第25話 遠征訓練
「それでは来週の遠征訓練について説明を始めます」
午後。時報の鐘の音と共に、教壇に立つティーザ先生が授業を開始した。
「騎士になれば見知らぬ土地で戦う機会も多々あります。見知らぬ土地では初めての魔物や環境に苦労することでしょう。そういった事態を経験し、慣れることで、適切に対処する力を培うのがこの訓練の目的です」
コホン、と一つ咳払いを挟む。
「今回は初めての遠征で、教本から得た知識だけでは判断できないことも沢山起こるでしょう。そういった時は躊躇わず仲間達に相談してください。今回は一組全員での遠征です。自分一人ではわからなくても、仲間と話し合えば解決策が見つかるかもしれません。情報共有は集団行動の基本でもありますしね」
遠征訓練は、初めの頃はクラス全体で行うことになっていた。
三学期からは段階的に人数が減らされていくので、それまでには慣れなくては。
「我々教師も付いて行くのでもし任務が失敗しそうになったり、期間内に達成できなさそうだったりすればこちらで解決します。ですので失敗を恐れず存分に取り組んでください。ただし、教師がいるからと油断してはいけませんよ」
ティーザ先生は私達を見回し、一つ頷いてから話を再開する。
「それでは訓練の具体的な内容説明に入ります。期間は七日。目標はマルセル領で起きた異変、魔物の異常行動の解決です。調査を行い原因を究明、可能ならば解決してください」
マルセル、という名前には少し聞き覚えがあった。
記憶を探ってみて、そして思い出す。ゼルバーの苗字がマルセルだったのだ。
「ちなみに、お気づきの方もいるかもしれませんがマルセル領はゼルバー君の故郷ですね」
「先生、質問宜しいでしょうか」
シャッキリと背筋を伸ばした生真面目そうな青年、トビーが挙手をした。
トビーは内部生であり、初等部の頃に一度同じクラスになったことがある。
見た目に違わず厳格な性格をしており、自分の正義を臆せず
「トビー君、どうしましたか? 遠慮なく話してください」
「ありがとうございます。マルセル領はゼルバーさんの故郷とのことでしたが、既知の地での任務は訓練の趣旨から外れるのではないでしょうか」
「仰る通りですね……ただ、ゼルバー君には申し訳ないのですが、変えることは出来ません。出身地と育った場所が異なる生徒もいますし任務の数も有限。どうしても知っている土地の担当になる生徒は出てしまうんです」
「オレは構わな……んん、構いません。遠征訓練はこれからも月に一度以上は行われるのですし、この一回に拘る必要はないです」
ゼルバーが平然と言った。
それから、質問を行った男子生徒が、
「そうでしたか。お時間いただきすみませんでした」
と頭を下げ、再び任務の説明になる。
「報告によると銀級偏魔地帯、
資料を片手に、黒板に情報を記していくティーザ先生。
まずは
「
それから危険な特性を持った植物について説明を受け、次は魔物の分布についてだ。
「
話が進むにつれて黒板の情報も増える。
各種族の傾向から要注意な魔物の特徴まで、重要な情報が抜粋して記されている。
その後、確認されたハグレについて一通りの説明を終えたところで先生はチョークを置いた。
「──以上が現在判明している情報になります。まずは考えられる原因を挙げていきましょう」
どうやら原因の推測も私達に任せるらしい。
何人かの熱心な生徒が自身の意見を発表して行く。
私も一つ、予想を述べさせてもらった。
「意見は大体出揃ったでしょうか。では、これらの案を念頭に置きつつ、しかし他の可能性も忘れないようにして遠征に臨んでください」
それから遠征中の班分けをすることになった。
ずっとクラス全員で動くわけにも、逆に個人個人がバラバラに動くわけにもいかないので班分けは必要である。
「よろしくなっ」
「フン、仕方がない。
「よ……くぉ…………ます」
「この四人で組むのは試練の荒地のとき以来か。よろしく頼む」
第一回実地演習の時と同じメンバーが集まった。
これまでにも何度か実地演習で班を作ることはあったが、完全に同じ組み合わせなのは久しぶりである。
班長はまた私が務めることになり、そうして遠征訓練の説明会は終わったのだった。
瞬く間に一週間が過ぎて行った。
今日は遠征訓練出発の日だ。
「では点呼を始めてください」
校庭に整列した私達は班ごとに人数を確認し、先生に報告する。
「はい、全員揃っていますね」
班長全員からの報告を受け、ティーザ先生は満足そうに頷く。
それから表情を引き締めて言う。
「本日から一週間、私達は学院の外で活動します。一般の方の目に触れることになるのです。学院生の自覚を持ち、軽々しい行動をしないよう心掛けてくださいね」
「「「はい」」」
「よろしい。では出発です」
その言葉で遠征訓練は幕を開けた。
ティーザ先生を先頭にコウリアの街を歩き発着場へ移動。
受付で手続きを済ませ、竜型の大型航空魔具、『飛竜機』へと乗り込んだのだった。
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