第58話:ゴリさんと通話を開始していく

―― ~~♪(通話の通知音)


「……えっ!? い、いやちょっと早いって!」


 そんな事を思っていると急にゴリさんからの通話音が飛んできたので、俺は慌てながらヘッドセットを装着して通話ボタンを押していった。


「ゴ、ゴリさんお疲れさ――」

『あ、クロちゃんおっすおっすー!!』

「えっ? あ、あぁ、はい、お疲れさまです?」


 通話が始まると速攻で俺の耳元にはとても明るいゴリさんの声が聞こえてきた。でも……。


(え、えっと……いや何でこの人こんなにもテンション高いんだろ?)


 いやもちろん俺の知っているゴリさんは明るい人ではあるんだけど、でもヘッドセットから聞こえてくるゴリさんの声はいつも以上に明るかった。いや明るすぎだろ。本当に何があったんだ?


『さっきまでインしてなかったけど今までバイトだったのかなー? クロちゃんバイトお疲れ様ー! いやー、毎日お仕事頑張っててクロちゃんは本当に偉いよね!』

「い、いや毎日はバイトしてないっすけど……ま、まぁ、ありがとうございます? ってかそれを言うなら俺なんかよりもゴリさんの方が毎日勉強頑張ってて本当に偉いと思いますけど?」

『いやいや! アタシなんて全然頑張ってないよー! もう本当にアタシの頑張りなんて本当にもう下の下でしかないからさ! だからクロちゃんの方が毎日凄く頑張ってて偉いよ! うん、もうめっちゃ尊敬してるよー!』

「は、はい……?」


(……な、何これめっちゃ怖いんだけど……)


 ゴリさんはいつも以上にハイテンションな状態で唐突に俺の事を全力で褒めちぎってきた。いやこんなのどう考えても何か裏があるようにしか思えなくてめっちゃ怖いんだけど……。


「え、えっと……いや、今日のゴリさんいつもよりテンションおかしくないっすか? 何だか今日のゴリさん滅茶苦茶に怖いんですけど?」

『えー? 全然そんな事ないよー? いつも通りのテンションだよー?? 怖い事なんて何もないよー??(猫なで声)』

「え……えっ!? いや何すかその激甘ボイスは!? は、初めて聞きましたよ! ゴリさんのそんな激甘すぎる猫なで声!?」

『ふふん、メッチャ可愛い声だったろー? あまりの可愛さに惚れんなよ~??』

「あ、そういえばアケコンのボタンとかレバーって結構音煩くないですか? 何かレバガチャ音が出にくくなる方法とかってありませんかね?」

『無視すんじゃねぇよ!』


 ゴリさんによる激甘猫なで声についての感想を尋ねられたけど余裕で無視したらめっちゃキレられてしまった。


「あはは。まぁ、それじゃあ話を戻すんですけど……結局何かあったんすかゴリさん?」

『え? あ、うんっ! そうそう、そうなんだよ! いや実はちょっとクロちゃ……じゃなくて、クロくん……いやクロ様っ!!』

「は、はい?」

『お願いしますクロ様! ちょっとだけで良いのでアタシの話を聞いて頂けませんでしょうか!』

「え? い、いやまぁそりゃあ当然聞きますけど?」

『あ、ありがとうございますクロ様! クロ様はバイトでとてもお疲れの状態だというのに、それでもアタシの話を聞いて頂けるなんて何と心が深い御方なのでしょうか! 本当に素晴らしい人格者ですよ!」

「は、はぁ……?」

「そんなクロ様の慈悲深い心遣いに深くお礼を申し上げたいと思う所存です! あぁ、アタシもクロ様のような素晴らしい人になりたいと本当に思って――」

「いや別に何でも良いんすけど、とりあえずそのクソ気持ち悪いエセ敬語だけは今すぐに止めて貰えませんか?」

『本当に思って……って、は、はぁっ!? き、気持ち悪いっ!? そ、そんな、酷いですよ……アタシはクロ様の事を敬愛して敬語で喋ってるだけなのに……そんなアタシの心遣いを無下にするというんですか……??(激甘猫なで声)』

「はい」

『はいっ!?』


 何だかしおらしい態度でそんな事を言ってきたけど、この人の言ってる事は絶対に100%嘘だからね。


「いやだって普段のゴリさんは俺の事なんて1mmも敬おうとしてないクセに何言ってんすか?」

『うっ……そ、それは……』

「だからこれって絶対に何か裏があるやつですよね? だってそうじゃなければあんな気持ち悪いエセ敬語で俺に話しかけたりしないっすもんね? ゴリさんってそういうずる賢い人ですもんね??」

『ぐ、ぐぅ……』

「あ、もしも本当に何も裏がないっていうんなら、それはちゃんと信じて貰えるように今までの言動を悔い改めた方がいいっすね。ま、ゴリさんが突然とまともな事を言い出してきたらそれはそれで怖いですけどね、あはは」

『ぐ、ぐぎぎ……』

「あ、ついでに感想を尋ねられたんで言っときますけど、さっきのゴリさんの猫なで声も相当気味が悪かったんでさっさとやめた方が――」

『うがぁあああああああ! 気持ち悪いだの気味が悪いだのうっせぇなテメェはよ!! なんでクロちゃんの事を純粋に敬おうとしているだけなのに気持ち悪がられなきゃいけないんだよ!』

「あはは、化けの皮が剝がれてますやん」

『うっせぇよタコ。人が困ってるってる時にそうやって笑いながら馬鹿にしてくる奴は将来絶対に地獄に落ちるからな??』

「え、まじっすか? うーん、そっかぁ……うん、わかりました! それじゃあ、まぁそん時は地獄でまた一緒にゲームやりましょうね! ゴリさん!」

『いやだよ! ってかアタシも一緒に地獄に堕とすんじゃねぇよ!』


 という事で、今日もいつも通りお互いにふざけ合いながらの騒がしい通話が始まっていった。

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