Ⅺ.十まで聞いて、一を知る。

 毎日がおかしくなった。考えることの全ては立椛のことばかりだ。朝起きるとすぐ、立椛からのLINEを見る。学校に行く途中も、ずっと立椛とLINEをする。学校に着いても、毎休み時間、立椛としか話さない。放課後も、ずっと立椛と一緒にいる。夜も、寝る直前まで電話。どんどん生活が崩れていくのが身に染みるように分かる。

 依存しているのだろう。だが、やめることは出来ない。むしろ、立椛との関係は深まっていくばかりだ。

 お互いがお互い無しでは生きられない。それが恋愛?


 今日は十二月二十三日。終業式だ。明日はクリスマス・イヴだ。校長先生の長い長い話が終わり、二学期もついに終わりだ。ホームルームが終わるとすぐ、俺は立椛の所へ向かった。

「おまえ、明日明後日どうすんの、神川零に取られただろ。」

 聞き覚えのある話し声が聞こえた。八度達が、四宮悟と話している。

「仕方ねーよ。お前ら遊びにいこーぜ。」

 四宮悟の声がした。久々に見た。あの後、四宮はどれほど辛かっただろうか。実際、あの日から一週間ほど四宮は落ち込んでいたと聞いた。だが仕方ない。醜い奪い合い、それが恋愛の本性だ。そういうものなんだ。

 元気そうな四宮を見て、俺は罪悪感から解放されたような心地になった。


「零!今日も一緒にどっか行こうね!」

 立椛が近づいてきた。俺は頷き、立椛と共に下駄箱に向かった。

「やっほー立椛、神川君も。」

 五十嵐優花だ。他数名の女子と一緒に帰ろうとしていたところの様だ。

「優花!じゃあ、また来年ね!」

 立椛が手を振った。

「あんたたち、やっぱりいいカップルになったねー。」

 笑いながら五十嵐が言った。俺は何も言わずに靴を履き替える。

「いいカップルでしょ~。」

 笑いながら立椛が言った。

「ほら、愛想笑いぐらいしたら?」

 立椛が俺をたしなめる。

「知ってるだろ、俺は無愛想なんだよ。無愛想っていうのは、愛想が無いって書くんだよ。だから、愛想笑いはしない。」

 淡々と答える。


「神川君、また会いましたね。」

 家に帰る途中のことだった。また、聞き覚えのある声がした。蛇のように絡みつく声。十一伊織だ。俺は黙って舌打ちをした。

「無視しないで下さいよ、嫌われますよ、あのとき、みたいにね。」

 昔の俺なら、ここで逃げていただろう。だが、今は違う。失った自信は取り戻したんだ。

「嫌われてもいい。俺を好いてくれる人がいるからな。」

 俺の目は真っ直ぐと前を向いていた。

「へぇ、変わりましたね。」

 驚いたように頷きながら、十一は言った。

「見透かしたような口をきくな。」

 俺はその場を後にした。地面に散らばった落ち葉を踏みながら。


 俺は今、立椛と一緒にベンチに座っている。近くでは、サンタクロースの恰好をした人たちが、クリスマス関連の商品を売っている。今日は十二月二十四日。クリスマス・イヴだ。俺と立椛は、とある商業施設に来ている。

「ねえ、ちょっとトイレ行ってくるね。」

「分かった。」

 俺は、ベンチにもたれかかると、遠くを眺めた。

「神川君、だよね?」

 声がした。ふと見ると、知っている顔の女子が二人いる。

「え、もしかして、九頭竜さんと三田さん?」

 俺の、中学生の時からの知り合いだ。立椛や、北沢七海のことは知らない。

「なんかめっちゃカッコよくなってるー。」

 九頭竜晴美が言った。そんなことを言われても、なんとも思わないんだが。

「だいぶ雰囲気変わったよね。」

 三田美香が言った。変わったのは、数週間前から、なんだがな。相変わらずやかましい。

「なんか用?」

「いや、特に用は無いんだけど、見かけたから声かけただけ。あんたも変わってないね。」

 三田美香が言った。

「ふーん。」

 気の抜けた返事をした。

「ぼっちだったら、あたしが付き合ってあげようか?」

 笑いながら九頭竜晴美が言う。

「残念、俺は彼女がいるから。」

「マジで!おめでとー!」

 二人は興奮したようにキャーキャー叫ぶ。いつの時代も、恋バナというのは人気の様だ。俺は全く興味はないが。

一通り話をすると、二人はどこかへ行ってしまった。他にも数人と待ち合わせをしているらしい。

 入れ替わるように、立椛が帰って来た。

「お待たせ~‼」

「次は何する?」

 俺はすかさず尋ねる。

「次は…」

 立椛は笑う。

 冷たい風も、すっかり止んでいた。

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