第3話:団イベから逃げるな

『なんかさー』

「んー? どしたんすか?」


 その日の夜、俺はいつも通りゴリさんと通話をしながらゲームをしていた。 今日はとあるスマホゲームのイベントが始まる日だったので、ゴリさんとそのゲームを一緒にプレイしている所だった。


 今俺達がプレイしているそのイベントは30人で1つの団を作り、その団内の仲間達で協力しながら高難度のボスを沢山倒しまくるというイベントだ。


 ちなみにこのゲームはスマホゲームの中でも特に人口が多いのが特徴であり、さらにこの団内イベントが一番盛り上がる事でも知られている。 そしてこの熱狂的なイベントが開催される時期はトイッターでも度々お祭り騒ぎになっており、“団イベから逃げるな”というパワーワードがトレンド入りするというのも珍しくない光景だ。


 俺とゴリさんはそのゲーム内で同じ団に所属しており、今日は一緒にイベントを走ろうとゴリさんから提案してきたので、そのイベントを一緒に走りながら通話している状況だ。 実はこのイベントは一人で黙々とやってると簡単に寝落ちしてしまうから俺としてもありがたい提案だった。


『最近スマホで攻略サイトとかまとめサイトとかを見てるとさ、何かえっちぃ広告を頻繁に見かけるんだけどこれってアタシの気のせい?』

「あー、何かそれあるあるっすよね。 エロマンガとかの広告なら俺もよく流れてきますもん」

『あ、本当? それなら良かった、アタシだけだったら嫌だなって思ってたからさー』

「あはは、確かに自分だけそんなエロ広告ばかり流れて来たら嫌っすね」

『そうそう、そうなんだよね。 あれ、もしかしてアタシ怪しいサイトでも踏んじゃったっけ!? って思っちゃって焦ったよー』

「はは、意外とゴリさんって子供っぽい所ありますよね」


 ゴリさんがエロ広告を踏んで焦ってる所を想像するとちょっと面白かった。


『んでさー、ここからが本題なんだけどさ』

「え、今のが本題なんじゃないんですか?」

『そんなわけないでしょ』

「は、はぁ、それじゃあ一体なんすか?』

『クロちゃんってエロ本とか動画とかのエロコンテンツって何か買ってたりするん?』

「ぶはっ!?」


 本題が酷すぎて俺は噴き出した。


『うわっビックリした! どうしたのよ』

「ごほっごほっ! こっちがビックリしたわ! な、なんすかいきなり!?」

『いやだからクロちゃんはエロい物持ってるんかなーって思ってさ』

「それが気になってる理由を聞いてるんですよこっちは!」


 俺は呼吸を整えてからその理由についてをゴリさんに問いただした。


『いやさ、さっきも言ったけど、えっちぃ漫画の広告が流れて来たんだけどさ』

「はい」

『何かあらすじの内容が面白そうだったんだよね』

「はい?」

『だからポチってみたわけよ』

「ちょっと待って! エロ広告踏みそうになって焦ったっていう話じゃなかったの?」

『いや? 初めてエロ本読んでみたら面白かったっていう話だけど?」

「思ってた話と全然違う!」


 ゴリさんは何でも気になったらすぐに行動する人だし、そういう所は尊敬もしてるけどさ……でも少しくらいは躊躇する事も覚えてほしいんだけど。


『それでさ、えっちぃ漫画を読み終えてアタシは気になったわけよ。 あれ、ひょっとしてクロちゃんもエロい物を陰でコソコソと買ってるのかなー? ってさ』

「さぁ、早く素材あつめましょ! イベントも期限があるんだから!」

『露骨にスルーしてきて草なんだけど』

「いや当たり前でしょ! 何で女子相手にそんな事を白状しなきゃいけないんすか!」

『えーいいじゃん、お姉さんに教えてよー、誰にも言わないからさー』

「ちっとも信用出来なくて草なんですけど」

『なんでや! 少しはアタシを信用しろよ!』


 俺はゴリさんにツッコミを入れながらイベントの素材集めを再開した。


『どうせクロちゃんだって男の子なんだからエロ本の1冊や2冊……いや50冊くらい持ってるんでしょ?』

「そ、そんなに持ってねぇよ!」

『……へぇ? じゃあやっぱり持ってはいるんだねぇ?』

「……あっ! き、きたねぇっすよ!」


 通話先からゴリさんのクスクスとした笑い声が聞こえてくる。 ちっとも可愛げの無い笑い方なんだけど。


『ぷははっ、やっぱりクロちゃんは面白い男の子だねぇ!』

「ちっとも嬉しくないっすわ! いやでもなんか珍しいっすね、ゴリさんがそういう話題を出すのって」

『あはは、確かにそうだねー。 あっ、でもさ、アタシが男の子相手にこんなえっちぃ話をするのはさぁ……クロちゃんだけになんだよ?』

「うわどうしよう、女子相手にそんな事言われたらメッチャときめきそうなのに……これっぽっちもときめかないんですけど?」

『なんでや! 美人JKにこんな事言われたらグッとときめくやろがい!』

「いやゴリさんの今までの行いのせいでしょー、あはは」

『あはは、確かにそれはそうだ……っておい!』


 これが本当に七種先輩程の超美人さんだったら昇天レベルでときめく発言なんだけど、まぁ相手はゴリさんだしね。


『それで? 結局クロちゃんはどんなエロ本持ってるん?』

「え!? い、いや、まぁその……普通っすよ普通! 普通くらいの数しか持ってないって事で」

『えー?? アタシ普通なんて言われてもわかんないんだけど?』

「い、いやまぁそれはその……! で、でもそう言ってますけどゴリさんだって実はムッツリで相当の数のエロ本持ってたりするんじゃないんすか?」

『え何それセクハラ……? どうしよっかクロちゃん? とりあえず警察呼ぼっか?』

「いやちょっと待って流石にそれは理不尽じゃない!?」


 結局その日は俺がエロ本を所持しているとゴリさんにバレて終わった一日であった。

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