15章 恐怖の「ご馳走」
懺悔の間は拷問が終われば綺麗に掃除される。ゆえに、懺悔の間は常に清潔である。にもかかわらず、今の懺悔の間は物凄い悪臭で満たされていて、常人では居座ることなど到底耐え難い。
そして、悪臭は、シュウが「ご馳走」と呼んだものから漂ってくるらしい。
「ご馳走」を覆っているクローシュが外された。恐怖の「ご馳走」の封印が解かれる。
クローシュが取られた途端、ムワッ、と、悪臭が拡散される。中にある大ぶりな欠けた丼の中を見た途端、外道の表情が変わった。それもそうだ。中には、蛆が這いずる糞便が入っていたのだから。
「それをどうする、つもりだ?」
マナガーとボッタイは、口をそろえて聞いてくる。それを聞いてシュウは、世にも恐ろしい答えを返した。
「決まっているだろう?貴様がこれを喰うんだ。言ったはずだ。食い物粗末にするやつには特別な『ご馳走』を盛ってやると。さあ、遠慮なく喰え!」
私はシュウの狂気を目の当たりにして、思わず引いてしまった。外道親子は口をそろえて喚きだす。
「ば、馬鹿言わないで!無理無理無理!」
シュウは、鼻クリップと口枷をつけながら言った。鼻クリップと口枷をつけられると、口の中の物を嫌でも飲み込むしかなくなるのだ。
「食い物に感謝できない奴は、死後地獄で、不浄なものを喰わされると言う。その練習をさせてやるんだ。有難く思え。ニライカナイ、やれ!」
私は女神なのに、シュウの命令に逆らえない。私は勇気を鼓舞して、嫌がる親子の口に、丼の中の汚物を流し込んだ。親子そろって必死に吐き出そうとするが、吐き出されるとシュウの苛烈な暴力が待っている。私は必死に、鼻を抑えた。こうすると、空気を欲するターゲットは、口の中の物を飲み込むしかなくなる。
シュウは懺悔の間のソファに深く腰掛けて、そこから、
「美味いか?」
「遠慮するな!」
「ほぅら、もっと!」
などと、笑いながら言っていた。私はやりたくもないことを嫌々やらされているのに。
この拷問は、江戸時代の日本で、牢に入れられた囚人が行っていた私刑、ご馳走責めである。方法は、今やっている通り、シンプルなもの。この拷問は、人の尊厳を破壊する屈辱刑であるとともに、恐ろしい側面を持っている。
「どうだ?美味いか?10兆個もの大腸菌の塊は?」
シュウは親子それぞれに、およそ10兆個の大腸菌を喰わせている。それは口や胃から粘膜感染を引き起こす。しかもこの世界には、地球より、寄生虫を飼っている人が多い。それをダイレクトに喰らったら、体は悲惨なことになるのは請け合い。
この私刑を喰らった者は、翌日には死ぬと言われている。しかし、牢屋の看守は賄賂を貰っていたので、私刑の被害者がもし死んでも、ただの病死として扱った。
シュウの私刑は、これを更にパワーアップしたものである。付加刑で口をボロボロにし、しかも汚物も肥料用に半年ばかり熟成させた代物で、普通より数段強力な悪臭を放っている。
普通のご馳走責めでも、呼吸することを放棄するまでずっと、強烈な腹痛と嘔吐に苛まれることになる。今回の強化版では、外道親子は全身から吹き出物を出し、口から大量の泡を吹いていた。
壊れた口から、細菌が脳に回るが、それでも死ぬことは許されない。強力魔法と強力ポーションで完全に回復させた。
これで外道親子は、拷問される前の状態に、肉体は戻った。しかし、シュウに容赦なく刻まれた傷は、今後も消えることはないだろう。
「これに懲りたら、2度と食い物粗末にするなよ、馬鹿野郎!」
その翌日。シュウは、被害を受けた店に、あの外道親子に然るべき裁きを下したことを報告した。
「奴らには、懲悪組鉄槌団が、然るべき裁きを下した。これからも被害を受けたら、我々懲悪組に頼ってほしい。」
そう言って、シュウは、店を後にした。
その後、件のレストランでは、ルール遵守とマナー向上を呼び掛けるポスターが貼られたが、そのポスターには、シュウの肖像画が描かれ、又、
「ルールとマナーを守り、楽しく食事をしましょう。もし、ルールを守らない者、マナーに欠ける者がいた場合は、懲悪組に報告します。」
という文言が書かれていた。
ちなみに、今回のターゲットの好物はカレー料理だったそうだが、シュウのお仕置きを受けてからは、一口も食べられないどころか、見るのも嫌になったそうだ。
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