7. 天才技師は見た目にもこだわります



「マリア、誕生日おめでとう」


「お母様、お父様、ありがとうございます」


 夜になり、市街から少し外れた丘の上にある我が家で、ひっそりとわたしの誕生日パーティーが開かれました。


 ひっそりとは言っても、大広間にはたくさんの豪勢な食事に、バースデーケーキを始めとした美味しいスイーツの山が用意されています。


 使用人の皆さんが張り切って準備をしてくれたようです。お花やバルーンをふんだんに使った飾り付けも素敵で、わたし好みです。


 パーティーの準備はわたしもお手伝いしましたよ。実はウエディングケーキ並に巨大なケーキを運んだのもわたしです。


 葡萄酒の入った大きな酒樽も運びましたし、大広間の中央を飾る花を活けるための大きな花瓶も運びました。良いウエイトトレーニングになりました。


 もちろん、ラヴィスや使用人さんたちに見つからないようこっそりです。なかなかスリルがあって楽しい遊びでした。


 両親に続いて、ラヴィスとリンクがわたしのもとへお祝いに来てくれます。


「マリアお嬢様、改めまして十八歳のお誕生日おめでとうございます。花や月をも霞ませる美しいマリアお嬢様にお仕えでき、感激の至りです」


「マリアさん、誕生日おめでとう。きみの新しい一年がより輝かしいものになりますように。なにかあればいつでも僕を頼ってね」


「ラヴィ、リンク、ありがとうございます。お二人には本当によく助けて頂いて、感謝してもしきれません。いつも傍にいてくれてありがとうございます。これからも、どうぞよろしくお願いしますね」


 感謝の言葉と共に、二人へ花束を贈りました。予想していた通り、二人は感激して喜んでくれます。


「お嬢様、改めてお祝いを贈らせて下さい」


 そう言って、ラヴィスは綺麗なブーケとわたしの好きなお菓子がたくさん入ったバスケット、それからラッピングされた小箱を差し出しました。小箱の中身は例の異世界型スマホです。


「ありがとうございます! 大事に使いますね」


「はい。こちらでいつでもお呼び出し下さい。このラヴィス、お嬢様が何処にいようとすぐに駆けつけてみせます!」


「じゃあ、これは僕から」


 ラヴィスに続いて、リンクも綺麗なリボンのかかった小箱をわたしに手渡してくれました。


「え、これも頂けるのですか?」


「うん。通信機はラヴィに頼まれて作ったものだから。こっちが僕からの贈り物だよ」


「まあ、ありがとうございます、リンク!」


 通信機を作ってくれたというだけでも嬉しいのに、他にも贈り物を用意してくれていただなんて感動です。


「開けてみても?」


「もちろん」


 小箱の中には、ピンクゴールドのチェーンにウサギ型のロケットペンダントが入っていました。ウサギの目には小粒のピンクダイヤがあしらわれています。


「まあ!」


「どうかな?」


「可愛くてとっても素敵です!」


「良かった。見た目にもこだわった甲斐があったよ」


「見た目にも、と言うと?」


 リンクの言葉に含みを感じて聞き返すと、リンクは「さすがマリアさん、よく気が付くね」と嬉しそうに微笑みました。


「実はこれ、こう見えて防犯グッズなんだ」


「ええ、これが?」


 どこからどう見ても普通の可愛いペンダントにしか見えません。


「このロケットペンダントの蓋を開けると、中にボタンがあって。これを押すとペンダントの位置情報が、予め設定しておいたところへ送信されるようになってるんだ」


「それは凄いです!」


「あと、開閉ボタンの長押しでブザーが鳴るよ」


 そう言いながら、リンクがペンダントの蓋を開けるボタンを長押しします。すると、けたたましいブザーの警告音が鳴り響きました。


「開閉ボタンを二回連打すると止まるからね」


 あまりに大きな音に耳を塞ぎます。リンクは説明しながら、すぐにブザーを止めてくれました。


「ラヴィもリンクも素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」


 ラヴィスやリンクと談笑しながら食事を楽しんでいると、足元にいた猫が存在を主張するように「にゃあ」と鳴きました。


「あら、猫さん」


「その猫、どうしたの?」


 わたしが抱き上げた猫を見て、リンクが首を傾げます。


 猫を拾った経緯を話すと長くなりそうですし、あの時のことを思い出したラヴィスがまたお説教モードになりかねません。


「色々あって、うちに招待したわたしの小さなお友だちです」


 適当に濁して答え、話を堀り返される前に、猫に話しかけます。


「どうしましたか? ああ、お腹が減ったのですね。お魚を食べますか? パン? それともミルク?」


「その猫、名前はないの?」


「名前……」


 ありますか? と訊いてみますが「にゃあ」と鳴くだけで、さすがに名前までは分かりません。首輪もしていませんし、この子はどうも野良猫のようでした。


「お嬢様が名付け親になられてはいかがですか?」


「そうですね。大切なお友だちを名前で呼べないのは寂しいですし」


 ラヴィスの提案に、猫を見つめて名前を考えます。


「……クロ。この子の名前はクロにします!」


「さすがお嬢様、この猫に似合いの名です! お嬢様から授かったその名、大事にしろよ、クロ」


「良かったね、クロ」


 リンクはプレゼントのラッピングに使われていたピンク色のリボンをクロの首に巻いて結びました。クロの真っ黒な毛並みにピンクが映えてとても可愛いです。


「よろしくお願いしますね、クロ」


 そうして、新しいお友だちを一匹増やして、わたしの十八歳一日目は平和に終わったのでした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



読んでくださり、ありがとうございます!

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次回は平和な日常に不穏な影が……?


毎週(水)(土)に更新予定です。

よろしくお願い致します!


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