第2話:学校で憧れの先輩とバッタリ遭遇する
次の日、俺は圧倒的な寝不足のおかげで死にかけていた。 眠すぎて授業に集中が全く出来ない。 あかん、もう寝ちゃいそう……
―― キーンコーンカーンコーン
(た、たすかった……)
もう限界だと思ったその時、ちょうど3時限目の終了を告げるチャイムが流れた。 俺は何とかぎりぎり睡魔に勝つ事が出来た。 いや黒板の板書を書き写す事は一切出来なかったから実質完敗なんだけどさ。
「じゃあ今日の授業はここまで。 日直、号令」
「起立、礼――」
日直の号令も終わり、先生は教室から出て行った。 ここから15分間の休憩時間が始まる。
「ふぁ……ねむ……」
俺は大きな欠伸をしながら自分の席から立ち上がった。 そうすると後ろの席に座っている男友達である
「ん? 玄人君どっか行くの?」
「あぁ、ちょっと自販機までなー。 眠気覚ましになりそうなの買ってくるわ」
「あはは、さっきから凄い眠たそうだもんね」
「あぁ、もう眠すぎて次の授業まで起きられる自信無いからな。 あ、すまんけどさ、さっきの授業のノートあとで借りてもいいか?」
「もちろんいいよ。 次の授業日までには返してね」
「ありがとう、マジで助かるよ。 あ、結城も何か飲みたいもんとかあるか? あるならついでに買ってくるけど?」
「あ、ううん、僕は大丈夫だから気にしないでいいよ。 それじゃあ行ってらっしゃいー」
「そっか、了解。 んじゃあちょっくら行ってくるわ」
俺はそう言って教室から出て行った。 目当ての自販機は、教室を出て廊下を歩いた先にある購買部の隣に設置されているので、割とすぐに到着した。
俺は自販機に到着してすぐにポケットからサイフを取り出した。
「小銭小銭……っと」
―― チャリンリャリン……
ポケットからサイフを取り出そうとしたその時、硬貨がサイフから数枚こぼれ落ちてしまった。 硬貨は地面に落ちて、そのままコロコロと転がっていき……ポトっと近くにいた女子生徒の足元で止まった。 どうやら同じく自販機に飲み物を買いに来ていた女子生徒がいたようだ。
「よっと……はいこれ、どうぞ」
その女子生徒はしゃがみながら硬貨を拾い上げてくれて、そしてそれを俺に渡してくれた。
「あ、すいませ……あっ」
俺はその硬貨を受け取ろうとした時、その女子生徒の顔を確認した。 その女子生徒は見知った先輩だった。
「さ、七種先輩……!」
「あはは。 凄い眠たそうだね、神木君」
俺の目の前にいた女子生徒は
七種先輩の見た目は黒いサラサラのロングヘアが特徴的でスレンダーなモデル体型の女子生徒だ。 さらに外見だけでなく、内面もかなり凄い人で、成績優秀かつ品行方正で誰に対しても優しく、柔和な笑みを絶やす事のないその姿はまさに天使そのものだ。
そしてそんな七種先輩の事を俺達後輩らは尊敬の念を込めて“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は千紗子様”なんて陰で呼んでいたりもする。
「す、すいません、みっともない所を見せちゃって……」
「ううん、そんな事ないよー。 神木君は昨日夜更かしでもしちゃったのかな?」
ちなみに七種先輩が何で俺の事を知っているのかというと、七種先輩と俺は現生徒会に所属しているからだ。 七種先輩は書記で、俺は会計で生徒会に参加している。
「え、えぇっと、実は友達とずっとゲームをしてて……」
「あーそれで夜更かししちゃったんだね。 でも熱中出来るものがあるのは良い事だと思うよ」
「あ、あはは……あ、そういえば先輩はゲームとかはしたりするんですか?」
偶然だけどせっかく七種先輩と仲良く出来るチャンスだし、俺は他愛無い話をして七種先輩を引き留めた。
「え、ゲーム? うーん、そうだなぁ……」
七種先輩は手に持っていた紙パックの緑茶にストローを差しながら少し悩みだした。 あれ? そんなに悩ませる質問だったのかな?
「あれ、俺なんか変な事聞いちゃいました?」
「え? あぁいや、そうじゃないんだけどね。 実は私もゲームは少しだけやるんだけどさー、全然上手くならないんだよね」
「あ、そ、そうなんですか、なるほど」
「うん、そうなんだよ。 だから私もゲームは好きなんだけどさ、友達とやってもすぐに負けちゃうんだよねー、あはは。 神木君はゲーム得意なの?」
「え? えぇっと、そ、そうですね、まぁまぁそれなりに得意な方です!」
「あ、そうなんだね! それは凄いなー」
「い、いやいや全然っすよ! あ、でも昨日は友達とずっと対戦ゲームしてたんですけど、それはボコボコにしてやりましたよ」
嘘です。 朝までボコボコにされ続けたのは俺の方です。 でも七種先輩に褒められたのでちょっと調子に乗ってしまった。
「へぇ、そうなんだ、神木君は本当にゲームが凄い上手なんだね! あ、でも駄目だよー、お友達なら例えゲームでもさ、ボコボコになんてしちゃ駄目だよ。 せっかくのお友達なんだから仲良くしなきゃね」
「あ、は、はい……そうですよね」
嘘をついた挙句、七種先輩には叱られてしまった。 でも七種先輩の言ってる事は正しいよ。 是非とも先輩には今の言葉をゴリさんにぶつけてやってほしい。
「あはは、まぁでもそれだけ深夜でも一緒にやってくれるって事は凄く仲の良いお友達って事なんでしょ? それならこれからもそのお友達は大事にしなきゃだね」
「あ、はい、それはもちろんです!」
「うんうん、それなら良かったよ。 あっと、ごめん、そういえば私ちょっと同級生の子に呼び出されてるからもうそろそろ行かないとだ」
「あ、そ、そうなんですね。 す、すいません、俺の方こそ足止めしちゃって」
「ううん、全然大丈夫だよ、これからはお金落とさないようにね。 それじゃあね」
「は、はい、お疲れさまです!」
そう言って俺は七種先輩とはそこで別れた。
先ほどまでの俺は眠くて死にそうだった訳だけど、七種先輩と話が出来ただけで眠気は完全に吹っ飛んだ。 なんだか今日は良い一日になりそうだと思いながら、俺は自分の教室へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます