6章 女でも外道なら容赦はしない
森の奥で、セプタは自分のしでかした事に、恐れおののき、罪悪感にさいなまれていた。そこに、一人の旅人が通りかかった。
旅人は、森の木の根に足を挟まれて転んだ。キャンプの道具が、地面に散らばる。
「あっ、そこのお嬢さん!助けてください!動けないんです!」
セプタは外道に堕ちたとはいえ根は良い子だった。目の前で倒れたみすぼらしい旅人を放っておけなかったのである。
セプタが旅人の手を取った瞬間、セプタは、一瞬にしてぐるぐる巻きに縛られてしまった。旅人が声を張り上げる。
「事情はもう、調べが付いたぞ、外道!とうとう年貢の納め時じゃぁ!」
そして、旅人は変化を解き、目の前で、モンスター勇者、黒不死鳥シュウ本来の姿に戻る。
「ひぃぃ!化け物ぉ!」
イェトーにも多くの魔族が訪れる。セプタも魔族の客を相手したことは1日に1回くらいある。それでも普通の人に見えたのが、途端に魔族の姿に変わるのは、大層恐怖だったらしい。
セプタはへたり込んで失禁してしまった。シュウの馬鹿にしたような笑い声が頭上からする。
「おやおや。こんな情けない姿の『乙女』があるか。否、ないだろうなぁ。」
セプタはぐしょぐしょに濡れた裾を引きずって、ぐるぐる巻きのまま逃げようとした。シュウはそれを、呆然と見つめながら、音程の外れた替え歌を歌っていた。あのような走りにくい服で、しかも手はぐるぐる巻きに縛られている。すぐに転ぶだろうと思って。
「燃~えろよ燃えろ~よ~♪」
シュウはこのフレーズを何度も繰り返して歌っている。
セプタの意外に高かった身体能力で、走りにくい服で手の自由も奪われているのに、転ばずに100メートルも逃げることが出来た。
しかし、距離が100メートルを超えた瞬間、シュウは一気に走り出した。モンスターの尋常ならざる身体能力により、100メートルあった距離がほんの数秒で0になる。
「外道よ燃~え~ろ~♪」
シュウは替え歌の続きを歌いながら、セプタを気絶させ、そして、懺悔の間に連行した。
外道を起こす前に、私は、シュウに替え歌の続きを提案してみた。
「歌の続き、地~獄の業火~で~す~べてを燃やせ~♪なんてどうかな?」
「いいかも知れん。それより、外道を拘束して、鉄槌団裁判をはじめよう。」
まずはセプタの身ぐるみを剝ぎ取っていつも通りボロ雑巾1枚にした。
「外道の着るものはボロ雑巾で十分だ。」
と言って。
私とルーンとベータが組んだ火刑台に、セプタを銀の鎖で縛り付ける。そして、怒りのモーニングシャワーで、外道女セプタを叩き起こした。
「あっちぃぃ!」
「やはり、煮えた油は良いな。どんな外道も一発で起きる。目覚めには熱めのシャワーが、1番効果的だからな。それより、裁判の時間だぞ。」
ベータがいつもの「起訴状」を大声で読み上げる。その高く澄んだ声が、人間領語と魔族領語で「働いても自由にならない」と正直に書いてある壁に反射する。
「被告人は、風の強い日に自宅の青果店に放火し、街を燃やした外道中の外道です!よって、死刑を求刑します!」
今回は外道を完全に殺害する。ゆえに、いつもとは違い「私刑」ではなく、「死刑」と書く。
「貴様は、自分のしでかした事でイェトーの街が燃え、罪のない多くの人や魔族を不幸のどん底に陥れたことに、後悔はないのか?」
ベータが包丁を首に突き付けて脅し、尋問する。
「はい、悪かったと思っています!まさかこんな大事になるなんて、思ってもいなかったんです!私はただ、自分の店が燃えればそれでよかったんです!」
「何故に貴様は、親が折角再建した家を燃やそうと思ったんだ?」
「トリさんに言われたんです。家がまた火事になれば、オクタさんにまた逢える、また神殿で暮らせるって。」
「要するに、神殿のオクタに惚れて、また逢うために神殿で暮らしたい、そのためには家が邪魔だから燃やした、とどのつまりそんなところだな?仮に周りが燃えなかったとしても、折角親が再建した家を燃やして、申し訳ないと思わんのか?」
「あの2人は、いつも家の見栄のことばかりで、私のことなんて考えてくれなかった!不幸にあったのは自業自得だ!」
「では、周りの家の罪のない人や魔族たちは?お前のせいで家や家族を失ったものも多い!犠牲者や遺族に、申し訳ないと思わんのか?」
「はい、思っています!巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした!亡くなった方々にも、謝りたいです!」
シュウはうつむいた。そして、再び顔を上げた時、シュウの顔に悪魔の笑みが宿っている。
「そうか…ならば…あの世に逝って、お前の大火で死んだ奴らに詫び入れてこい!」
勢いよく言ったものの、シュウも人間時代は、目的のためなら手段は選ばない危険人物だった。だからこの外道女にも少々同情してしまう。そこでシュウは、助け舟を出してやることにした。私が止めるのも聞かず。
「そうは言ったものの…貴様、まだ年若く見えるが、年はいくつだ?」
シュウは女性にも、年くらい普通に聞くのだ。
外道であるセプタには救いはない。だが、人間領、魔族領共通の決まり事で、種族に関係なく17歳以下の者を処刑することは許されない。懲悪組もこの決まりはきちんと守っているのだ。
だからもし18歳になっていなければ、いくらセプタが救いがたい外道で、ダイヤ組長が殺害命令を出していようと、殺すわけにはいかなくなる。
「18歳ですが。」
「数え間違えていないか?17歳なら、うまく掛け合って、火あぶりにはしないでやるが。もう一度、よく数えてみろ。」
「いいえ、数え間違えてなどいません!私はもう18、惚れた男のためなら、何でもできる女!それに、もうオクタさんに逢えないなら生きていても意味ない!私が死ねば、私はオクタさんの心に残り続ける!オクタさんのの中で、
私は永遠に生きられるじゃない!」
シュウは気圧されてしまった。シュウ曰く、ここまで、恋人のために命を懸けられる女など、本では知っているが見たことはないそうだ。
外道の罪は炙り出された。そして、どうやっても助命不可能なことは火を見るよりも明らかになった。
「主文、被告人を死刑に処する。刑は火あぶりの刑により執行される。ベータ!火を放てぇ!」
【火焔のベータ】の異名を持つベータは、その名の通り火焔魔法や爆弾などを得意としていて、人の焼ける匂いで白飯7杯食べられるという狂人だ。彼女の火焔魔法【
さらにモーニングシャワーと称してシュウが浴びせた煮え油もベータの秘伝の調合だそうで、セプタの髪にべったりとくっついて取れない。これにも無論引火したから、さぞかしキツイだろう。
血と肉の焼ける匂いが漂うが、匂いの物質は、即座に原子操作で分解されるので、外部の者は気になることは決してない。
シュウは泣き叫ぶセプタに、一切の容赦はしなかった。原子操作で火力を調整し、一酸化炭素など有毒ガスを分解し、セプタに十分生きていられるだけの酸素を与える。窒息させない。ガス中毒もさせない。そして苦痛のあまり気絶しないよう、時々ショックを与えて、意識のあるままじっくりと焼いていくのだ。
「シュウ君、君は本当、容赦ないなぁ。」
少し引いている私に、シュウの命令が飛んできた。
「何ぼさっとしているんだ、ニライカナイ!お前は苦痛の女神だろう、だったらこの外道の苦しみを1万倍にしろ!」
苦しみを本当に1万倍にしたら即死してしまいます、と、突っ込みながら、私はセプタが生かさず殺さずのギリギリのレベルの苦痛にした。
2時間ほど、セプタの泣き声が聞こえていたが、遂には聞こえなくなってしまった。しかしシュウは、これで許してはくれない。原子操作で消火し、丸焼きになったセプタを医療用再生装置に投げ込み、完全回復させ蘇生させる。
「お前の罪が、たかが2時間ちょっとの苦しみからの死で許されると思ったか!」
そう言って、焼け落ちだ処刑台と薪を原子操作で元に戻し、再び柱に括り付けた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!あっちぃぃ!」
さっきまでシュウに焼かれていたのに、また煮え油をかけられただけで、セプタはわめいた。あまりに五月蝿かったからか、シュウの機嫌が悪くなり、焼け落ちたのでまた巻きなおそうとしていたボロ雑巾を顔に投げつけた。
「お前、ボロ雑巾が燃えて素っ裸だったから、またボロ雑巾を巻こうと思ってたけど、あまりに五月蝿いから、ボロ雑巾の代わりに、これを巻いてやろう。喜んで受け取れ!」
シュウはセプタの腰回りに、溶けた蝋をかけ、固めてパンツのようにした。セプタがまた、悲鳴を上げたのは、言うまでもない。
再び火がつけられ、セプタの泣き声が響いて、火が燃える音と懺悔の間に流れる気味の悪いBGMをかき消した。
結局、セプタは18時間、意識のあるまま焼かれることになった。何度も、何度も繰り返される火責めに、苦痛を司る女神である私も、さすがに可哀想になってしまい、アルファの持っていた剣を借りて投げつけた。その瞬間、セプタはやっと許され、三途の川を渡っていったのだった。
「おらぁ!まだ苦しめるだろうが!逝くのが早ぇだよ、おい!」
シュウはいつまでも、黒焼きになったセプタの死体を蹴り続けていた。
事が終わった後、シュウは乾かしたセプタの着物と持ち物を、セプタの両親に届けた。
「黒不死鳥様、放火は常習性があると聞きました。また大勢の被害者を出す前に、殺してくれてありがとうございます…でも…うちの一人娘を殺した貴方の顔は、もう見たくない。帰ってください。」
父親はケジメをつけたことに感謝しつつも、一人娘を殺された悲しみと怒り、憎しみを零していた。母親は終始泣いていて、三角フレームの眼鏡から、涙を大量に零していた。
トリは、その後、シュウのターゲットになったが、軽い気持ちで行ったことで大勢の犠牲者が出てしまったのを目の当たりにし、罪の意識に耐えられず、ウラーラ川(日本・隅田川に相当)に身投げしたそうだ。水に飛び込んだ時、まるで火に水をかけたように、ジュウッ、と音がしたそうだ。
ベータは、セプタを焼き殺す炎で、ジャガイモを串焼きにしていた。シュウはそれを一本分けてもらって食う。
「うむ、外道で焼いた芋は、味がイマイチだ。」
これが、シュウの感想だった。
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