第02話:時間の概念を縛るもの
オレレビーチの水平線が、朝日で一瞬、
一樹は、目の前に広がるそんな美しい光景を眺めながら、朝日という水彩で
「そういえば、この
一樹はそんな景色のうつろいを眺めながら、短かく清潔に整えられた頭髪を右手で軽くかきあげ、180cmは
唯一、波の音が一樹に寄り添い、その心が
「それだけじゃない、水深の影響もあるの。虹と一緒よ。透明度の高い遠浅の海で、海底に
一樹がその声の主に視線を向けると、そこにはカンペキな化粧とカンペキなドレスアップをした
「
あきれ顔を浮かべる一樹に対し、
「仕方がないじゃない、男と違って女は準備に時間がかかるもの。私が遅れることを計算して待ち合わせ時間を設定しなかった一樹が悪い」
「
一樹はそう言って、軽く
「あはは、それを
「そういうことを言っているんじゃなく、って時間は光?」
一樹は、
「なーんだ、一樹は知らないんだ。時間がどういうものなのか」
「いい、一樹。この世界に独立した時間なんて存在しないの。時間は光によって定義される概念にすぎないの」
「
一樹がそう言うと、
「そうね。確かに一樹の言う通り、1秒は、セシウム133原子の基底状態の2つの超微細構造準位の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍と定義されている」
「超微細構造準位? 放射の周期?」
色々思い出そうと記憶の戸棚をひっくり返している一樹をよそに、
「でもね、物理の世界ではそんな国際単位の定義なんてどうでもいいの。だって、そんなもの何の意味も持たないもの。いや、持たないっていうのは、ちょっと言い過ぎか……。つまりね、一樹。物理の世界では、時間の流れはいくらでも変化する。だから1秒の長さの定義なんてほんと無意味なものなの。物理の世界で変わらない絶対不変なものは光、光の速度、光速なのよ」
「知識として光速が一定である事は知っている。ただ、いまいち実感がわかないんだよな……」
「よろしい。では、遅れてきたお
一樹のその言葉に、
「ねぇ、一樹。去年、私が一樹に切符を渡したまま、リニアに乗っちゃったこと覚えてる?」
「覚えてる、覚えてる。切符を渡せるわけないのに、
一樹は、そういいながら
「では、そんな思い出のリニアで問題。双子のAとBがいたとして、Aが走行中のリニアに乗っているとします。Bはホームにいるとします。リニアに乗っているAとホームにいるBが真横に並んだタイミングでリニアの進行方向に走り出したとしたら、50m前方にあるゴールに先にたどり着くのはどちらでしょうか?」
「そんなの、リニアに乗っているAに決まっているじゃないか」
「なんでって、そりゃあ、リニアの中で走っているAの速度は、リニアの速度と人が走る速度を足した速度になるんだから、リニアに乗っていないBより速いに決まっているじゃないか」
「正解、じゃ、問題を変えるね」
そう言って
「さっきの問題と同じ、リニアの双子で考えてね。今度は足の速さが同じではなく、筋力が同じだったとして、リニアに乗っているAとホームにいるBが同じタイミングでボールをリニアの進行方向に投げたとしたら、10m前方にある
「答えはさっきと同じ、リニアに乗っているAに決まっている」
「どうしてそう思ったの? ボールは電車と接触していないから、電車の速度はボールにのらないと思うんだけど?」
と意地悪な質問を返す。しかし一樹は、ニヤっと余裕の表情を見せると、笑顔で答えてみせた。
「ボールが宙に浮いている時ではなく、ボールが手を離れる瞬間に注目すればいいのさ。人の体はリニアと接触しているから人の体はリニアと同じ速度で走っている。だからボールが手から離れる瞬間までボールはリニアと同じ速度で走っているのさ」
「そして、手から力を受け、ボールはリニア以上の速度に加速される。だから、ボールはリニアの速度より速いのさ。もしボールがリニアの速度より遅くなってしまったら、投げたボールは後ろに飛んでいってしまうからな」
そう一樹が得意げに答えると、
「じゃ、次の問題も楽勝ね」
そう言って
「さっきと同じ条件で、リニアに乗ったAとホームにいるBが、ボールではなく光を前方に照らした場合、10m前方の
「リニアに乗っているAの光」
三度即答した一樹に対し、
「ボールを投げた時と同じで、光の速度にリニアの速度がのっているからさ」
一樹のその答えを聞いた瞬間、
「残念、不正解。答えは同時。光は光速以上の速さで進むことはできない。つまり、どんな速い乗り物に乗っていたとしても、光は同じ速度で進むのよ」
「では、最後の問題。光の速度で飛ぶ宇宙船があったとして、光を宇宙船の進行方向に当てたとしたら、光はどうなるでしょうか?」
目をキラキラさせている
「もしかして、光はその場で止まっているのか?」
一樹のこの答えを聞いた
「そう、その通り、大正解! そうなのよ、光は光速以上の速度で進むことができないから、光速で進む宇宙船の中ではその場で止まって見えるのよ。この世のすべてのものは光速より速く進むことはできない。そして、光速はどんな状態でも一定。これが光速不変の原理」
「では、一樹くん。次のレッスンは時間と光速の関係についてだゾ」
と言葉を続けた。
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