Ⅷ.見透かされる心、吐き出す真実

「ごめん、俺、まずは謝らなくちゃいけない。」

 俺は立椛の目を見た。立椛は俺の目を見つめ返す。

「立椛の恋愛の邪魔して、ごめん。どうしても、四宮、あいつだけにはお前と付き合ってほしくなかったんだ。けどさ、普通に考えたら俺には何の権利も無い。だから、ただ単に俺って邪魔なだけだったよな。ごめん。」

 ここまで言うと、俺は猛烈な罪悪感に襲われた。罪を自覚した故の罪悪感。あの時と同じだ。俺の言葉で、四宮を傷つけた。膝から崩れ落ちた四宮の、呆然とした顔が思い出される。

 俺は俯いた。しばらく沈黙が続く。一秒一秒が重い。耐えられない。その時、立椛が口を開いた。

「謝らなくていいよ。むしろさ、感謝してるから。ありがと。」

「え?」

「だって、私のこと考えてくれてたってことでしょ?それに私、四宮君の告白断るつもりだったから。」

「そうなの?」

 驚いて顔を上げた。

「うん。迷ったんだけど…」

 そこまで言って、立椛は口を閉じた。

「どうしたの?」

「何でもない。とにかく、私、断りたかったんだけど、四宮君に悪いかなって思って、断り切れなかったの。だから、零が来てくれて、助かった。あり…がと。」

 立椛は顔を赤らめ、恥ずかしそうに言った。

「ふーん…。」

 俺は空を見上げた。良かったのか、良くなかったのか。分からない。ただ、好きな人から感謝されて悪い気にはならない。


「ちょっと、黙らないでよ!なんか気まずいし。」

 立椛が言った。俺は慌てて立椛の方を見た。

「悪いか?」

「悪い。どういたしましてとか何か言ったら?」

「感謝する側から指示しても意味ないじゃんか。」

「だとしても何かいえばいいのに。」

 立椛は真っ直ぐ前を向いた。


「それにしても、変わったよね、零。」

「え?」

 突然立椛の口から発せられた言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

「昔はさ、人のこと考えるとか全然なかったし、自分から謝ることもなかったのに。」

 親みたいなことを言わないでくれ。俺は変わってないつもりだが。黙った俺に、立椛はからかうように言った。

「まあ、成長成長!」

「おまえなぁ…。」

 俺はあきれたように笑う。

「よかった、笑った。」

立椛が笑った。

「あのさ、俺笑わない訳じゃないからな。笑うのが珍しいみたいに言わないでくれ。」

「でも零最近笑ってなかったから。最近っていうか、再開してから。ずっと、何かに怯えてるみたいで。」


 俺は驚いて立椛の目を見た。綺麗な目だ。透き通るようだ。まるで、俺の事も見通しているかのように。

「怯えてる?この俺が?」

 作り笑いを浮かべた。

「うん。」

 淡々と答える立椛。一体こいつ、俺をどこまで見透かすんだよ。これ以上話してると完全に見られる。本当の俺を。罪にまみれた穢れた俺を、見せたくない。俺は立椛を見た。

「そろそろ俺帰る。」

 立椛は驚いたように俺を見た。じゃあなと言って、俺はその場を後にしようとした。その時だ。立椛が叫んだ。これまで聞いたことのないような、必死の声だ。

「ねぇ、待って。どうして、どうして怯えてるの?何に怯えてるの?昔の零と違うよ。答えてよ。教えてよ。私、零が…。」

 言い過ぎたと言うように、立椛は言葉を遮った。立椛、何か隠しているな。

 俺は立ち止まり、立椛の話を聞く。

「聞いてあげるから、私が。零、なんでも話していいから。私は零のこと、絶対に嫌いにならないから。だから、教えて。私からの、お願い。」

 俺は恐る恐る立椛を見た。半田立椛。人間不信の俺にとっては稀な、本心で語り合える友達だ。


 俺は振り返って立椛を見た。そして、吐き出すように言った。

「俺はさ、前に、知らないうちに人を傷つけていたことがあるんだ。」

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