14章 もったいないお化け、シュウ
シュウは人間時代、空腹に苦しむことがなかった。しかし、それは朝偉家が比較的裕福だったからだ。周りの貧乏人は、飢え死にするほどではないが、いつも空腹に悩まされていた。
周りで空腹に悩まされる人々を間近で見ていたシュウは、何となくであるが、食べ物が満足に得られる有難みを知っていた。それゆえに、簡単に食べ物を捨てる都会の人々が、どうしても許せなかったのである。
しかし、その信念の強さゆえ、問題を起こしたこともあった。例を挙げればきりがないが、シュウがまだ小学6年だった頃、給食で珍しくプリンもどきが出たことがあった。シュウは当時給食委員長であり、その立場を利用して、給食の後、残った分をこっそり持ち帰ろうとしたことがあった。そしてそれが教師の1人に見つかったのだ。
「もう、また!毎度毎度いつも言ってるでしょうが。もし家で食べて食中毒になったりしたら…」
シュウはその説教に、一切聞く耳を持たなかった。シュウの辞書に食中毒の文字はない。人間の頃から、ほとんどの細菌・ウィルスの毒素が効かない強靭な体を有していたからである。
「心配いらない。有難迷惑だ。それに、何かあっても、それは自己責任だろう。」
そして、説教を続ける教師に対し、
「うるさい、黙れ!」
と怒鳴り、水の入った水筒で教師の頭を殴ってしまい、散らばった余り分を無理矢理持ち帰った。シュウが教師に暴力を振るったのは、これ一度きりである。この件について、シュウはモンスターになった今でも、全く反省していない。
他にも、シュウは残食0運動を率いていたが、その「残食取り締まり」が余りにも厳しすぎて不評を買っていた。しかもその矛先はアレルギー持ちの生徒にも向いて、アレルギーが理由で食べられない生徒の口をこじ開けて件の物(確か、エビだった気がする)を無理やり押し込んで食べさせ、病院に行く羽目にしたことも、プリンもどき事件の1週間後にあった。この件については、シュウは人間の頃は反省しているような素振りを見せていたが、モンスターになってからは、
「俺はあの時やったことに、一切の後悔はない!正義は今でも我にあり!」
と語っていた。
大問題を起こすことも辞さない程、食べ物を粗末にすることがどうしても許せないシュウが、今、レストランのバイキングで、折角大盛りによそった料理を魔力カメラで撮影し、食べずに捨てようとした母子を見つけた。たちまち体が動く。
「おい、貴様、よそった分はきちんと食うのが、バイキングでの義務だろうが。そこんとこ分からん奴に、バイキングに来る資格はねぇ。」
シュウは瞬間移動かと見まがうほどの速さで、その母子、マナガー=ナイナーとボッタイ=ナイナーに接近し、母マナガーの襟首を掴んで強烈な殺気を剝き出しにした。
この母マナガーは黒不死鳥シュウの恐ろしさを知っていた。そして、シュウの逆鱗に触れればどういった末路を遂げるかも。しかし、まさかよそった料理を食わずに捨てただけでも切れるとは思わなかったようだ。
「ひぃっ!、だ、黒不死鳥様、どうかお許しください!貴方様がまさか、食べきれない分を捨てた程度で怒るなんて、知らなかったんです!」
マナガーの台詞のうち、「捨てた程度」という部分が、シュウの感に触った。シュウは有無も言わさず、どこからか発生させた網で、マナガーを拘束した。
子ボッタイは、まだ世間知らずで、黒不死鳥シュウの恐ろしさを知らなかった。だからシュウの前で、平然と悪いことが出来る。
「へっ、こんな生ごみ同然の不味い料理なんか、こうしてやる!」
ボッタイは、私から見れば恐れ知らずにも、シュウの目の前で、料理を山盛りにした皿を放り投げた。さらに大皿の並ぶ長テーブルをひっくり返し、床にひっくり返った山のようなご馳走をぐちゃぐちゃにして台無しにした。
シュウの怒りが極限に達した。シュウからあふれ出るオーラは、外道に対する怒りの赤いオーラではない。禍々しい黒いオーラだ。
一瞬にも満たない速度で、ボッタイも捕まった。これから母子は、シュウの恐ろしさを嫌というほど脳内に叩きこまれることになる。
「お騒がせして済まない。これは代金と詫び料だ。」
シュウは店主に5ゼナほど渡し、私と母子と共に懺悔の間に転移した。たちまちボロ雑巾1枚にされ、審問椅子に括り付けられる。
「ではこれより、鉄槌団裁判を開廷します。」
「被告人は、山のようなご馳走を台無しにして店に大損害を負わせ、また食材を作った方々や料理人たちの思いを踏みにじった外道です!よって、私刑を求刑します!」
「何だ、この茶番は?こんな茶番はやめて、早くこの臭い部屋から解放してください!」
シュウの法廷において、勝手な発言をすれば、制裁が待っている。シュウの拳が炸裂して、外道の妄言を吐く口は破壊され、大量に歯が折れ飛んだ。
「おやおや。全然カルシウムが足りてないな。」
そして、弁明の機会すら与えず、シュウは即、判決を言い渡した。
「鉄槌団裁判において、勝手に発言すれば、その瞬間に有罪確定だ。外道の罪は炙り出された。主文、被告人を私刑に処する。刑はご馳走責めにより執行される。」
「ご馳走責め?何、それ?ご馳走でも出してくれるの?」
ボッタイが質問してきたので、シュウは特別に答えてやった。
「ああ、勿論、とっておきの『ご馳走』を食わせてやろう。だが、その前にお仕置きを受けないとな。俺は外道が酷い目に遭わないと、体がムズムズするんだ。」
その時、ベータが口をはさんできた。
「あの、ここの悪臭は酷いです。こんな部屋では、ご馳走を食べようにも喉を通りません。」
シュウはそれを聞いて、悪魔のような笑みを浮かべながら、ベータに耳打ちした。
「ベータく~ん、君は『ご馳走』の事は、知らないほうが良い。アルファと一緒に外で遊んでいなさい。」
そういって、シュウは、ベータとアルファを懺悔の間から外に出した。
「さぁ、断罪のメロディーを!」
シュウの合図で、懺悔の間に気味の悪い音楽が流れてきた。そのBGMを背にして、シュウの苛烈な拷問は幕を開ける。
まずシュウは、かつて裁いた外道夫婦、セノーノとジャキョーノに使った苦悩の梨を取り出した。ただし前回とは違って改良されており、ねじを回すと鉄とげが飛び出て、口の中をズタズタにしてしまうのだ。
シュウは嫌がるマナガーの口の中に、無理矢理それを押し込んだ。こうなると、もう、口答えすることはできない。
子の方にも、やはり苦悩の梨改が入ることになるが、口が小さかったので、口が切れてしまった。しかしそれは、シュウにとって、どうでもいいことらしい。
「俺の持論だが、食い物粗末にするような奴に、口や歯はいらない。とりあえずあるべき形にしておいた。」
これは後に聞いたことだが、シュウは、モンスターの尋常ならざる力で、相手を殴り殺さないよう、手加減するのが大変だったそうだ。
「さあ、その悪い口に対するお仕置きは終わった。では、お待ちかねの『ご馳走』の時間だ。た~ぷり召し上がれ。」
いよいよ、ご馳走責めの本番が始まる。そして、「ご馳走」を食べさせる役は、やはり私がやらされる。大変気が進まない。「ご馳走」が入っている大ぶりな丼にかぶせられているクローシュを外すのは。
でも、私はこれを外道に食べさせなければならない。さもないと、私が、「ご馳走」を食べなければならなくなる。
私は服を汚したくないので、ボロ雑巾を縫って繋げたものに着替えてきた。灰色のみすぼらしい布を、胸と腰回りに巻き付けてある。とても女神とは思えない格好だが、服が汚れるよりははるかにましだ。
私は腹を括って、クローシュを外した。
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