第57話:唐突に先輩から連絡が飛んでくる

 とある日の夜。


「……ん?」


 バイト終わりに現時刻を確認するためにスマホを覗いてみると、LIMEの通知が届いていた。どうやら誰かからメッセージが届いてるようだ。


「誰からのメッセージだろう……って、えっ!?」


 俺は誰からのメッセージだろうと考えながらLIMEアプリを開いてみたんだけど……そのメッセージの送り主はまさかの七種先輩からだった。


―― 神木君お疲れ様!

―― ひょっとしてバイト中かな、忙しい所本当にごめんね!

―― 出来れば家に帰ったらパソコンの方に連絡してほしいです!

―― それじゃあハンバーガー作り頑張ってねー!

―― (可愛らしいクマが旗を振って応援してくれてるスタンプ)


 LIMEに届いていた先輩からのメッセージは以上の通りだった。旗を振って応援してくれてるクマのスタンプがとても可愛らしかった。いやそれにしても……。


「えっ? な、何かあったのかな……? って、てか何で俺がハンバーガー屋でバイトしてる事を知ってるんだ?」


 七種先輩からバイトを応援するメッセージが届いた事なんて生まれて初めての出来事だったのでかなり驚いてしまった。


 い、いや、というかそもそも俺がバイトしてる事を先輩に言った覚えなんてないんだけど……って、あぁ、そっか。


「あ、あぁ、そうだよな。七種先輩ってゴリさんなんだから、俺がバイトしてる事も知ってるに決まってるよな」


 そういえば少し前にゴリさんと通話をしてる時にお互いのアルバイトについての話をした事があったよな。そしてその時に俺は某ハンバーガー屋さんで働いている事をゴリさんに教えたんだ。


 そしたら“へぇ、クロちゃんマ〇クでバイトしてるんだ! あーあ、バイト先が近かったらクロちゃんのスマイルゼロ円を毎日大量に注文してあげたのになーww”と、はた迷惑なお客さんになる気まんまんなセリフを言われたっけな。


「んー、あれ? でもそうなると七種先輩もアルイバイトしてるって事になるのよな?」


 確かあの時はゴリさんもバイトをしてるって言ってたんだけど、でも具体的な店の話までは聞かなかった。


 というかあの時は結局俺のバイトの話から何処のファーストフード店が美味しいか論争になって最終的にゴリさんと喧嘩した事しか覚えてないわ。


「うーん、でもそうなってくると今更ながら先輩のバイト先はめっちゃ気になってくるよなぁ……」


 俺と同じでハンバーガー屋さんで働いてるのだとしたら俺も先輩のスマイルを無限に頼みたいし、コーヒーショップで働いてるんだったらカップに手書きのメッセージを書いてもらいたいし、クレープやパンケーキなどのスイーツ系のお店で働いてるんだったら先輩のお手製のデザートを是非とも食べてみたいな……って、いや違う違う! 俺は断じて先輩のストーカーとかじゃないからな!


 で、でもやっぱり憧れの先輩が働いている姿は何となく見てみたいって思うのも思春期男子なら当然の事でさ。それでもしも可愛いバイト制服姿とかだったら猶更見てみたいじゃん。


「あーあ、何であの時にゴリさんとしょうもない事で喧嘩しちゃったんだろうなぁ……喧嘩なんかせずにゴリさんは何のお店でバイトをしてるのかだけでも聞いとけば良かったなぁ……」


 まぁそんな事を言ってもゴリさんとはどんな時でも喧嘩しちゃう間柄なんだから、今更その事を悔やんでもしょうがないよな。もし過去に戻れたとしても絶対に俺はゴリさんと喧嘩するもん。


「……ま、過ぎた事を気にしてもしょうがないか。そんな事よりも先輩の用事って一体何なんだろう?」


 しかもLIMEに連絡してじゃなくて、パソコンの方に連絡してって言ってるという事は……多分だけど神木玄人じゃなくてkuroあっちの方に用事があるって事だよな?


 それで多分だけど向こうも学校の先輩七種先輩としてじゃなくて、ゴリさん悪友として用事があるって事だよな? いや実際にはわからないけど。


「うーん……まぁよくわからないけど、先輩を待たせるわけにはいかないし、とにかく早く帰らなきゃだな」


 連絡が欲しい理由は全然わからないけど、でも先輩(というよりもゴリさん?)が俺に用事があるというなら急いで帰宅しなければならないな。


―― わかりました、あと30分くらいで帰れるんでもう少し待ってください!


 という事で俺はLIMEで先輩に向けてそう返事を送り、そしてそのまま何処にも寄り道せずに直帰していった。


◇◇◇◇


 バイトから帰って来た俺はそのまますぐにパソコンを立ち上げた。そして通話・チャットアプリ(通称:ドスコード)を開いてゴリさんにチャットを送った。


―― 帰りましたよー、ゴリさんは今は勉強中ですよね?

―― こっちはいつでもチャット見れるようにしておくんで、ゴリさんが時間出来たらまた連絡してください

―― それじゃあ改めて勉強頑張ってくださいね、応援してます!


「これでよし、と」


 ゴリさんはオンライン状態になっているけど流石に今は勉強中だろうと思ったので、俺は邪魔しないようにそんなメッセージを送っていった。


 それと先ほどは先輩から“バイト頑張ってね”と優しい応援のメッセージを貰ったので、俺も先輩に対して“勉強頑張ってくださいね”と応援のメッセージも一緒に送っておいた。


「よし、それじゃあ先輩から連絡が返ってくるまでのんびりと格ゲーの練習をしていこ――」


―― ぴこん♪


「って、早っ!? いやあの人受験勉強してるんじゃなかったの?」


 ゴリさんから連絡が返ってくるまで格ゲーの練習をしようと思ったその瞬間、パソコンからメッセージが届く通知音が鳴ってきた。誰がどう考えてもメッセージの送り主はゴリさんだろう。


 という事でゴリさんからの連絡が一瞬で返ってきた事に滅茶苦茶ビックリとしながらも、俺はゴリさんから届いたメッセージの内容を確認してみる事にした。


「い、いや、まぁどうせゲームしようって言ってくるだけな気もしてるけど……って、あれ?」


―― 通話!


「……え? たったこれだけ??」


 ゴリさんから送られてきたメッセージはたったの三文字だった。ってか通話の催促が来ただけだった。いや、それにしてもさ……。


「いや、それにしても……さっきの七種先輩からのLIMEメッセージはとても優しくて素敵なメッセージだったのに、なんでゴリさんになるとこんなにもおざなりなメッセージになっちゃうんだよ? 七種先輩もゴリさんもどっちも同じ人なんだよね??」


 まぁでも、正直普段の優しい七種先輩よりも、何でもかんでも大雑把なゴリさんの方が接しやすいので、紗枝先輩と話してるとすぐに緊張しちゃう俺としてはこれくらい大雑把に接してくれる方がありがたかった。


 そしてきっと紗枝先輩も俺のその気持ちがわかってるからこそパソコン上では大雑把に接してくれてるんだろうな。

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