Ⅶ.告白劇には幸福など無い。
授業終わりのホームルームが終わった。俺がリュックを背負って立ち上がろうとした時、数人のクラスメートたちの話し声が耳に飛び込んできた。
「四宮が告るってよ。」
え?俺は耳を傾けた。嫌な予感がする。
「まじで?いつ?」
「この後告るって。八度が言ってた。」
八度とは、四宮の友達だ。四宮や立椛と同じクラスの男子生徒だ。
「相手誰なの?」
「半田さんだって。」
嫌な予感は的中した。四宮、お前だけには立椛と関わってほしくない。リュックを背負って立ち上がり、立椛のクラスに向かった。
「立椛さん、よければ俺と、付き合ってください!」
廊下を歩いていくと、声が聞こえた。四宮悟だ。興奮したような騒ぎ立てる声が聞こえる。俺は教室を覗き込んだ。教室の真ん中で、立椛と四宮が立ち並んでいる。その奥で、八度などの野次馬が数人、集まっている。告白を見物されても恥じないのか。厚顔無恥な奴だ。
「ちょっと、考えさせて。」
立椛が答えた。
ちょっと待て、考えさせて、と言ったということは、許可する可能性が少しでもあるということになる。駄目だ。あいつだけには。激しい感情が俺を襲う。これは、嫉妬…か?
「よっ。」
俺はわざと大きな声を出して左手を上げた。
「零⁉」
立椛が振り向いた。その顔には微笑みの影があったように思えた。同時に、四宮や、八度たちも一斉にこちらを向いた。
「よう、四宮。念願の告白か?おめでたいな。」
皮肉めいた口調で、俺は四宮に祝福の言葉を送った。
「神川零、何か用?」
水を差された四宮は、少し顔をしかめて俺を見た。相変わらず呼び捨てか。立椛はこっちを見つめている。四宮には悪いが、立椛は渡したくないんだ。一呼吸置くと、俺は微笑んで四宮を見た。
「クリスマスまでに彼女が欲しいんだな?頑張ってるじゃないか。下心が透けて見えるよ。」
立椛は四宮を見た。四宮は俺を睨んだ。
「ムード壊すようなこと言わないでくれるかな?せっかくロマンチックだったのに。」
「野次馬を許可してる時点でロマンもマロンもねーよ。告白ってのは、二人きりの時にするもんだ。立椛、そいつだけはやめとけ。」
俺は、立椛を見た。
「なんだお前、俺の邪魔をするのか?」
四宮がすごい形相でこっちを睨んでくる。その奥で、八度たちは笑っている。野次馬にとってはこの状況はどんなに面白いだろうか。それにしても、友達のくせに四宮に味方しないのか。所詮その程度の人間、ということだろう。
「本性を表したな、四宮?立椛、おいで。」
俺は左手で立椛を手招きした。立椛は小さく頷いてこちらに歩いてきた。
「おい、ちょっと待てよ‼」
後ろで四宮の叫び声が聞こえた。俺と立椛は階段を降り、靴箱の前まで来た。すぐ後ろから四宮が、そのさらに後ろから野次馬が、追いかけてきている。
四宮が俺に掴みかかった。
「ふざけんな!何のつもりだ?」
俺の胸倉を掴み、唾がかかるほど顔を近づけて、四宮が叫んだ。
「悪いな、幼馴染を守っただけだ。」
体の大きさは同じでも、力はスポーツをやっている四宮の方が強い。俺は四宮にとらわれたままだ。身動きが取れない。四宮が拳を振り上げた。頭の悪い奴だ。俺を殴ったりなんかしたら停学になるぞ。俺は目をつぶった。
「四宮君やめて!」
立椛の声が響いた。俺は恐る恐る目を開く。四宮は震える拳を降ろした。そして、膝から崩れ落ちた。八度たちは四宮を見ている。妙な感覚だ。でも、前にも同じ感覚を抱いたことがあるような気がする。俺は靴を履き替えると、逃げるようにして校門を出た。
速足で歩く。早く家に帰りたい。後ろから足音が聞こえてくる。誰だ?俺は怯えるようにして、振り返った。
「待って。さっきは、なんか、ありがと。」
立椛だ。
「感謝されることじゃない。」
顔を背け、俺は再び歩き始めた。
「ねぇ、待ってよ!」
驚いた俺は立ち止った。立椛の声はいつもと少し違った。
「あのさ、ちょっと、話したい。」
俺は振り返った。冬の風が、立椛の綺麗な髪をなびかせ、俺の髪を崩していた。
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