3章 一年目5月下旬
第1話 お留守番
「ごめんください」
と5月の下旬
皆乃川の屋敷に低く落ち着いた声が響いた
その声を聞いてパタパタと小走りで廊下を走る少女が一人
「!伯爵様、いらっしゃいませっ」
と皆乃川 恋が晴々とした顔で玄関に顔を出した。
「許嫁殿、おはようございます。」
玄関には声の主であり帰国してから1ヶ月間仕事の山を処理するための缶詰状態を乗り越え頻繁に恋の元に会いに来れるようになった暁都の姿がそこにはあった。
ここ半月週に3回は訪れているだろう。
「お、おはようございます!」
「圭一郎殿と使いの方は?」
「あ、はい!ついつい先程外出しました」
「そうだったか。遅れてしまいすまない」
「いえ、本当にほんの数分でしたから!立ち話も何ですしどうぞ!」
と慌てて身振り手振りで屋敷に入るように促す恋
「ふむ、では失礼する」
そう言って暁都は靴を脱ぎ皆乃川の屋敷に足を踏み入れた。
今日は皆乃川の現当主で恋の叔父に当たる皆乃川圭一郎が重要な仕事のため屋敷の使いを全て連れて行き広い屋敷には恋が一人で留守番する予定だったが
恋が一人なのを懸念して圭一郎は恋の許嫁である暁都に1日屋敷で一緒に留守番するように頼んでいたのだ。
「今日は本当にごめんなさい。伯爵様もまだまだお忙しいのに」
客室に移動しながら言葉を交わす
「気にする事はない。仕事はひと月である程度片付いた。それよりも許嫁殿を一人にする方が俺にとっては不本意だ」
とあいも変わらずなセリフを口にする。
「っ!え、えと!お茶入れてきますね!」
こちらはこちらであいも変わらず照れている模様。
恋は客室に着くや否やすぐさま台所へと足を運んだ。
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「ど、どうぞ」
「あぁ、かたじけない許嫁殿」
お茶を入れて戻ってきたら恋は暁都にお茶を出して正面に座る
暁都はさっそくお茶を一口飲んだ
火傷したら危ないやらなんやらで女中の姉様方になかなかお茶を入れる機会をもらえなかったのが心配なのか不安な面持ちで見つめる恋
「……ん、うまいな」
「!ほ、ほんとですか?」
「あぁ、これはもしや苦丁茶だろうか?」
「はい!伯爵様とお茶会をした時に苦いのがお好きと聞いていたので叔父様に聞いて準備したんです!」
と目をキラキラさせながら話す
「…そうか、許嫁殿が俺のために。ならばうまいはずだ。」
「ふふっ…良かったぁ」
肩の力が抜けた恋
「ところで許嫁殿、今日は一段と可愛らしいな」
と唐突に暁都は言う
「っっっ!!あ、ありがとうございます!」
と照れながらもしっかりお礼を返す。
今日の恋は明治には珍しくワンピース
洋服なのだ
「最近はやりの洋装だな。よく似合っている」
さらに褒め殺しにかかるのだ
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