7章 初陣、そしてリドル・トーチ
600年以上前。イース暦27091年5月30日の朝、魔族領ガリャー・ガルアン(フランス・ルーアンに相当)近郊にて。
龍彗戦争が始まるきっかけが発生した日に、【空竜隊】隊長、シューガ=マキソーエは、自身は赤い古龍に乗り、たくさんの緑の
シューガは吸血鬼である。少し前、イース暦27089年以来、イースを名乗る存在によって、ガリャー軍は快進撃を続け、100年続く大戦がもうすぐ終わる、そんなときに負けてしまい、魔王軍の反撃を許した責任を取らされ、処刑を恐れて今まで逃げ回っていたのである。
不意に、古龍に一緒に乗っていた副長のケーダ=ロータエが、街中の広場に、強い魔力の反応を確認した。
「あの広場に、魔法陣…?マキソーエ隊長!」
その瞬間、ガルアンの中央広場に形成された魔法陣から、火焔の濁流が吹きあがった。飛竜3体が巻き込まれ、火焔に強いはずの体をたちまち焼き溶かされてしまう。
「何だ!いったい何があった!」
兵士が報告する。
「ガルアン市内に兵士の影、無数!あれは…敵軍!四天王が壱位、リドル=デフェルド!」
「おのれ、魔王軍め!反撃だ!」
シューガの命令で、古龍と飛竜の口から、魔力の弾丸が放たれた。背中の鱗からも、小さな魔力弾が放たれる。
その時、またもや火焔の濁流が襲ってきた。火焔は1体を焼き尽くし、掠めた1体も、鱗と皮膚と肉が融解、発火、炎上し、地面に落ちていった。
リドルの火焔は、通常3体、多いときは5体、まとめて焼き払っている。そう時間がたたないうちに、数十体の竜の大群は、古龍1体と飛竜1体を残して全滅してしまったのである。
「そんな、ぜ、全滅?一体何なんだ?」
「ええい、予想外の火力とはいえ所詮は炎!古龍の防御ならば耐えられる!」
尻込みするケーダをよそに、シューガは強がって見せたが、それは一時の幻想にすぎなかった。槍状に飛んできた火焔の濁流は、古龍の魔力バリアを障子紙同然に貫通したばかりか、古龍の頭の先から尻尾の先にかけて一直線に大穴を開け、体内をグズグズに溶かしてしまった。
竹輪状態になって炎上し、力なく落下していく古龍を飛び降り、シューガは飛竜の最後の1体にしがみついた。ケーダはしがみつき損ねて、真っ逆さまに落ちていった。
「早くしろ、逃げるんだ!ああっ!」
リドルはそれさえも見逃してはくれなかった。真後ろから紅蓮の焔が襲ったかと思うと、シューガを包み込んでしまった。シューガの視界は全て赤に染まり、そこでシューガの意識は途切れた。
現在、イース暦27730年3月11日。
セプタの処刑で、シュウは大量の経験値を得た。ここ1年2か月で、遂にレベルが600を超え、また、セプタの処刑で、初めて、魔法を覚えた。今回覚えたのは火魔法。10個の火魔法と上がったレベルを試したいので、シュウは遂に、魔王軍と戦うことにした。
招集がかかった。今回の戦は、南洋、オーアツ島(ハワイ・オアフ島に相当)の奪還戦争。魔王軍は、約1世紀前から、ここを占拠していて、前線基地を作っているが、ここは本来人間領。一刻も早く奪還戦と、セミナー国王は躍起になっているのだ。エミシャイヌ王国は寒冷なので、常夏のオーアツが欲しいのだ。それで、今まで10回ほど奪還戦争を仕掛けていて、ことごとく追い返されている。
エミシャイヌ王国が出した戦力は兵士10万、戦士1万。計11万。シュウ、ルーン、クライネ兄妹、エルピス4兄弟8人は戦士として参加している。
兵士の場合、制服と武器は貸与され、指揮官の命令通りに集団で行動する。指揮官の命令は絶対服従だが、その代わり全責任は指揮官がとる。給料は定額で、初任給は月20ゼナだ。
一方戦士は、
8人は、全員自由度が高い戦士として軍に登録している。戦士になるにはレベルが最低でも100は必須だが、8人はその基準を楽々と突破している。
「魔王軍、右翼に猛攻!」
魔王軍は、今は亜人の姿とはいえドラゴンを4体抱えていて、攻撃力の高い右翼を優先的に潰そうと、バトル・マシンの上位個体である【ジャガーノート・クラス】2体とその他無数の兵士やバトル・マシンの下位個体を差し向けてきたのだ。
バトル・マシンの危険なポイント、と言えば、魔力ビーム砲と杭のような長く太い針だと、万人は答える。しかしジャガーノート・クラスはそれだけでなく、アダマンタイトを豆腐同然に切り裂く爪と拳銃弾並みの速さで振るわれる尻尾、極めつけは口の中に仕込まれている【リドル・トーチ】。吐き出される青き炎は近くを掠めただけでも人間や通常の魔族なら死に直結する。直撃すればドラゴンでも即死する。
そんなジャガーノート・クラスの吐き出される2つの炎が、大地を焼き尽くしながら、人間と魔族に襲い掛かる。1つは誰にも当たらず、近くの大木に命中した。神が宿っていそうな巨木が、炎の一舐めで蒼炎に包まれ、兵士や戦士の上に倒れる。
シュウとシュウに付けた魔力カメラの映像を見た私は、その威力に恐れおののく。もう1つはドラゴンの1体、カリウム=オスキールが持つ特別製の大楯に直撃した。
流石は、ジャガーノート・クラスの蒼炎に対抗すべく発明された大盾だ。必殺の蒼炎を正面で受け止めても、盾は表面が融解しただけで、きちんと耐えた。盾に付着した燃料が燃え尽き、盾の表面で揺れる火は消える。
第2波、第3波が、4体のドラゴンの大盾に命中する。しかし、盾は古龍すらたやすく焼き貫く炎の槍を耐え続けた。
兵士から、盾がまだ破れない旨を報告されていら立っている、魔王軍の司令官ウォズが、ジャガーノート・クラスに命令した。
「いい加減、あの目障りな盾は破れないのか!ならば2発同時にぶち当ててやれ!」
機械の武将は、頭の上の魔力灯を点灯させて、返事をした。
2発の蒼炎は束になって、カリウムに正面からぶつかった。盾は10秒ほど、猛火に耐え続けたが、遂に貫通を許してしまった。
「カリウム様が討たれた!敵が追撃してくる!」
悲報が飛び交う。今までカリウムたちがいて、敵を食い止めてきたが、今は草一本ない所から、兵士やバトル・マシンが攻めてくる。
バトル・マシンの魔力ビームが3発、ドラゴンの1体のアルゴン=モサロに命中する。しかし、亜人形態とはいえドラゴン。タフな体のおかげで、体がグラつく程度で済んだ。
「痛ぇなあ!何するんだ!」
アルゴンを撃ったバトル・マシンは、呆気なく返り討ちに遭い、その場で機能停止した。
守りに徹していては勝てぬ、と判断した指揮官の命令で、エミシャイヌ王国軍は、一気に攻めに回った。魔王軍も、蒼炎の転送を防いでいる魔術師群を叩き潰したい。互いに守らず攻めに徹するので、双方ともに被害が増えていく。
その時、隊列から、黒い「不死鳥」が飛び出た。シュウである。シュウは次々にやってくる兵士とバトル・マシンを、ミスリル包丁と魔法銃の餌食にしながら、魔王軍の列に突っ込んでいった。
「おい、待て、貴様!隊列を乱すな!」
アルゴンが命じる。しかし、シュウは戦士。戦士は兵士と違い、勝手に行動するもの。言ったところで意味はない。
「あの服装からして分かるだろう、彼は戦士だ。指揮官の言う事は聞かない。」
近くの人間の兵士が言った。
3体のドラゴン、アルゴン=モサロ、カルシウム=タリテーネ、ナトリウム=オスキールに、蒼炎が来る。しかしそれも、大盾に防がれた。しかし、盾は溶けて薄くなっていく。カルシウムは、溶けて薄くなり、使い物にならなくなった盾を捨てた。
盾を捨てたカルシウムを、ジャガーノート・クラスが狙う。その動きを、もう近くに迫っているシュウは見ていた。
シュウは近くの兵士とバトル・マシンを、手榴弾で吹き飛ばした。そして、リドル・トーチのチャージをしているジャガーノート・クラスへ一直線。これ以上、貴重で強力な戦力であるドラゴンを失うのは、かなり痛いからである。
シュウの手榴弾が魔力ビーム砲、次いでニードルガンを吹き飛ばした。さらにシュウは、青く輝く口の中に、手榴弾を何個か投げ込んだ。リドル・トーチは暴発して、ジャガーノート・クラスを破壊しただけでなく、近くの兵士やバトル・マシンに蒼炎の欠片を降らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます