第16話:七種先輩のかけているメガネを貸してもらう
「そういえば、七種先輩って普段はコンタクトなんですか?」
俺は打ち込み作業をしながら先輩に軽く雑談を振ってみた。
「ううん、いつもはずっと裸眼だよ。 私、視力は両目とも1.2あるからね」
「あ、そうなんですね! それじゃあ今日のメガネは伊達なんですか?」
「うん、そうだよ。 これブルーライトカットの伊達メガネなんだ。 パソコン作業とかする時にかけるようにしてるの」
あぁなるほど、先輩のかけているメガネは目の保護のための物か。
「確かに先輩はパソコン作業が多いから、そういうメガネが凄く役立ちそうですね」
「うんうん。 あ、でもね、今日のはちょっと失敗しちゃったんだよね」
「え? 失敗って何がですか?」
「あはは、これさ、普段自宅で使ってる用のメガネなんだよね。 ネットでテキトーにポチった安物のメガネなんだ」
「あ、そうなんですか?」
「うん、そうなの。 だからちょっと可愛くないんだよねーこのメガネ」
そう言って七種先輩は自分がかけてるメガネをくいっと上げた。 先輩のメガネは黒いフレームで四角いスクエア形状のメガネだ。 確かにそう言われてみたらレディースというよりもメンズライクなメガネかもしれない。 いやそれでも七種先輩には十分似合ってるんだけどさ。
「本当は外出用の可愛いメガネも持ってるんだけどね。 でも普段家だとこれしかかけてないからさ、持ってくるの忘れちゃったんだよね、あはは」
「なるほど、そうなんですね」
可愛いメガネってどんなんだろう? まぁ七種先輩は普段もオシャレなファッションを着てそうだし、そっちのメガネもきっとオシャレなメガネなんだろうな。
「あ、じゃあ先輩が家にいる時は今かけてるそのメガネを普段使いにしてる感じなんですか?」
「うん、そうだよ。 家ではテレビとかスマホとかパソコンとかを見る時にかけるようにしてるから……うん、ほぼずっとかけてる事になるね、あはは」
「あ、なるほど、そうなんですね」
「うん。 でも、外では極力このメガネはかけないようにしてるからさ、今日は珍しく失敗しちゃったなーって思ってね」
「な、なるほどー」
という事はこの七種先輩(メガネver)は本来なら先輩の自宅でしか見られない特別仕様という事だ。 そんなレアな先輩を見れたってのはかなりラッキーだな俺は。
(いやそれにしてもさ……)
さっきから俺、相槌しか打ててないんだけどこれからどうすればいいの? 話しも全然膨らませる事が出来なくて普通に悲しいんだけど。
「それでさ、そういう神木君はどうなの? 普段はコンタクトなの? それとも裸眼なのかな?」
「……えっ!? あ、お、俺も同じでコンタクトとかは一切してないです!」
そんな事を思っていたら、唐突に七種先輩から質問が飛んできた。 俺はビックリしながらもその質問に返答した。
「へぇ、そうなんだ。 じゃあ神木君も視力は良いのかな?」
「は、はい。 視力はどっちも1以上はありますよ」
「おー、神木君も視力良いんだね! じゃあ神木君にもメガネとかは必要無さそうだね」
「そうですね。 あ、でも、」
「ん、でも?」
「あ、えっと、ブルーライトカットのメガネってのはちょっと興味あったりします」
「あ、そうなんだ! うん、これ結構便利だよ。 まぁ本当にブルーライトがカットされてるのかは体感じゃあよくわかんないんだけどね、あははっ」
「へ、へぇ、なるほど」
でもブルーライトってずっと見続けてるのは目に悪いんだよな、あまり詳しくは知らないけど。 それならほぼ毎日長時間ゲームをしてる俺にとって今一番必要な物はこれな気もしてきた。
「あ、そっか、そういえば神木君はゲームが好きなんだもんねー。 うん、それなら確かに神木君もこういうの持ってると便利かもしれないよね!」
「えっ!? あっ、は、はい、恥ずかしながらそうなんですよ、あはは」
「あはは、別に恥ずかしくなんてないでしょ、私だってゲームくらい普通にするしさー。 ……あっ、じゃあ試しにさ、私のメガネ一回かけてみる?」
「えっ!?」
そう言って七種先輩は自分がかけていたメガネを外してそのまま手渡そうとしてきたので、俺は慌てて制止した。
「い、いやあの、で、でもそれ先輩の私物ですしっ! え、えっと、そ、その、い、いいんすか?」
「え? うん、別に全然いいよ? ……あ、それとも、もしかして潔癖症だったりするのかな?」
「えっ!? い、いや全然そんな事ないです! そ、それじゃあ、そ、その、お借りしてもいいですか?」
「うん、もちろん! それじゃあ、はい、どうぞ」
「あ、えっと、その、あ、ありがとうございま……」
(っ!? な、なんだこれ……!)
俺は七種先輩からメガネを受け取ってそのまま試しにかけてみたんだけど……俺はそのメガネをかけてすぐに驚愕して固まった。
「うん、どうかな? ブルーライトカットされてる?」
「……えっ!? あ、そ、その、よ、よく、わからない……っすね、あ、はは」
俺はしどろもどろになりながらそう伝えた。 今七種先輩にブルーライトがどうかと言われた気がするけどそんなの気にしてる場合では無かった。 何故なら……
(ど、どうしよう……すっごい良い香りがするんだけど……!)
七種先輩のメガネをかけてみると、すぐにふんわりとした甘い香りが俺の元に漂ってきていた。 め、めっちゃ良い香りがするんだけど!
この香りは香水なのかな? それともボディミスト? 俺にはそういう物の違いなんて全くわからないんだけど……でもこれはきっと先輩が使っているそういう物の香りなんだと思う。
(あ、やばい、これ心臓バクバクするんだけど)
これどう考えても変態みたいな思考だとは思うんだけどさ、でも“あーこれが先輩の香りなんだなー”って思ったら心臓のドキドキが止まらなかった。
「あははっ、そうだよね! これで本当にブルーライトがカットされてるのかなんてわからないよねー。 私も全然わからないもん!」
「え? あ、ち、ちが……あいや、はい、そ、そうっすね、あは、あはは!」
もうブルーライトとかそれどころじゃなかったんだけど、俺は顔を真っ赤にしながら先輩の言葉を肯定しておいた。
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