第4話 互いの呼び名

皆乃川 恋が恥ずかしさを隠すために慌ただしく出て行きしばらく経った静まり返った客室を1人眺める有明 暁都


そこに


「…失礼致します。お茶をお持ちしました」

と先ほどパタンッ!と恋によって閉められた襖がそっと開き恋の侍女である小町が姿を現した。



「あぁ、小町さんお久しぶしです。」


「伯爵様、お元気そうで何よりです。ところでお嬢様がご一緒では?」

小町はそう言いながら部屋を見渡す。


「それが、先ほどお茶を持ってくると言ってしばらく戻ってきていないのです」


「あら、まぁ!行き違いになってしまったのでしょう。探してまいります。」


「いえいえ…お気になさらず。俺が少し彼女を照れさせてしまったので。落ち着いたら戻ってきていただければいいのですが」


「あらあら、そうでしたか。ふふ、なら心配ありませんね。」


「?」


「お嬢様は伯爵様が返って来られると知った日から暁都さんにあれを話すんだこれを話すんだと私に教えてくれていたので…きっとたくさん伯爵様と話したいのです。だから戻ってきますよ」


と小町は楽しそうに語る


「……許嫁殿がそのように…」


「はい」


「…そうですか…」


「では、失礼致します。」

小町はそういう時客室を後にした。


それからまたしばらく客室は静寂とお茶を飲む音だけが響く


するとそっと本当にそっと襖が開き

小町が言ったように恋が戻ってきた。


「は、伯爵様……その、」


「許嫁殿。よかった、もう戻ってきてもらえないものだと」


「そ、そんなこと!ないです!絶対に!」


「それは嬉しい限りだ」


「う、うぅ……」

暁都の余裕の表情にタジタジする姫


「そういえば先ほど小町がお茶を」


「あ!本当だ!…ごめんない!私お茶を持ってくると言ったのに……」



「構わない。小町さんに入れていただいたお茶を飲みながら話そう。」

小町の助言もあり恋にそう問いかける


「!はい!」


恋はすごく嬉しそうに笑うのだ。


「そうだ、その前に許嫁殿に一つ聞きたい」

思いついたと言わんばかりに言葉にする暁都


「??なんでしょう?」


「許嫁殿は普段俺のことを名前で呼んでくれているのか?」



「へ??えーーーーー!?何故それを!」

思わず立ち上がる恋


「小町さんと許嫁殿の話をしている時に会話の中にそのような描写があったのでな」


「ご、ごめんなさい…」


「?怒ってはおらん。ただ何故本人の前で言ってくれぬのだ?」

普通に疑問に思った暁都は首を傾げながらそう言う



「え、えーと…その…は、恥ずかしくて……」


「…そう言うものか?」


「し、新婚さんみたいで……私にはまだ早いかなと…」


顔を真っ赤にしながらそう言う恋にまんざらでもない暁都


「…そうか、なら少しずつ呼んでくれると嬉しい限りだ。……私も許嫁殿のことを名前で呼んでも?」


「ま、まだだめです!!」

反射的にそう言う恋


「む?ダメなのか…どちらもか?」


「だ、ダメじゃないです……けどきっと私は嬉しくて、心がむずむずするからまだ、ダメ……なんです。」


「そうか……ふふっ、ならばもう少し待つとしよう。君が俺になれるまで。名で呼ぶのも呼ばれるのも………………それにこれはこれで許嫁殿に会う楽しみが増えた。」


「……!はい!」





____________早く暁都さんとお呼びしたい、恋という名を呼んでほしい


でも、まだどこか心がむず痒くて


今はまだ、許嫁殿と伯爵様でも良いでしょうか?


飾らない笑顔で愛おしいその名を呼びたいのです。






互いに名を呼び合うのはまだ先の話____







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