13. ネズミ一匹逃がさないよ



「てめえ、一体何者だ!?」


「そんなの、アンタらに教えるわけないじゃん」


「舐めんなよ……クソガキが!」


 こちらを睨みつけながらも武器へと伸びる男の手を掴み、その体を別の男へ投げ飛ばす。


 男二人が折り重なって、潰れたカエルみたいに無様な呻き声を上げた。


「この野郎!」


 続いて殴りかかってきた男の腕をかいくぐり、振り向きざまに男の背中を蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばされた先にいた男二人が巻き添えを食って倒れた。


「ははっ、アンタら弱過ぎなんだけど」


 これなら、あのお嬢サンの方がまだ強いだろう。


 剣を持った男が左右から斬りこんでくる。ボクは真上に飛び上がって木の枝にぶら下がり、攻撃を避けた。


 危うく仲間同士で斬り合いになりかけた男たちが軌道を逸らそうとしてバランスを崩す。そこへ飛び降りて、二人から剣を奪うなり柄頭で鳩尾を突いた。


 男二人が同時に胃液を吐き出して気絶する。


 続いて背後から振り下ろされた短剣を半身になって避け、短剣を持った手首を掴んで捻り上げる。そのまま短剣を抜き取って柄で男の頸椎を叩いた。


「殺気出しすぎで気配モロバレだから〜」


 隠密行動のなんたるかも知らないど素人が。


「っざけんなよ!」


 水平に振り抜かれた棍棒を地に伏せて避ける。その体勢から側転をするように脚を蹴り上げ、男の首を両脚で捕らえて地面に叩きつけた。


「ガキが! 調子に乗るのもここまでだ!」


「取り囲め!」


 いつの間にか人数が増えている。強盗たちの隠れ家である山小屋の中から出てきたのだろう。


 向こうから出てきてくれるとは、炙り出す手間が省けて好都合だ。わざわざアジトまでついてきた甲斐があるってものだね。


「やれ!」


 四方八方から襲いかかってくる男たちをひらひらりと無駄のない動きで交わしていく。


「おっそいな〜。そんなんじゃ、一発も当たらないよ」


 攻撃を避けながら、男たちから武器を奪い取る。馬鹿でのろまな強盗たちは自分たちの手に武器がなくなっていることにも気付かない。


 男たちが取り囲む円の中心から、ボクは奪った武器を投げて返す。各々の武器が直撃した男たちは、一人残らず地面に倒れ伏した。


 そうこうしている間に、お嬢サンや金庫を乗せたままの荷馬車がそろりと動き出していた。


 視界の端でそれを捉えたボクは、地面を蹴って荷馬車の屋根へ飛び乗り、そこから御者目掛けて飛び降りた。


「ひっ!」


「甘いな〜。気付かれないとでも思った?」


 息を詰める男の真横でにやりと笑みを深める。


「ネズミ一匹逃がさないよ」


 首の後ろに手刀を当てて昏倒させ、馬の手綱を取り返して馬車を停めた。


 それから面倒だけど、強盗全員を縄で縛り上げ、山小屋へ押し込む。


「ふ〜、やれやれ、今晩はよく働いたな〜」


 気絶した男たちを詰め込む代わりに、小屋に隠されていた財宝からめぼしいものを運び出して、荷馬車に積んだ。


「まあ、収穫はあったし、目障りな強盗退治も済んだから良しとしますかね」


 満足しながら御者席に座ろうとして、お嬢サンのことを思い出す。馬車の荷台に荷物を載せるため、一度降ろしたのを忘れてた。


「そうだ、この子どうしよっかな〜」


 よく見れば怪我をしてる。きっと、店で強盗たちとやりあった時に頭を殴られたんだ。


 ここに置いていこうかとも思ったけど、なんだかちょっぴり後ろ髪を引かれちゃうな。


 ほんの数日とは言え、彼女には世話になったし。彼女が餌になってくれたおかげで、目障りな『黒猫』も成敗できた。


 怪我をした女の子を寒空の下放ったらかしていくのも気が引ける。


『クロ、ごはんですよ』


 そう優しく微笑んで彼女が差し出した食事は、野良猫に与えるには立派過ぎる美味しいものだった。


「ん〜……仕方ないな〜」


 ボクはお嬢サンをひょいっと抱き上げて御者席に乗せた。


「あ、そうだ」


 と思い出して、お嬢サンの首にかかっているロケットペンダントを外す。


 これは確か、お嬢サンの誕生日パーティーで、彼女の友人らしい男が贈ったプレゼントの品だ。


 このペンダントは防犯グッズだとあの男が言っていた。


「ボタンを押すと、そのペンダントの位置情報が送信されるんだっけ」


 これを着けたまま彼女を連れて行くわけにはいかない。


「アイツら、なんか過保護そうだったもんな〜。ボタンなんか押さなくても位置情報が分かるようになってるかもしれないし」


 ボクは良いことを思いついて、ペンダントを山小屋の中へ放り込んだ。


「これで、この場所を見つけたアイツらがこのゴク悪ゲキ弱盗賊団の『黒猫』を警備隊にでも突き出してくれるよね」


 にゃはは、と悪い笑みが漏れる。


「それいけ!」


 御者席に座り直して、ボクは馬に鞭を打った。お宝を載せた荷馬車が颯爽と走り出す。


 空は白み始め、もうじき夜が明けそうだ。



☆ * ★ * ☆ * ★


『ほかあた』を読んで下さり、ありがとうございます!

マリアの手当のためにクロが向かった先は…

次回から毎週土曜日に更新予定です!

応援、レビュー頂けると泣いて喜びますので、なにとぞよろしくお願い致します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る