17章 四天王候補と隠されたディスク

 次期四天王候補の1体、ティーポット=ド=ライモンが茶釜型アイテムポーチには、6つの危険な魔道具が納められている。具体的には、

「崩壊の剣」…防御力を無視して一定のダメージを与える。

「忍耐のお守り」…致命傷を負っても1度限り耐える。

「鏡の外套」…攻撃を跳ね返す。

「疾風の双葉」…見た目は小さな双葉だが、体に着けると素早く飛べる。

「死の毒薬」…武器に塗ると、傷が治りにくくなる。

「憎悪の熊鼠」…これに噛まれると、一時的にレベルが250上がる。

 ライモンはそのうち、崩壊の剣を抜き、疾風の双葉を頭に着ける。禍々しい本体と剣に対して、双葉は何だか愛嬌のある見た目で、大層ミスマッチだ。

 しかし、その間抜けな見た目に反して、性能は抜群。素早く動き回るライモンは常人では目で追えない。他の世界の冒険者とやらなら気づかないまま真っ二つだ。

 シュウはライモンの斬撃を皮1枚で躱し、魔法銃を乱射する。そのうち1発が頭に当たり、ライモンの頭を右から左に貫通するが、それでもライモンは止まらない。

 更に1発が双葉に命中し、これを破壊した。7つ道具のうち1つを失ったライモンは墜落した。

 シュウは獲物であるミスリル包丁を抜いて、ライモンを斬ろうとする。この時、ライモンの剣は躱し、決してチャンバラのようにかち合わせてはいけない。崩壊の剣は、剣も盾も豆腐同然に切り裂くからだ。

 ライモンは左手で、鏡の外套も持ち、盾のように構える。それは切り裂こうとすれば斬撃が明後日の方向に飛ぶ。

「ならば近づくのみ!」

 日本人の戦闘の極意は何か、と聞かれれば、シュウは接近戦と体当たりだと答える。シュウもやはり、接近戦と体当たりを得意としている。一瞬にして懐を取り、崩壊の剣を持つ手を斬り落とす。続いて、鏡の外套を持つ手も宙を舞う。

 シュウはすぐに、崩壊の剣を奪って破壊した。このような危険な武器を野放しにするわけにはいかないからである。更に、鏡の外套も、油をかけて燃やしておく。

 そして、ライモンの右半分にミスリル包丁を暴風雨のように浴びせる。ライモンの右半身に、次々にひびが入っていく。

 そしてついに、ライモンの頭の右半分が、損傷に耐えかねて崩壊した。頭部は右半分を失い、断面からバチバチと火花を発している。

 しかし、ライモンの生命力(ライモンは魔導機械なので、生命と言うのも難だけど)はかなり高く、頭を半分失っても止まることがない。

 そしてライモンは、背中から新たな腕を生やした。骸骨のような、かぎ爪が付いた長い腕。更にビーム砲にニードルガン。その腕は、ジャガーノート・クラスのバトル・マシンから移植したものだった。

 自身の背丈より長い腕を振り回し、ビーム砲とニードルガンを乱射しながら、ライモンは叫ぶ。

「まだ僕は負けてない!この爪には死の毒薬が塗られている!これで裂かれた傷は絶対に治らない。それどころか、傷口をひび割って焼き、犠牲者は死を望むほどの苦痛に苛まれるのだ!」

「へぇ、そりゃ、たまげた。だが、その毒が日の目を見ることはない。」

 シュウは何食わぬ顔で反撃し、死の爪をミスリル包丁で叩き折った。そして、ビシッ、と忠告した。包丁の切っ先を突き付けて。

「動くな!貴様のエネルギー源は人間や魔族の食う菓子だろう。つまり有機物だ。これを原子操作でグリセリンにすることはたやすい。」

「だから何だ!」

「そして、貴様が吸った窒素や酸素、これとそのグリセリンを原子操作で合成すると、お前の体内でニトログリセリンが出来上がる。つまり、動けば内側からドカン、だ。」

 当然、ライモンは忠告を無視した。すると、たった今シュウがライモンの体内で合成したニトログリセリンが大爆発する。

 ライモンの腹が裂けた。そして、裂け目から火炎が噴き出す。断末魔の悲鳴を上げるライモンを、火炎と黒煙が覆っていった。

 ライモンは、内側からニトログリセリンで爆破されたにもかかわらず、いまだに原形をとどめていた。

 完全に沈黙したと思われた。しかし、忍耐のお守りが発光し、灰となって崩れる。すると、完全に破壊されたはずのライモンが復活し、むくりと起き上がった。

「はは、まだ…終わってないぞ…この、憎悪の熊鼠、これさえあれば…レベルが一時的に250ブーストされる…数多ある世界の中で最強のレベルブースト、味わうがいい!」

 ライモンのレベルはただでさえ520と他の世界ならありえないくらい高いのだ。これで250もブーストされれば、レベル770となり、単純な強さは約2.2倍になる。

「はははは、覚悟しやがれ、モンスター勇者!これさえあればお前など一捻りだ!このライモン様を追い詰めたことを地獄で…」

 ライモンが言い終わるより前に、シュウは、憎悪の熊鼠の首をミスリル包丁で刎ねてしまった。7つ道具を全て失ったライモンは、シュウの魔法を喰らって、大きく吹き飛ばされた。

「殺るなら殺れぇ!いくらモンスター勇者と言えども、異世界に行けばその世界を破滅させられるという四天王の前では、手も足も出ないはずだ!ヒャヒャ、僕の勝ちぃ!」

 そう言われると思ったので、シュウはキスカをこの王宮まで転移させた。

「そういえば、対氷王エリセト用の新兵器の完成のめどは立っているか?」

「はい、問題ありませんこの通り、設計図が完成しました。あと3日で完成させましょう。」

 キスカは設計図をライモンに見せびらかした。

「おいライモン、四天王だったらもう倒せるから、お前らの負けだってよ。」

「ぐぅぅぅぅぅ!」

 こうしてライモンは止めを刺され、2度と修理されないよう、溶かされて金属の塊に成り下がった。

 壊したバトル・マシンは、資源として利用するので、拾い集めてアイテムポーチにしまっておく。アイテムポーチは、どんなに大量に入れても、まだ空きがある。

「しかし、ライモンのアイテムポーチの中身、戦利品として奪ってから止めを刺せば良かった。少し損をした気がする。」

 アイテムポーチは持ち主の被造物なので、創造主たるライモンの死と同時に消滅した。そして当然、アイテムポーチの中身も、共に消滅する運命にある。

 ライモンを倒し、階段を登って最上階へ。最上階は、敵はやはりおらず、等間隔でパルテノン神殿のような柱が規則正しく並んでいた。そしてその奥に、魔力テレビのモニターがあった。

 テレビモニターには、こんな文言が書いた貼り紙が貼ってあった。

「選ばれし勇者のみに、かつての勇者の遺言が記録されたディスクの隠し場所を伝えてある。ディスクを手にしたらこのモニターで再生せよ」

 シュウにはディスクの隠し場所は伝えられていない。本来ならシュウがディスクを見つけ出すのは不可能なのだが、万能の左目の前では、物を隠すことなどできない。あっという間に、隠し場所を特定されてしまった。

「ディスクとやらは、左から13番目、奥から16番目の柱、高さ3.14mの位置に隠されているな。」

 ディスクの隠し場所が分かれば、あとは柱を壊してディスクを取り出すのみ。シュウは靴のつま先に仕込まれたアダマンタイトを、モンスターの尋常ならざる力で柱に叩きつけた。

「この柱は、折れぬ!」

 この王宮の正門と言い、この王宮に使われている素材はかなり丈夫で、モンスターの尋常ならざる力で叩き込まれるアダマンタイトの凶器を防いでいる。

 シュウは柱に入ったひびの程度から、この柱を折るのに必要な時間を算出した。

「この柱のひびの入り方からして、これを折るには、あと半日くらい蹴り続けないといけないな。魔力爆弾で爆破したらディスクごと壊しそうだし。」

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