第04話:ささやかな願い
水平線で緩やかな弧を描いていた太陽の輪郭は、その弧の長さを徐々に伸ばしていく。潮風は東から西へ、時間は過去から未来へ、ゆっくりと流れていく。太陽は、いつの間にか、高く
「そうそう、一樹にこれを渡しておかないと」
「
「これは私の最新の記憶データ。宇宙船の会話用AIに
「今回の宇宙航行で地球と交信できるのは8回だけ。しかも通信ラグが
一樹の素直な言葉に、
「で、でも、それ、昨日の夜までのデータなのよね」
「あぁ、今日、
そう言って笑う一樹の横顔をみつめていた
「ところで、
一樹が
一樹が紙袋を開けると、そこには小さな御守りが入っていた。その御守りは、お世辞にも出来がいいと言えるものではなかったが、一樹はそれが
「ありがとう、
一樹は、万感の思いをこめ、
ふたたび、二人の間を沈黙が覆う。しかし、一樹と
「俺、やっぱり
一樹はそう言って沈黙を破る。
「なに、心にもないこといってるの」
「
一樹は、右手のニューラルウォッチを見ながら
「そうね」
「これから無菌室に行くのよね。宇宙に病原菌を持っていかないためとはいえ、面倒なものね」
その声を聞いた一樹も、
「仕方がないさ、完璧な健康管理が求められる宇宙航行に、病原菌や他の微生物、細菌を連れていくわけにはいかないからな」
一樹はそう言って、優しく
しかし、
「科学の進歩というものは本当にありがたいな、
急にそんなことを言いだす一樹を不思議に思った
「21世紀初頭は、出航の一週間前から無菌室に入らなければならなかったんだ。でも今は、科学の進歩のおかげでギリギリまで
一樹はそう言って
「でも、宇宙から帰ってきた宇宙船の中は細菌だらけになっちゃうのに。本当にそんなことしなくちゃダメなのかな」
そんな
「人間は約37兆個の細胞でできていて、その細胞には約100兆個の微生物が付着している。つまり人間は大量の微生物を飼っているというわけだ。今さら体の表面だけ無菌状態にしたところで、その効果は知れてるかもしれないな」
「いいじゃない、微生物。微生物がいるから、宇宙に出ても一樹は一人じゃないってことなんだから。でも私は寂しいな、もし許されるのなら、私もあなたと一緒に星屑の海を旅してみたかった、だから」
「だから、せめて、私の微生物だけでも、宇宙に連れていってね」
そう言って静かに笑う
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