Ⅵ.半分の恋、半分の夢。

(チャラいだけの奴にしか見えないけどな~。あんまり関わらない方がいいかもよ)

 着信音が鳴ったから、スマホを見た。零からだ。やっぱり零は四宮君のことが気に入らないみたいなのかな。

 四宮君は確かにチャラそうなとこはある。でも面白いし、優しい所もある。零とは反対の性格だから、零は四宮君が気に食わないのかな。四宮君は最近色々と誘ってくるけど、嫌じゃないから断ってはいない。でも、本当は…。

 溜息をつくと、LINEの画面を見る。じゃあ零が私に関わってよ。返信文を書いてから、消した。そんなこと、恥ずかしくて言えない。


 零のことが好きだと自覚したのは夏休みが終わったころからだった。でも、昔から気になってはいた。それが恋心だと気づくのには時間がかかった。

 高校に入学した時の、あの驚きは未だに覚えてる。クラス分けの表を見た時、自分の名前より先に目に飛び込んで来た名前、「神川零」。入学式が終わった後、校門の近くで優花たちと喋ってた時、一人で帰る男子を見た。あの、全世界を睨むような眼。間違いない。零だ。


 始業式の次の日、一組の優花に会いに行った時のことだ。また零を見つけた。

「ねぇ、神川零って人いる?」

 優花と同じクラスだったんだ。

「いたと思う。知り合い?」

 優花が聞いた。

「うん。転校前の友達。呼んできてくれる?」

「いいよ。」

 しばらくして、零が来た。背は、私よりもかなり高くなってる。昔は私の方がちょっとだけ高かったのに。

「久しぶり、零。覚えてる?立椛だよ。半田…。」

「ああ、覚えてるよ、俺の記憶力を舐めないように。」

 私の言葉を遮ったその声は、前よりも低く、でも穏やかだった。

 そこからは話が弾んだ。あのおしゃべりな優花が出る幕が無いくらいに。優花はちょっと質問をした後、どこかへ行ってしまった。二人になる時間を取ってくれたんだと思う。

 零は変わっていなかった。話し方も、目つきも。鋭いけど、優しさがある。初見では無愛想で近づきにくいけど、仲良くなれば、奥底に秘めている優しさが見えてくる。でも、一つだけ変わっていたことがあった。何かに怯えてるような雰囲気が伝わってくる。こわ張った様子があった。昔はもっと、自信が溢れていたのに。その理由が知りたくて、私は毎日、零に会いに行った。

 でも、最近は全然零と会っていない。毎日四宮君が話しかけてくるから。


 四宮君とよく話すようになったのは秋ごろからだった。体育祭で活躍した四宮君は、クラスメートからその人気を獲得していった。あまり話したことのなかった女子に話している姿も目立った。私もそのうちの一人だった。


「立椛、どうしたの、ボーっとして。悩みなら聞くよ。」

 四宮君の声が聞こえた。また零のことを考えていた。授業が終わり、ホームルームが始まる前のことだった。

「何でもないよ。だいじょうぶ。」

 窓の外の、すっかり枯れた十二月の樹木を見つめながら答えた。

「今日、ちょっと話があるんだ。あとで時間、もらえる?」

 私は、四宮君を見た。

「わかった。けど、何の用?」

「まあ、それは後で。」

 そう言ったとき、先生が入って来た。四宮君は、ウキウキした様子で席に戻っていった。


 掃除が終わり、先生が教室を出ていった。教室には、私を含めてもう数人しか残っていない。四宮君と、その友達らが集まって話している。私はリュックを背負って立ち上がろうとした時、思い出した。四宮君が、話があるって言ってたな。それにしてもなんなんだろう。私悪いことしたかな?疑問に思って四宮君の方を伺うと、四宮君はこちらを向いていた。

 緊張した様子の四宮君は、こちらに近づいてきた。そして、顔を赤らめながら突然言った。

「立椛さん、よければ俺と、付き合ってください!」

 え?

 驚きで、声も出なかった。まさか告白されるとは思わなかったのだ。遠くでは、興奮した様子で四宮君の友達たちが騒いでいる。でも、その声すら聞こえないほどに私は驚いていた。

「ちょっと、考えさせて。」

 恐る恐る、四宮君の顔を見ながら私は言った。どうしたらいいのか。私は四宮君のことが嫌いな訳では無い。他に好きな人がいなければ、了解していただろう。だが、私には片思いの幼馴染みがいる。

 でも、零は、零は私のことを好きとは言ってくれない。たぶん興味がないんだろう。なら、零は諦めて…。

 四宮君の方を向いた私は、言葉を発しようとした。その時だ。廊下で一人の男子生徒が立っているのが見えた。あの目。零だ。

「よっ。」

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