第24話 天災は──
その後、戦闘試験・集団戦の部と特殊環境の部もつつがなく終わった。
私は少し思いついたことがあったため、最後の試験が終わるとすぐに測定室がある第四鍛練場に赴いた。
そして早速試し打ちをしてみたのだが──。
──閃光、爆風、轟音。
五感を揺さぶる衝撃に、思わず腕で顔を守る。
しばし経ち、煙が晴れる。測定室の壁は全面が焼け焦げていた。
「…………凄まじいっすね」
「……申し訳ありません。ここまで威力が出るとは想定していませんでした」
「あ、いえ、この部屋は自動で直るんで大丈夫っすよ。後ろの魔石盤も無事っすし。ただ、時間がかかるんで今日はもうこの部屋は使えませんが……」
「確認は終わったので大丈夫です。……滅茶苦茶にしてしまってすみませんでした」
頭を下げ、測定室を後にする。
実験結果は期待以上だった。過剰と言い換えてもいい。
お試し感覚であり威力は充分に抑えたつもりであったというのに、これほどの破壊力とは。
(これは迂闊には使えないな)
破壊力だけではない。準備にかかる時間を思えば通常の戦闘では使えない。
手札としては強力なので練習はするが、この技に必要なのは【魔法剣】の基本的な技能だけだ。
すぐに何かが変わるということは無いだろう。
そんなことを考えつつ第二鍛練場へ入り、私は今日も鍛練を積むのだった。
それから数日後。
中間考査の成績が発表されたその日の昼。
「では試験終了を祝して、乾ぱーい!」
「「「乾ぱーい!」」」
「乾杯」
クラスメイト達と共に食堂の大テーブルを囲み、コップを掲げて唱和した。
話の流れで祝勝会を開くことになったらしく、私もそれに呼ばれたのだ。
なお一応断っておくと、乾杯と言ってはいるがコップの中身はアルコールではない。
まだ昼間であるし、王国法では成人となる十八歳まで飲酒は禁止されている。
適度に水を飲みつつ、黙々と料理を食べて行く。
「あ、これちょうだい」
「エビフライはさっき散々食べていただろう」
「食べ足りないの」
隣の席のサレンはそう言うと、砂泳海老のエビフライを一尾、フォークで刺して連れ去ってしまった。
代わりに肉団子をくれたので別にいいのだが。
「ね、ね、そういやジークス君はどうだった? 順位上がってたでしょ」
それからついでとばかりにそんなことを訊ねられた。
今日返却された試験結果には各試験の成績の他、学年内での総合順位も記載されている。
騎士学院では成績はかなり気軽に明かし合っているため、私も隠さず答える。
「そうだな、二百位以内には入れた。【魔法剣】様様だ」
「おおー、やったじゃん!」
「たしか以前は二百台と仰ってましたわよね。大躍進ですわね」
「むむ? あまり変わってないのではござらんか?」
「ワタクシが言ったのは初等部の頃の話ですわ。今年からは
「合点、その通りでござるな」
友人達の会話に耳を傾ける。
初等部の頃の生徒数は約三百人だったが、今年からは編入生が二百人ほど加わった。
そのため、初等部の頃と順位がほとんど変動していないのは、大幅に成長できた証なのだ。
それからふと気になり、今度はこちらから質問してみる。
「そう言うサレンは今回も一位だったのか?」
「とーぜん。座学も及第点だったしね」
「及第点で満足してはいけなくってよ。ワタクシ達は未来の騎士、あのくらいのこと当然わかっていなくてはなりません」
「耳が痛いでござるな……」
ちょんまげの彼、ゲンジロウはあまり座学が得意ではないらしい。
気まずそうな顔をしている。
「編入生の座学が遅れているのは仕方のないことだ。授業を聞いてじっくりと追い付けばいいだろう」
「かたじけないでござる、ジークス殿」
編入試験では初等部の入学試験以上に戦闘力が重視される。これは座学の勉強が疎かになりがちな平民の実力者を合格させるためだ。
例えばベックのように若手冒険者として活躍している者。
彼らは座学の勉強時間がどうしても短くなるため、試験問題も非常に平易な物が中心らしい。
「あの……ワタシへのフォローは……?」
「…………」
サレンも平民だが、『剣王』を授かってからは英才教育を受けているはずなので、私達貴族と条件は同じだ。
さりとて誰にだって得手不得手はあるのだし、学院が定めた及第点を取れているならそれでいいと私は思う。
が、開き直られると嫌なのでそのことは黙っておく。
「……ぐすん」
「…………」
「まぁいいや。座学と言えばベック君が結構良かったのが意外だよね、あんまそんな雰囲気しないのに」
「おいコラっ、聞こえてんぞ!」
泣き真似を止めて失礼なことを言ったサレンを、少し離れた席に座るベックが咎めた。
他の友人達と会話を楽しんでいたようだが、その優れた聴力で自身への中傷を聞きつけたらしい。
「ごめんごめん。いや、褒めてるんだよ? 難しい試験なのによく分かるなーって」
「当然だろ、あんなの授業でやった簡単な問題しか出ねーんだし」
「……へ、へぇー……」
「簡単……」
それから再び意気消沈したゲンジロウを慰めたりしつつ食事は進み、話題は学年順位に移った。
一位はサレンだが、二位以降が誰かは判明していない。
初等部での知識や高等部に上がってから二か月の間に聞いた噂などを出し合い、各々好きに想像を語っていく。
「あっ、五位はゼルバーだったわ。座学は酷かったけどその分戦闘試験で盛り返してたのよ」
「流石は”暴君”でござる。拙者も負けておられませぬな」
ゼルバーと仲の良い女子生徒がそんなことを教えてくれた。
座学の配点が低いとはいえ、落第していながら五位に食い込むとは素晴らしい。
当のゼルバーは「群れるのは好かん」と一人、別の席で食事をしているが。時たまチラチラとこちらを見ているので少し寂しいのかもしれない。
そんな風にして祝勝会は進んで行った。
しかしながら、昼食の時間はそこまで長く取られていないため、軽く話をしただけで終わりの時間となってしまう。
「ごちそうさまでした。そろそろ帰った方が良さそうかな?」
「そうですわね。そろそろお
食器を片付け食堂を去る。
「次の授業って何だっけ?」
「遠征訓練の説明だ」
「あー、それだそれ」
教室への道中、サレンの疑問に答えた。
来週には遠征訓練が控えているが、その説明会が次の単元で行われる。
どこに行くのか、どのくらい滞在するのか、そして具体的に何をするのかも知らされていないので少し不安だ。
そんなことを考えつつ、私達は教室へと戻ったのであった。
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