16章 水上の王宮

 イース暦27730年4月27日。シュウは2日後に控えたダイヤ組長の誕生日祝いに、大きな魚を獲って来ようと、漁船サイズの大型のクルーザーに乗って、海に出た。

 万能の左目の前では、海に潜む大きな魚を見つけるのに、苦労はない。あっさり、シュウの背丈の倍くらいあるカジキを二股銛で突いて、アイレムポーチに放り込んだ。アイテムポーチの中の亜空間は時間の流れがない。この中に魚を入れれば、冷凍することなく鮮度を永遠に保つことが出来る。

 さあ、目的は達成したことだし、陸に帰ろう、そう思って、船を曳き返そうとしたとき。

 突然、船に魔力弾が衝突した。幸いダメージは軽く、沈没するほどではない。

「しかし、どこから攻撃が来た?弾道が万能の左目でも探れない。突然現れたとしか…まさか、弾丸が転移してきたのか?」

 更に、この時、船が座礁した。ありえない。ここは沖の海で、海底までは4000mくらいあるのに。

 おかしい、そう思って、甲板に出る。

「やっぱり、そこに、何かあるな!」

 シュウはそう言うと、最も強力な炎系の必殺技を繰り出した。

「【MARTELO DE FLANO炎の鉄槌】!」

 すると、何もない空間が裂け、まるでベールが剝がれるかのように、海に浮かぶ巨大な王宮が出現した。どうやら、特殊なシールドで姿を隠していたらしい。

「この王宮…確か…『国王夫妻及び儀式参列者惨殺事件』が起きた王宮、【アカーリウム王宮】!もうとっくに焼き払われたはずなのに!」

 29年前、アカーリウム王宮では、ヒトメボレ王国の王太子と島国アリウムの王女の結婚式兼即位の儀が行われていた。そこに、不完全な足を持つ人魚族マーマンの青年が突然乱入して、いきなり王女を長刀で斬殺し、更に王太子、そしてパニックになる参列者を皆殺しにしたのだ。

 この事件を、シュウも追っていたが、ヒトメボレ王国も島国アリウムも、魔王軍により25年前に滅亡しており、この時国王夫妻及び儀式参列者惨殺事件に関する記録も、アカーリウム王宮と他の多くの記録と共に魔王軍により焼き払われたことになっていた。よって、真相は闇の中だった。

「まさか、アカーリウム王宮は今も残っていたとは。もしかしたら記録も無事かもしれないな。だが、赤十字が立っている。入るのは命懸けだな。」

 赤い、中央に目の付いた十字架に緑の茨を巻き付けた紋章、これが、魔王軍の旗だ。人間や魔族の中には魔王軍を忌み嫌っているものが多いから、それを連想させる「赤十字マーク」や「茨マーク」(この呼び方は、シュウが勝手にそう呼んでいるだけだ、この世界での呼び名は違う)を公の場で使用することは、人間領や魔族領の多くの国で禁止されている。

 ゆえに、この紋章をこの世界で使っているという事は、魔王軍か、反社会勢力のどちらかであることは明白なのだ。

「だが、俺はモンスター勇者、黒不死鳥シュウだぞ。四天王でもいない限り、負けはしない!」

 シュウは肚を括って、座礁したクルーザーから降りて、宮殿の前に出た。

「ぐっ、硬いな!」

 いつものカチコミのように、扉を蹴破ろうとしたが、この扉は頑丈で、モンスターの尋常ならざる力で蹴られても、びくともしない。

「こういうときのために、これを用意しておいたんだ!」

 シュウは、壊れない扉を壊すため、アイテムポーチから大きな樽を取り出した。大樽の中には魔力を封入して強化されている爆弾が詰め込まれている。さすがの硬い扉も、魔力入り大樽爆弾の前ではかなわず、あっさり吹き飛んでしまった。

 すると、煙の中から、何発も魔力弾が飛んできた。シュウも負けずと魔法銃を撃つ。何発か撃ったところで、魔力弾は発射されなくなった。

「くそ、痛いな、何するんだ。」

 魔力弾はシュウの腹に直撃していた。黒不死鳥装束の防御力、そしてモンスターの鋼のように硬い体のおかげで、傷はごく浅く、致命傷には程遠い。

 大樽爆弾の煙が晴れて、中が見えるようになると、すぐ手前に、電気ポットに魔法銃が付いたような形のロボットが立っていて、シュウの銃撃で沈黙していた。

 ポットが再起動すると困るので、シュウは原子操作でロボットを溶かして、金属の塊にしておいた。原子操作は生命体や魔力を有する者には効かないが、生命や魔力が無くなれば、普通に効くようになる。

 この王宮は、嫌に綺麗に掃除されている。目の前を徘徊する凶悪なバトル・マシンには、掃除の機能もあるのだろうか。

 目の前に10体以上徘徊しているバトル・マシンは、【ヘイムダル・クラス】と呼ばれるジャガーノート・クラスの簡易版。口の中のリドル・トーチを省略しているとはいえ、それでも一般の兵士・戦士や異世界から来た者では歯が立たない強さであることに変わりはない。まともに戦ったら、虎の子の最強勇者であるシュウでも、怪我の1つや2つ、することは請け合いだ。

 よって、卑怯な手段で勝つことにする。取り出したるは魔力爆弾ドローン。これは鉄槌団の第1級の構成員の1人、卑怯王キスカ=エルピスが製作したこれは、魔力ドローンに強力な爆弾を取り付けたもので、動くもの、魔力・火気を孕むものに自動的に襲い掛かるのだ。

 勿論シュウもターゲットとして認識するので、シュウは一旦距離をとる。

 迷路のように入り組んだ通路をそれたあたりで、爆発音がした。見てみると、爆発が起こったところを徘徊していたヘイムダル・クラスのバトル・マシンは、全て爆発により無惨な残骸と化していた。

 残骸は全て、原子操作で溶かしておく。復活されると困るから。そうして宮殿の2階に通じる階段にたどり着いた。

 2階には、あちこちに2000ボルトの電流が流れるフェンスが張ってあり、その間を無数の通常のバトル・マシンと20体のヘイムダル・クラスがすし詰め状態になっていた。

 バトル・マシン群はニードルガンを発射する。針は稲妻のようにシュウに向かって飛ぶ。しかしシュウは待ってましたとばかり、外道退治で得た新技を発動する。

OGANESSON BAROオガネソン防壁】。7層の結界を張り、その上に刀の刃を超高速で旋回させる技。結界に接触したものは全て撃ち落され、切り刻まれる。名前の由来は、旋回する刃の数が内側から順に2、8、18、32、32、18、8であり、オガネソン原子の電子配置と一致していることから、シュウが命名した。

 針は7重の結界に触れた途端、全て細切れになる。小さく切れながら運動エネルギーが無くなった針は、黒不死鳥装束で容易く防ぐことが出来る。バトル・マシン本体も、【OGANESSON BAROオガネソン防壁】による体当たりで細切れになる。

 程なくして、無数のバトル・マシンは、細かい破片になっていた。シュウの方は、顔や手に切り傷が付いただけだった。

 3階に通じる階段の前には、東大寺南大門の仁王像そっくりの見た目と同じくらいの大きさの双子の巨人が見張っていた。どちらも同じような姿で、違いは筋骨隆々の上半身に巻き付けたネックレスの色のみである。

 銀ネックレスの巨人が言う。低く、重苦しい声だ。

「我はトウゴー。何人たりともここは通さんぞ!」

 金ネックレスの巨人が言う。こちらも低く、重苦しい声だ。

「我はサイゴー。さもなくば、我らが屍を超えてゆくべし!」

 問答無用で双子の巨人と戦うことになる。極めて強い。無駄に怪我をしたくはないので、原子操作で壁や床を触手のように変形させ、拘束して無力化した。

「おのれぇ!さっさと止めを刺せぇ!」

「ここで放置しておくと、いつか絶対後悔するぞ!」

 双子の巨人を後にして、3階に移動する。3階は、これといった障害物が一切ない、大広間となっていた。大広間に出ると、階段に通じる扉が閉まり、シュウは3階に閉じ込められてしまった。

 3階にいる敵は1体だけだ。青黒く塗られた、茶釜を背負ったライオン型ロボット。こいつが、宮殿の主にして最強のバトル・マシン、「ライオン茶釜」(ぶんぶく茶釜のライオンバージョン)、ティーポット=ド=ライモンである。四天王ではないが、次期四天王候補としてパルサー、シンズォーの次に有力である。

 体は130㎝くらいと小さい。しかし小さいからと言って侮ってはいけない。この姿でもレベルは520と高く、又危険な点として、茶釜に隠れた7つの魔道具が挙げられる。この茶釜自体も、7つ道具の一つ「無限の倉庫」であり、中は異次元空間となっているのでいくらでも物を入れられるのだ。要するに、シュウと同じく、アイテムポーチを持っている。シュウは着物の袖が、ライモンは茶釜が、アイテムポーチなのだ。

 それ以外の6つも、危険極まりないものである。このバトル・マシンは他と異なり量産出来ないが、量産出来たら、シュウですら危険だ。





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