拾い神

木枯月扇

拾い神。

ここはとある安いアパート。

現在、俺は見知らぬおっさんと2人でテーブルを囲んでいる。え、なんで?

もうこの時点で普通じゃない。


 ところで、誰でも一度は聞いたことがあったり、小学校などで習ったりするであろうことわざ


「捨てる神あれば拾う神あり」


これは、簡単に言えば見捨てられたりしても世の中には沢山人がいるんだから助けてくれる人も沢山いるんだよ。今回は偶々だから気にすんな、落ち込みすぎるなよ的な意味である。


この言葉通りならば、俺は神になった。


 目の前で自分の作ったご飯をうまうまと口に運ぶおっさん。育ち盛りの子供のようにガツガツと米をかき込んでいる、他人の米を。


「まぁ道端で腹減った、死ぬって連呼しながら地面に横たわるあんたをうちに呼んでご飯食わせてるのは俺なんだけどさ…...」


 ため息混じりの言葉の後半はいろんな感情が込み上げ声が震えていた


「久しぶりのご飯うめぇー! あ、たくあんまだある?」

「...…こんなのがってどーなんだよっ!! てか本当に神様なのかよ!」


バンッ!


 感情に任せて机を叩くとおっさんは食べるのを一旦止めた。


「いやだからさっきも言ったじゃん、本物の神だって。本当助かったよ、このまま見捨てられてたら道端でのたれ死んじゃってたよ」

「神様って餓死するのか?」


 俺の疑問をハハッと笑い飛ばし自称神様は、ラストのたくあんをひょいと口に放り込む


「やっぱ信じられるか!普通の人だったら警察に通報してるぞ」


 俺は見てられなくて一回ならと助けてしまったが、せめてそんなキャラは設定やめていただきたい。


「捨てる神あれば拾う神あり...ってね?」

「キメ顔で言うなよ、別段上手くねぇ!てかお前の場合神が捨てられてんじゃねーか」

「まぁまぁ、細かいことは気にしないの。とにかく助かった。感謝はもちろんしている、ありがとうね。腹も十分膨れた」

「お、おう」


 礼はしっかりする辺り、少しはまともだなと思ったのだがその矢先だった


「じゃ、ご馳走さま。帰るね」

「は?」


 自称神様が目の前で音もなく、パッと、アニメとか漫画であるテレポートの様に消えた。

部屋中を見渡すがどこにもいない。


「まじか、消えた…...? 本当に神なのか?」


 突然起きた現象に驚きを隠せず、思わず頬をつまむ


「痛い」


きっと悪い夢なのだろう、それか疲れているんだろう。そう思ったのだがこの痛みは現実を突きつける。


 そして自称神がパッと消えた2日後、俺はさらに驚く事となる。


 いつものバイト帰り。あの日と同じ道端に...


「腹減った...…死ぬぅ、飯~。たくあんと飯ぃ、あと味噌汁ぅ」


 あいつがいた

しかもだんだん要求が贅沢になっていくことに腹が立つ。


 が、見間違いの可能性もあるし気になるのでとりあえず近付いてみる。

あぁやっぱ先日の奴だ


「なんでまた餓死しかけてるんすか」

「おぉ、君はいつぞやの……もしやまたご飯を?」

「......。」


 何も答えず、迅速に携帯を取り出し流れるように「110」を押した。


それから5分も経たないうちにお巡りさんが駆けつけ、職質などを行なってくれているのだが


「ふざけるのも大概にしたらどうだ!酔ってるんじゃあないだろうな?」

「酔ってないって!しかもさっきから言ってるじゃん、神だって」


このざまである。一向に会話は進む気配がない...

警察を怒らせてるぞこのおっさん。

きっとこのままだととりあえず連行されて終わりだろう、関係ないし後は任せて帰ろう


「じゃあ、後はお願いします」

「あぁ」


軽く会釈をして帰ろうと背を向けた直後


「え、あ、待ってよ御木斗みきとくん!ジョーダンきついなぁ、泊めてくれるって言ってたじゃないか!」


今何て言った?

泊めるわけ無いじゃないか。いや、それよりいつ名前教えた?

確かに今あいつは俺の名前を言った気がしたがきっと気のせいだろう。


「え、何友人関係だったの?もー、困るよ遊び半分で電話かけてきたら。これからは無いようにしてね」


あいつが変なこと言い出すせいで勘違いされている!?

とにかく否定しなければ


「いや違「お騒がせしてすみませんでした」お前が謝るな!」

「今回だけだからね!おじさんも仕事忙しいから、じゃっ」

「いや待っ...逃げられた」


忙しいと言うよりかは、もうこのめんどくさいおっさんと関わりたくなかったのだろう。

気持ちはわかる、わかるのだがそれでいいのか、お巡りさん。


「で、お前は本当何なの。ここまできたからには洗いざらい吐いて貰うからな」

「それ犯人に言うセリフじゃあん」


もう放置は諦め俺の名前のことなど聞きたいことが山ほどあるのでまた家に上げることにした。


「じゃあまたご飯食べさせてね、後お風呂も」

「はいはい、どんだけ面の皮厚いんだよ」


 とりあえず家に着いてすぐ、お風呂に入って貰うことにした。


「お風呂ありがとうねー、ふぃーさっぱり」


お風呂を出てさっぱりした様子の奴は、先程までの薄汚れた服とは違い少しサイズが大きめなダボっとしたパーカーを着て出てきた。


無論、俺のである


「...いつ漁った」

「さっきタンスからちょっとね、ちなみにパンツも新しいのあったんで貰いました」


まさかの【借りる】ではなく【貰う】発言。使用済みパンツ返されても困るけど


「いっそのこと清々しいわ」

「そんなそんな。照れるなあ、ありがとう」

「褒めてねーけどな」


その後、ご要望通り白米たくあん味噌汁を食べさせながら本題に入ることにする。


「で、お前の正体となぜ俺の名前をあの時点で知ってたのかを教えてもらおうか」

「ご飯も風呂もお世話になったし、まあいいよ」


 何から話すかなーと呑気に奴は口を動かし始めた


「・・・と、言うわけさ御木斗くん。アンダースタン?」

「ちょっと待ってくれ整理がしたい」


 呑気に話し始めたくせに内容の量が多かった。


順を追っていくとまず奴は本当の神様だそうだ。

そして倒れていた理由は、


「単純にこの世界の通貨とか無いのと、神だから住所も無いし行く宛て無くって。それにお腹も減らないわけじゃあないんだよ」


だそうだ。神様ホームレスかよ。

俺は同時に出た疑問もぶつけてみた


「なんでわざわざ神様みたいな徳の高いのが地上に人の形を成してまで降りてくる必要があるんだ?」

「それしかなかったんだよ、あぁそれと【降りてくる】って表現間違ってるよ」


 その後の発言は俺の今までの概念をぶち壊した。この神によると、元々神様は数人の本当に数える程度しか存在せず、ある特定の命令をされた時にのみ転移させられるらしい。されても人間に姿を見せてはいけないという規定があるらしい。

......破ってるなこのおっさん。


「じゃあ、あんたも何か命令をされて来たってことか」


 神は首を横に振る。


「いいや、おっちゃんはね...捨てられたんだよ」


 酷く悲しそうな顔をしている。

1日に何回驚けば済むのだろうか、人間の中で【無敵】【最強】【万能】などと思われている神が捨てられただって?ありえない。

俺は思ったことを口にする。


「神が捨てられるだなんて、ありえない」

「何故言い切れる?実際君達はよく知ってると思うけど?捨てられた神を。ほら、宇宙人だよ宇宙人」

「いや、それだと形があんたと違う。見たことある人の方が少ないかもしれないが一般的な宇宙人と思われているのは人型じゃないし色も違う、矛盾だらけだ」


それを聞いた神はケタケタと笑い始める


「神の言うことだよ? 素直に信じようよ。そっかそいえば言ってなかったね、地上に人の形を成して来ちゃった理由」

「...信じるから、教えてくれ」


確証もないのに信じると言ってしまったが、実際嘘をついている感じは全くしない。それが不思議と伝わってくる。


「神はさ、下っ端なんだよ。僕なんかよりもっと偉大な上の存在があり、その存在に捨てられる際記憶を消され、いろいろな形に変えられてしまう。それが宇宙人の正体」

「神より上だって!?」


話によれば、それはもう存在であり現象であり、言葉では表せないのだという。そしてこのおっちゃんが人の形を成して来たのは偶々であり、記憶が残っているのもただの運が良かっただけだという。


「じゃあ俺の家から一瞬で消えたやつ、あれはなんだ? あと俺の名前、なんで知ってた?」

「ワープは100mくらいの範囲ならできるよ。エネルギーすごい使いけど。名前を知ってたのは普通に部屋の中の書類に書いてあったから!」

「そ、そうか」


 ワープ以外普通だった。名前の知り方は空き巣と一緒かよ


「じゃあ最後に、なんで捨てられたんだよ」

「なんで、ねぇ...『アレ』は基本喋らないから真実はわからない。けれど、僕の予想としてはもう神は地球には要らないんだよ」

「神の口から聞いてはいけない事だろそれ」


 いらないとはどういうことだろうか?実際地球には神を信仰しているとこも多く存在する。日本なんてそこら中に神社があるし、決して要らないなんてことはないはずだ


「はは、不思議に思ってそうな顔だね。じゃあもうちょっと深く説明だ」


 神が話し始めてから相当時間が経っている、まあ明日は休みだからいいか。


「おう、お願いする」

「と、その前に...もう眠いから寝ていい?」


 言い終わる頃にはお得意のワープでベットに向かった痕跡しか残っていなかった。わざわざエネルギー無駄遣いするなよ!


「すごく、すごくしばきたい」


 しょうがない、今日は床で寝るとしよう。俺の部屋なんだけどな。俺の。


次の日の朝


 昨日あんなに密の濃い1日を過ごしたと言うのに実に人間というのはマイペースなものだ。


「いつもより3時間多く寝てるな」


 早く起きたければアラームでもセットすればいいのだが、わざわざ休日にまでアラームかける人なんて存在するのだろうか?

眠い目を擦りながらもとりあえず重い身体を起こす、何かを忘れている。

というか何故床で寝てたんだっけ?

とりあえずベットで二度寝しようとベットルームのドアを開ける。


ああそうだこいつだった。


「神様......か」


 あまりにも気持ちよさそうに寝てたので二度寝は諦めた


「起きたら、いろいろ聞かせてもらうからな」


 スヤスヤと寝る神の寝顔はおっさんの癖して子供のようだった



「ふわぁ~...朝か」


 地球儀の中の皆さんおはよう、神様です。

只今の時刻は10時37分、っていっても時間なんて人間が作った概念に過ぎないんだけど。

前まではそんなもの存在しなかったからなー、この世界にいるなら慣れないとダメだな。

改めて人間は神よりもいろんなものを作っているんだと思い知る


「この寝癖ってやつも人間独特だよね。あはは、変なの」


 横にある置き鏡を見ながら呟く。

しかし、次の瞬間気づく。自分が心配すべきは寝癖どころじゃないことを


「......?」


言葉が出なかった。

いつもはふわふわとしていて明るい表情が取り柄だと自覚している神でさえ、目の前の状況が理解できなかった。


「...縮んだ?」


 どころではなかった。昨日の夜、布団の中に入るまでは、夢の世界に行くまではイケオジフェイスだったはずだ。なのに、それなのに自分を写すといわれている鏡の世界の中にはイケオジの姿は無く、代わりに幼い子供の姿があった。髭がそのままなのが見苦しい、てか怖い。こんな姿誰にも見せられないよ。


しかしそんな時、理不尽なほどお約束なのがこの世界の嫌なところだ


「おーい、そろそろ起きてくれ。朝というかもう昼ごはんがで...こ、子供!?でも髭がある怖っ!なんで!?」


 合ってる。その反応は合ってるんだけど、今来てほしくなかったなあ。怖とかちょっと傷つくし自分でも整理ついてないし


「えと、おはよう。神です」

「そう、か?お、はよう?」


 ほら、混乱してるよ。僕以上に。

とりあえず落ち着くためにまずはごはんだ。というわけで2人はテーブルにつく事にした


...で。


「神よ、その幼気な姿の理由はわかったのか?」

「まー、大体整理はついたよ」


 御木斗君の作ったトーストにハムやら卵やらを乗せた物を頬張りながら話は進む。

御木斗君も一旦落ち着いた様だ、よかった。


「じゃあ、解説入るね」


 少し高くなった声に違和感を抱きながらも僕は整理した内容を話した。


ーーー


 神様が子供の様な寝顔で寝てたと思ったてたら本当に子供になってました。でも髭はそのままって何なの。

何で姿が変わったのかは、解説のお陰でなんとか理解できた。

どうやら俺たち人間でいうホルモンバランスの乱れ的なやつらしい。神は「人間バランスが乱れたんだねー」と言っていたが、それどころじゃないほどに髭が幼い顔に似合わなかったため剃ってもらった。


「で、昨日の話の続きなんだけど」

「あぁ、わかってるって。さて、どこまで話したかな?」


 そしてまた子供の小さな口からまた大きな内容が語られ始めた。


「ええと、神の存在意義だっけ?」

「あぁ、そんな感じだ。あんたが神なんていらないなんて可笑しなこと言ったんだよ」


 他の誰でもない神様の口から放たれたのだ。忘れるわけがない


「そうだったね。じゃあ理由を述べよう、まず「神」とはいつ生まれたと思う?」

「あんたが誕生した時ってことか?」

「いいや、厳密に言うと僕らは『神様』じゃない、今聞いてるのはその単語自体。『神様』についてだよ。誰が初めに言い始め、崇め生活にまで定着させたと思う?」


 ここで実は神じゃない発言。ングアウトってな


「そんなもん...あれ、誰だ?キリスト...イエスか?」


 それくらいしか思いつかない、もうちょい歴史とか頑張るんだった。


「ふっふっふ...イエスという回答でいいんだね?答えはノーだよ」

「別に面白くも上手くもねぇよ!」


 ドヤ顔だった神の頭に思わず軽く叩いてしまうが神は気にしてない様で笑いながらごめんごめんと続きを語り始めた


「イエスじゃない、ノーな「それはさっきやった」わかったよ、正解は誰なんだろうね?わかんない」

「は?」


 思わず首を傾げる


「わかんないのが正解だよ。時期すらもわからない、誰が初めに信じたのかもわからない、まず神という存在自体人間が非現実的なことを理解しようと、理解出来なくても納得しようとして作ったパズルのピースみたいなものなんだからさ、顔なんて無いし見た人いないでしょ?」


 それもそうだが、それならここで1つ疑問が生まれる


「じゃあ、あんたは一体...?」

「それは今から、じゃあ続きいくよ。神は知らないうちに崇高な存在として信仰されてきた訳だけど、どうかな? 神社とかはあるけど僕たちから言わせれば詐欺みたいなものだからねあれ、僕たちに利益ちっともこないし。まぁ、僕たちは君たちの言う神とやらがやっていると思っている事と『非常に似たこと』をやってるから、もうそう名乗ることにしてるだけだけどさ」

「俺たちの言っている神が偶然あんたらの事を指していたってことか」

「呑み込みはやいじゃん、そゆことー。じゃあ最後、神がいらないって事だけど」


 やっときたか、辿り着くまでにどれだけ突飛な情報出てきたことやら


「まず神様なんてものを君は信じるかい?」

「まぁ、目の前に居るんだし。信じるって言ったしな。正直現れるまでは信じてなかった」

「だよね。じゃあ、今まで何回『神様~助けて~』って思った?」

「それは何回も思った、受験とかの時とか特に。神社で合格祈願とかやったし」

「でしょ~。でも結局祈願しても落ちる人はいるよね、悲しいことだけど。存在しない神という虚像に縋り失敗した人はさ、僕が知ってる中では『あぁ、神にも見放されたんだ』とか言って自殺するか、心も体も閉篭もってバットエンド。心の底から信じたこともないくせに...勝手だよね」


 最後のは本心らしく、少し暗い表情になる


「でもそれだけじゃまだいらない理由にしては弱くないか?」

「そうだね、じゃあ質問。数年前の大震災で何人が神を信じ、朽ちていったと思う?」

「それは...」

「僕らは絶対的な力なんてない。そして神じゃない僕たちは人間にとって害となることがわかってるんだ。実質その大震災も僕たちが発生させた様なものだしね」


 俺は唖然としていた、開いた口が塞がらない。


「なんだって?」

「僕たちの様な存在はね、確かに地球ここにいなかった時は少し、ほんの少し人を助けるなんていう力もあった、君たちの言う本当の『神様』の様にね。でもそれにはリスクがあるんだ」

「リスクだって?」

「そう、それは人を救えば救う程それと同じ分だけ別の場所で、別の他人へと不幸として降り注ぐというものなんだ。最初はその不幸をも取り払えていたんだけど、凄いエネルギーを使うんだ。僕たちのいた場所にはそれだけのエネルギーを蓄えられるものがなく、どんどん力が弱くなっていった。そして更に時は流れ、ついに残りカスの様な存在となった僕たちは不要とされ、地球へと捨てられたんだよ」


 まーこの世界同様仕事ができない存在がいらないなんて当たり前だけどね。

人の信仰がどうたらこうたらなんて所詮は僕ら本意の八つ当たりに過ぎないのさ、と続けた。

神のいらない発言とは人間からではなく神自身から見たいらないだったのだ。


「つまり、他にもまだ元神様的存在が地球にいるんだな?」

「正確には『居た』だよ。もっと詳しく言えば...」


 急に俯き悲しげになる神の表情


「僕が排除ころしたんだよ」

「あんたが、殺した?」

「うん」


 酷く悲しそうな冷たい声だった


「どうしてそんなこと、仲間だろ?」

「そうだったんだけどね、ここに来てすぐ僕以外は人の形をしていないことがわかったんだ。しかも悪いものを吸収して」

「悪いもの?」

「穢れって言えばいいのかな? 人間の負の感情だよ。僕らはそれを嫌でも吸収してしまうんだ。僕らといっても人間の形になって捨てられた僕以外の話だけど」

「吸収するとどうなるんだよ」

「あまりにも多いと吸収しきれなくなって膨張し、人には見えない粒子が風とともに広がり、災害などの基盤を作り出す」


 ここでさっきの話と結びつく


「それってまさか」

「あぁ、さっき話した大震災だよ。僕の前に捨てられた元神様がトリガーになっていたみたいだね」

「じゃあ排除したっていうのは」

「僕たちは僕たちにしか殺せない。1人が相手でも、殺すには多くのエネルギーが必要だった。人間の姿ではご飯という形で供給できるんだよ」

「だからあそこで餓死しそうだったのか」

「2回目君と会った時は5体目を倒した後だったかな、エネルギーが切れると何故か初めのあの場所に自動でワープするみたいでさ。捨てられた僕にできる正真正銘最後の仕事さ」


 そんなこと、何も知らない人間ならば聞こうとも信じようともしないだろう。けど今の俺なら信じられる、耳を傾けられる。

知らない間に世界は救われていたのだ、こんな誰にも信じてもらえていなかった様なものに。


気づいた頃には小さな神を抱きしめていた


「ありがとう、地球に来てくれて。あんたは誰がなんて言おうと必要だ。俺が保証する」

「あはは、苦しいよ。まさに捨てる神あれば拾う神ありかな?」

「ははっ、うるせーよ」


 抱きしめていた俺の服が少し濡れる、仲間だったやつを殺してたんだ。仲の良い存在だってあったはず、感情を抑えていたんだろう。


「ズビッ...これから、どうしようかな?」


 涙を止め、神が小さく呟く。

俺のパーカーに鼻水もつけやがったな、けどそれもまあいいや。


「俺が拾ったんだ、神の1人くらい世話してやらぁ」

「本当!? じゃあ、これからよろしくね御木斗くん」


 子供そのものの笑顔で答え、小さな手が伸ばされる


「あぁ、捨てる紙あれば拾う神あり。だもんな」

「気に入ってるでしょそれ?」


 偽善でもいい、こいつを救ってやりたい。その手を強く握り返す。


かくして、神様との日常が始まったわけだが...1つ忘れていた


~数日後~


「神...お前その格好...」

「あ、戻ってる。よし、コンビニでお酒買いに行こ!!」

「おっさんだったの忘れてたぁぁぁぁぁ」


 拾う神には注意せよ。忘れることなき人生の教訓が増えた。

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拾い神 木枯月扇 @tugumi124

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