魔法使いの弟子になりたい

ケー/恵陽

魔法使いの弟子になりたい

「オレを弟子にして!」

 そう言った男の子は先日怪我した父親を助けてやった子だ。まだ十歳そこらで父親の倒れた姿は衝撃だったようで、治療の後から日に一度以上店にやってくる。わんぱくで、くるくるとよく動く子だ。

「お父さんを手伝ってやんなよ」

「とーちゃんから魔法使いさんにお礼してこいって言われた! このままだとオレなんも出来てない」

 だから弟子になる、と胸を張る子ども。

「ばーちゃんさー、また弟子とるんだろ。じーちゃんとばーちゃんがそのうちまた弟子をとって新しい子が居つく、って聞いたから。それならオレが弟子になろうと思って!」

 さもいい考えだろうと満面の笑みを浮かべる少年に、私は困る。

「そうさねえ……」

 弟子をとるのはとるけれど、実はそれは見せかけだとどうやっても言えない。見た目を少しずつごまかして年をとった振りをする。そのうち若い姿で弟子になったと言い、老婆姿の魔法使いは引退して遠い地に引っ越したと伝えるのだ。それを幾度と繰り返し、今の私はもはや何代目かわからない。

「ねえ、魔法使いのばーちゃん! オレを弟子にしてください!」

 曇りのない眼を前に、さて思う。どうやって逃げればよいのか、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法使いの弟子になりたい ケー/恵陽 @ke_yo_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説