10章 子殺しを求める神はいない
イース暦27730年3月24日のこと。
「何だと?親が自分のエゴで子を死に追いやるとは、断じて許せん!このような外道は、必ずや俺が、然るべき裁きを受けさせてやる!」
シュウは大層お冠である。エミシャイヌ王国中の国民が強制的に読まされる新聞、【国王新聞】の1面にでかでかと載っている記事に、怒りと非難の声を上げている。
「ニライカナイ!これを見ろ!お前はどう思うんだ?最上位の女神の意見を聞きたい!」
シュウは新聞を私の顔に叩きつけた。モンスターの尋常ならざる力で新聞を叩きつけられたので、顔がひりひり痛い。
記事によると、先日起こった事故で、学問所(学校のこと)5年生の男子、エコノ=ギゼーシャが巻き込まれて、近くにいた魔術医によって傷はふさがったものの、回復魔法では傷はふさがっても失った血は戻らないので輸血が必要な状態になったそうだ。
それなのに、この子の両親、セノーノとジャキョーノはこの世界で広まっている邪教の1つである【ヤルタファオッテ教】の狂信者で、自分の教義に従い輸血を拒否、結果的に大切なはずの我が子を死に追いやったのだそうだ。
私はこれを読んで、はらわたが煮えくり返りそうになった。
「これは、断じて許せませんね、私は女神なので断言できる。神界に、子殺しを推奨・擁護する神など1柱も存在しない。こんな外道は、早く地獄に送りたいね。」
「だが、俺たちはダイヤ組長の殺害許可、もしくは命令がないと、殺すことは許されないはずだぞ?」
「いいわ。私が殺害許可を出すよう頼んでくる。」
私は本部の組長室に駆けていった。
「ダイヤ組長、折り入ってお願いがある!この、殺害許可証に判を押していただきたい!」
「全く、殺さなければいかんとは、いったいどんな罪を犯したのだ?いくら神でも、人や魔族の命を軽く見てはいかん。」
ダイヤ組長が渋るので、私は新聞を見せた。
「貴方もエミシャイヌ王国民なら読んだと思うが、私は女神だから言える!こんな邪教を妄信し人にまで迷惑をかける奴は、この世にいちゃいけない!奴らはヤルタファオッテ教を布教している!ここで止めないと、次の被害者が必ず出る!」
うなる組長を前に、私は要求を受け入れてもらうために、最上位女神のプライドをかなぐり捨てることにした。
「ダイヤ組長、どうか、この通りだ!」
私は白に金の縁取りの衣を脱ぎ捨てて丸裸になると、大袈裟に土下座して頭を床に血がにじむほど叩きつけた。
「分かった。どうやら止めても意味はないようだ。判を押してやる。ニライカナイ、シュウと共に、この外道夫婦を…殺せ。」
私は目の色を変え、きっぱりと言った。
「はい。この外道は、必ずや、この女神ニライカナイの名において、焦熱地獄の底に叩き落とします。」
私が鉄槌団の事務所に戻ると、シュウは大好物である高級な果物が盛られたボウルに竹串を突き入れて、生クリームを和えた果物を口に放り込んでいた。
「あの外道はぶち殺す、嬲り殺す、褒め殺す、抹殺する、息の根を止める、無間地獄に送る!」
シュウは大層お怒りのようで、盛んに、「殺す」と呪詛を吐いていた。呪詛を吐きながら食うものが美味いのだろうか。
「シュウ君、あの程度の罪では無間地獄には落ちない。おそらく、焦熱地獄相当だと思う。そもそも、無間地獄に落ちるような奴はそう滅多にいない。」
「論点そこじゃねぇ!」
シュウに教えたら、なぜか逆切れされた。理不尽極まりない。それだけ、新聞の記事に憤慨しているのだろう。
「ア~スカく~ん、この外道の夫婦の居場所を今日中に特定。失敗即ち…」
「死で御座います!」
シュウは踊り子衣装が似合っている美少女忍を脅迫し、調査に行かせた。アスカは、泡を食って事務所を飛び出した。
外道夫婦の居場所が程なくして白日の下に晒され、シュウの魔の手が忍び寄る…
強力スタンガンで気絶しているセノーノとジャキョーノが身ぐるみ剝がされ、縛られて転がされると、シュウは頭から煮え湯を浴びせて叩き起こした。煮え湯には、塩が入っていて、沸点が上がっている。100度以上の熱湯を浴びれば、目が覚めぬ外道はおらぬ。
「おい、ここはどこだ?これは犯罪だぞ!」
「お黙り!せっかく生んだ子に必要な処置を受けさせず、死に追いやった外道が、他人の所業を罵る権利はない!」
私は妄言を吐いた制裁に、塩熱湯をもう一杯プレゼントした。
セノーノとジャキョーノが大人しくなったところで、いつも通り鉄槌団裁判が始まった。懺悔の間の扉を開けながら、ベータが巻物を大声で読み上げる。
「被告人は、我が子に必要な処置を受けさせず、未来ある命を奪った外道です!よって、死刑を求刑します!」
「それがどうした!戒律は命よりも尊いんだ!あの子もきっと、天国の神様の所で…うがぁっ!」
「被告人は静粛に!」
鉄槌団裁判において、勝手に発言すれば、1回につき1本、包丁を貰うことになる。
「分かった分かった!お、俺たちが間違ってた!棄教するから許してくれぇ!」
父ジャキョーノの台詞が180度変わった。それを見て、シュウがほくそ笑んだ。
「やはり、拷問は素晴らしい。経験値は美味しいし、どんな外道でも1発で反省させられる。」
シュウは転がっているジャキョーノを見下ろし、悔恨の念がないか、もう一度問うた。
「もう1度聞く。貴様は小さな命を奪ったことを申し訳ないと思ってるんだな?」
「はい、思ってます!申し訳ありませんでした!」
シュウはうんうん頷いて、そして…死刑宣告をした。
「あっ、そう。反省しても地獄行きは免れないからな。」
外道の罪は炙り出された。そして、青ざめて震えていることしかできないジャキョーノとギリギリ歯ぎしりするセノーノに無慈悲に判決が下された。
「主文、被告人を死刑に処する。刑は【苦悩のカンディル】により執行される。ルーン、用意は良いな!」
今回の拷問は、ヨーロッパで異端審問に使われた拷問の1つ、苦悩の梨がメインだが、それに加えて魔王領ヤマソーナ地方(ブラジル・アマゾンに相当)最悪の魚類で止めを刺す恐怖のコンビだ。全く、これを即座に思いつくシュウは、どんな神経をしているのだろうか。
「それにしても、このアケレリアンで地球と同じ生き物が手に入るとは思わなかったよ。亜人やモンスターが跋扈する世界だから、もしかしたら地球の生き物はいないんじゃないかと思てた。」
そう、シュウは語っていた。
「そ、それをどうするつもりだ?」
ジャキョーノは私が持つ洋ナシ型の器具を見て、青ざめていた。これが苦悩の梨で、シュウが即座に原子操作で作ったものだ。これを体のどちらかの穴に突っ込んで、ねじを回す。すると、犠牲者の体は内側から裂けてしまうのだそうだ。
「シュウ君、これ、また私がやらなきゃいけないの?」
「つべこべ言うな、ニライカナイ。」
私がシュウに1番文句を言いたいこと、それは、汚れ仕事を必ず、私に押し付けることだ。シュウは汚物系の拷問を執行することが、たまにある。私は女神なのに、できれば触れるどころか見たくもないものを扱わされる。
しかし、私は1年間で、シュウの命令には逆らえないし、逆らわせてもくれないことを学んだ。がっくりと項垂れ、私は諦めた。
私は涙を流しながら、ボロ雑巾の隙間から苦悩の梨を、ジャキョーノの汚い尻の穴に突きこんだ。汚い高音が懺悔の間に響く。
「泣くな。私の方がよっぽど泣きたいんだ。」
そう言って、私はねじを回して、体内にめり込んだ梨を、花のように開いた。体が内側から壊れて、ジャキョーノは悶絶する。
「うげぇっ!」
引き抜いた苦悩の梨は、詳しく書き記したくない程酷く汚れている。私はすぐにきれいさっぱりと器具を洗いたいのだが、シュウは生気を感じない声のトーンで、恐ろしいことを言った。
「何でもう1人外道を成敗するのに、いちいち器具を洗わなきゃいけないの?非効率だからそのまま使おうよ。」
そう言って、私から梨をひったくると、色々と酷く汚れたまま、今度はセノーノの口に放り込んだ…
「妄言を吐いて人を惑わせる口はこうしてやる!」
と言って。
この後、私たちは、シュウの逆鱗に触れたが最後、どうなるかを嫌というほど思い知る羽目になった。
外道が2人共、カンディルにより皮だけになった後、シュウは原子操作を使い、外道の成れの果てを空気にし、外道で穢れた道具を溶かして海に沈めた。
その後、私はシュウに声を掛けた。
「シュウ君、今回はさすがにやりすぎだよ。ルーン達怖がってたよ。」
「そうか。ルーンは臆病だな。俺は人間時代、実の両親に兄弟で1番悪く扱われていてな、それで、子に害をなす親が、どうしても許せないんだ。だから、そういう悪は、普通の外道に比べてやり過ぎてしまうんだ。」
普通の人とはかなりずれているけれど、モンスターにはモンスターなりの正義感があるようだ。
その時、アスカが入ってきた。
「黒不死鳥様!ヤルタファオッテ教総本山の調査が終わりました!奴らは宗教団体や慈善団体の皮をかぶった、
私とシュウがセノーノ&ジャキョーノ夫婦に熱き鉄槌を下している間に、アスカは普通の踊り子を装って、ヤルタファオッテ教総本山に潜入し、教祖リクッビ=モンタサに接触していたのだ。リクッビ尊師は信者には無欲であることを強調しているくせに、自分は「洗礼」と称して多くの女性と関係を持っていたそうだ。
「これは…もう…救いなんかないね。」
私はリクッビ尊師に対し、怒るを通り越して、引いてしまった。これで私たち神の名を語っていると思うと、涙があふれてきた。
ダイヤ組長からの命令が飛んできた。
「これは悪質な犯罪組織である!鉄槌団、派閥を挙げて、組織を壊滅させよ!者共!カチコミじゃぁ!」
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