8章 四天王が弐位、ハイド
蒼炎の欠片が周りの敵兵に次々に当たる。バトル・マシンは燃えながら機能停止し、兵士は熱い熱いと泣き叫びながら死んでいった。しかしシュウは問題ない。シュウは原子操作で空気を固めて、飛び散る炎を防いだのだった。
ジャガーノート・クラスの片方を失った魔王軍の兵士は、次々と逃げ出していく。自我のないバトル・マシンと、
「貴様ら逃げるな!戦え!それでも魔王様の僕か!」
などと言う一部の兵士は、そのまま戦い続けていたが、魔力も気力も体力も武器も、すべからく有限である。遂には底をつき、次々に地に倒された。
「追撃せよ。全滅以外許さん!」
カリウムの兄ナトリウムは、厳しく命じた。弟が目の前で討ち死にした私怨もあるが、それよりも、ここで1体残らず魔王軍を討ち取ったとしても、魔王軍の兵力は無尽蔵なのだ。だから少しでも消耗させ、魔王に恐怖と敗北心を植え付ける必要があるのだ。
もう、残り2体のドラゴンが持つ盾も、溶けて薄くなっていて、あと1発喰らえば溶け切ってしまう。もう使い物にならない盾は捨てて、身軽になったほうがいい、そう判断し、アルゴンとナトリウムも、大盾を捨てた。
それからおよそ3秒経って、恐ろしい蒼炎が、またもややってくる。もう受け止めることはできないので、狙われたカルシウムは、背中に畳んでいた翼を広げて、蒼炎をかわした。
リドル・トーチは長持ちするとはいえ消耗品。もう1体のジャガーノート・クラスは、遂に蒼炎を吐けなくなった。
そこに、多くの手柄を立てたい戦士が、まるで軍隊アリのように群がる。全員、激戦によって武器が壊れて、使い物にならないので、代わりにバトル・マシンが発射した針を槍代わりに持っている。この杭、もしくは槍のような針の鋭さと言えば、鋼鉄の盾を紙のように貫通するほどである。多くの同胞の命を奪ってきた危険極まりない代物を、今度は逆に反撃に使い、ジャガーノート・クラスと取り巻きを串刺しにしていく。
ジャガーノート・クラスは、蒼炎を吐けなくとも十分強い。通常のバトル・マシンが搭載している魔力ビーム砲とニードルガン、そして長く強靭な尻尾を使って、何名かを返り討ちにして殺した。それでも、潰しても潰しても湧き上がる軍隊アリのように群がられ、このジャガーノート・クラスはとうとう粉々に破壊された。
主力となるジャガーノート・クラスを失い、もう恐ろしい蒼炎が転送されてくる心配はない、そう判断したカルシウムは、自身は魔王軍の残党を追撃しながら、魔導士部隊に転移妨害の魔法を解除するよう命じた。魔力は貴重なので、ここで温存し、回復に徹すべしと考えて。
だが、その判断は悪手だった。もしも魔導士が戦士だったら、悪手であることに気づいてカルシウムに再考を促す者もいただろうが、生憎魔導士は、全員、上官の命令に絶対服従の兵士であったので、もう、何も考えずに転移妨害魔法を解除して、魔力回復に回ってしまっている。
「まずい!新手が転移してくる!大至急転移妨害をもう一度発動せよ!」
カルシウムが悪手であることに気づき、手を打とうとしたときには、もう、後の祭りだった。
カルシウムが魔法の再発動を命じたのと同時に、どこからか魔力の弾丸が8発、魔導士部隊に直撃した。魔力弾は空中で散弾に変化し、先程の8発で魔導士部隊を1人残らず全滅させてしまった。
退却する魔王軍の兵士らの前に、青白い縁取りのある黒い渦が出現し、反時計回りに回転する。そして、渦の中から、水色の煙が噴出した。
「まずい!転送妨害!転移妨害ぃ!」
龍将軍カルシウムは、転移してくるのを阻止しろ、と命じていたが、もうその魔法を使える者は、誰1人生存していない。
水色の妖しい煙は晴れ、そこには、1人の大男が立っていた。その姿を見て、正面に来ていたカルシウムは真っ青になった。
「そんな…四天王・機神ハイド…何故奴がこんなところに!」
見た目は、地球の海軍大将のような服装に、ゴーグルで目元を隠した大男。その体からは黒く重いオーラが流れてきており、今にも押し潰されてしまいそうだ。
シュウは万能の左目、私は神の力で、四天王ハイドを名乗る人型モンスターの情報を得ようとする。
万能の左目を前にしては、機密情報も何も、開示以外の選択肢はない。四天王が弐位、機神ハイドの情報は、あっさり脳内に入ってきた。
レベルは驚異の982。今のシュウでは、勝ち目がない。しかも、ハイドは復活者。復活者特典によるスキルで攻撃力が倍増している上に、光属性が無効、火と雷にも耐性がある。
信じがたいことに、ハイドは【フリィト】であることが明らかになった。フリィトとは、100年以上前に、海上での戦いを目的として、人間領、魔族領、魔王領で「造られた魔族」である。言わば、地球で言うところの「軍艦の擬人化」と言ったところだろうか。
人や魔族の肉体と鋼鉄の改造パーツからなる体は高い防御力と回復力を併せ持ち、なかなか撃破されにくい。主にかなり威力の高い遠距離攻撃を主体として戦うが、中には接近戦、否体当たりを得意とする者もいる。
種類は多い。火力、防御力に優れた、「海の花形」の【α種】、鳥の魔物【ガー】を扱い、α種に代わって後に主力となった【β種】、α種より火力や防御に劣っても少し速い【γ種】、火力に劣り紙装甲であるが機動力に優れた【δ種】、水中に隠れて獲物を狩る【ε種】などがある。ハイドはα種である。
本来、フリィトは例外なく、人間や魔族の女性の姿である。(常人よりはるかに見た目麗しい)しかし、ハイドは何故か男性の姿。復活者化したことにより、心身ともに変化したのだろうか。
「私は魔王軍四天王が弐位、機神ハイド。人間及び魔族共に告ぐ。1つ、今からでも遅くないから降伏し立ち去れ。2つ、抵抗する者は全部魔王様の敵であるので射殺する。3つ、お前らの父母兄弟は君たちの死に皆泣いておるぞ。」
まるで、人形が無理矢理、言葉を発しているような声だった。
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