった。元々働く意思もなく、親に働けと言われたがために応募しましたなんて言えるわけがなかった。


「えっと、まぁ…そろそろ働かないとなぁとは思っていましたし、いつまでも家にいるわけにもいかず、親にも怒られてしまって…」


 きっと、履歴書を見れば嘘をついたところでバレてしまうだろう。だから希海は嘘偽りなく働こうとした経緯を話した。


「なるほど、そう言った経緯で応募してくださったんですね。ちょうど男性の方を雇おうと思っていたので、結果の方は期待して待っていてください」


(……ん?今、期待して待ってろって言った?ちゃんとした面接もしてないのに?)


「では、こちらのお部屋にお入りください」


「あっ、はい。ありがとうございます」


そう言って藤沢はある部屋に入っていく。希海も藤沢に続いて部屋に入った。


「うあぁ…!」


藤沢に言われ部屋に入るとそこには見たこともないような光景が拡がっていた。


天井には大きなシャンデリア、その下には高級そうなソファやテーブルなど、希海はその美しすぎる光景に見とれてしまっていた


「すごくお綺麗ですよね、このお部屋」


多分、声をかけられなければ希海は黙ったまま見とれていただろう。だが、藤沢の一言で現実世界に呼び戻された気がした。


「あ、はい、そりゃもう王宮の1部屋みたいな感じで…!」


「喜んでいただけで良かったです!これからは、こちらのお部屋を自由にお使いいただいて構いませんので」


「…え?」


「改めまして、長谷川様。この度はご応募してくださってありがとうございました。面接の方は以上で終了とさせて頂きまして、明日から本格的に、業務内容の確認などをさせていただきます」


「それでは、本日はゆっくりとお休み下さい。何かあれば私はエントランスにおりますので、お越しください。それではまた明日」


急に藤沢が真剣な雰囲気になり、そう言って部屋を出ていこうとする。


「…?……え?」


希海は戸惑うしかなかったが何とか声を振り絞って聞いた。


「あのっ…!」


「…はい?なんでしょうか?」


「その…採用ということでよろしいのでしょうか……?ちゃんとした面接もしてない様な気もしますが……」


「あ~、そのことですか。面接ならしっかりとしたじゃないですか、歩きながら」


「……えぇぇ!?あれが面接だったんですか!?」


「はい!採用かどうかは私が決めてしまって良いとの事でしたので、嘘をつかないその心を見越して、採用とさせていただきました!」


そう言って藤沢は微笑みながら部屋を出ていった。


「……えぇぇぇぇぇぇえ!?」


部屋には希海の叫び声が残るだけだった。








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