第4話
正彦の職業は剣士だ。階級は上級剣士。剣士の仕事は亜人の討伐が主になる。
亜人。人の負の感情から生まれる人類を害する天敵。人に似た外見を持ち特徴は澱み腐った血のような赤い眼をしていること。知能はピンからきりで獣のような知能しか持たないものからさまざまな策略を練る者までいる。
亜人は滲むようにして突然現れる。その予兆を掴むことは難しく、対応が後手に回り亜人の被害は減ることはあっても無くなることがない。
今日もまた亜人の現界通報を受けた剣士をまとめる協会からの依頼で現場に駆けつけていた。
正彦が現場に着いた頃には規制線が張られ現場は緊張感に包まれていた。
そんな中見知った顔を見つけて近づいていく。
「よう正彦」
「海堂か。状況は?」
新島海堂。正彦と同じ時期に剣士となり、それ以来長く付き合っている同期だ。
「奴さんは大した知能は持っちゃいないな。獣と変わんねぇよ。精々四等下位ってところだ」
「なら今日の仕事は早く済みそうだ」
亜人にも剣士と同様階級が定められている。
下から四等、三等、二等、一等。それぞれに上中下位の細かな分類が振られていた。
その中で今回のは四等下位。最下級の亜人だ。上級剣士の正彦が相手では傷を負う方が難しい。
正彦は腰に吊るす剣を抜き、亜人の元へ向かう。
武装した集団に囲まれ、亜人は威嚇するように唸り声を上げていた。見た目は一見普通の人間。ただ眼は澱み腐った血のような赤。
四肢を地面につき四足で構える姿はもはや獣だ。
「さっさと終わらせよう」
「そういやお前ん家の倅。その後調子はどうよ」
仕事を終え現場の後片付けを眺めていると隣に海堂がやってきた。
「泣き言も言わず毎日剣士になるため頑張ってるよ」
「できた息子だなぁ。未だ六歳だろう? 普通なら遊びたい盛りな年頃じゃねぇか。ましてや、な」
長い付き合いのある海堂は正彦の息子、全盲を患う秀蔵のことを正彦の口からよく聞いていた。
海堂は二人の子を持ち親としては正彦の先輩だった。だからよく秀蔵のことについて相談を受けており、故に海堂にとって秀蔵は友人の子供以上に情を抱いていた。
一年前、正彦から秀蔵が剣士になりたい言い出したことを聞いた時はまさかと思った。酷なことだが目の見えない秀蔵は剣士になれるわけがない。しかし一月が経ち、半年が経ち、一年が経ち。遂には剣気を感じ取れるようになったという。
秀蔵に本気の意志を感じ取った。本気で剣士になろうとしているのだと。
「あの子は目が見えないからか、目に見えないモノを感じ取る感覚に長けているんだろう。まさか一年で剣気を感じ取れるとは思っていなかった」
「だな。俺たちが感じ取れたのだって何年も経ってからだったもんなぁ」
しみじみと過去を思い出し語る。
辛い日々、重ねた鍛錬。そして感じた努力の成果。
二人は秀蔵に光を見出していた。たった一年で剣気を感じ取って見せた秀蔵に。
「俺は誰かに剣を教えたことがない。だから今も手探りで修造に教えてる状態だ。目が見えないこともあってどう教えればいいかいつも悩んでる」
「そうだなぁ。人に教えるってのは存外難しいもんだ」
「だからこれからも海堂には相談すると思うけど、よろしく頼むよ」
「任せろ! 剣だけじゃなく子育ての相談でもかまわねぇぜ?」
正彦は海堂に感謝すれば海堂は豪快に笑って見せた。そういう豪気なところがこの男のいいところなのだと改めて感じた。
「んで子供が頑張ってんだ。そろそろお前も上を目指すときじゃねぇか?」
「……あぁ。あの子のためにもこんなところで燻ってる訳には行かないからな」
その帰り、協会に寄った正彦はある申請を行う。
剣士階級の昇格試験。
達人へと至る登竜門。
息子の姿に負けじと父親も歩みを進めていく。
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