4章 悪い親に与える鉄槌
魔力弾がガラスを貫通して酒瓶を叩き割る。そして、後を追うように、黒い不死鳥が獲物を狙う。
「ゆ~きや拷問あられや拷問♪」
そのまま、ニムンヨにガラスを破ってドロップキックして、たった一撃で仕留めた。
「ひいっ!」
シカタナはおびえて、キッチンに隠れた。シュウにさんざんお仕置きされたのがトラウマになったのだろう。
「安心して。あの怖いモンスターは、君を痛めつけに来たわけじゃないから。」
私はシカタナを優しくなでて安心させる。女神の愛撫ほど心地いいものは、世の中にない。シカタナは涙を流して、私に抱き着いてきた。
「うわぁぁん!お姉ちゃぁぁん!」
しかし、私が可哀そうな子供をいくら慰めても、シュウにかかれば、一瞬ですべてが水の泡。どんな子も、たちまち泣き出し、泣き止ませることができなくなる。
「今回はお前を拷問する訳ではない。だが…今後少しでも変な真似をしたら、もっと痛くて怖い思いをするからな!」
また、火の付いたように泣くのを背に、シュウはニムンヨが闇に堕ちた元凶を没収していた。
「外道が、酒なんざ飲んでんじゃねぇ!」
そう言って、部屋中の酒を手にとっては、アイテムポーチに入れていった。裏取引で金にしたら、被害者に「黒不死鳥の慰め」として渡すのである。
こうして、ニムンヨを確保したシュウは、懺悔の間に転移して、身ぐるみを剥ぎ取ってから審問椅子に縛り付けたのである。
It's a show time.ベータが起訴状を読み上げ、鉄槌団裁判が始まった。
「被告人は、年端もいかない実の息子を虐待・洗脳して道具のように扱い、多くの罪を犯させた外道です!よって、私刑を求刑します!」
そしていつも通り、尋問が始まった。答えなければシュウのミスリル包丁が刺さる運命だ。
「貴様は若くしてアルコール中毒とギャンブル中毒だった。そしていつしか、仕事をしなくなって妻に金を貢がせ、それを使っていた。しかし妻は子を捨てて逃げてしまい、金が無くなった貴様は息子を操り人形にして金を盗ませていた。自分の手を汚さないように。これに間違いはないか?」
包丁で脅されているので、ニムンヨは正直に答えるしかなかった。
「はい、私は息子を脅迫、洗脳して金品を盗ませ、それを酒と博打に使いました。」
「それを今、どう思ってる?」
「悪かったと思ってます!息子にも被害者にも、誠心誠意謝りたいです!」
こうして、罪は炙り出され、同時に、外道にしては珍しく反省しているらしいことが分かった。しかし、これに、弁護人役のアルファが異議を申し出た。
「異議あり!こちらの魔力レコーダーをお聞きください!」
アルファが魔力レコーダーを高く掲げ、スイッチを入れた。すると、ニムンヨの外道らしい発言が流れてくる。これは鉄槌団の第1級構成員の1人、アスカ=エルピスが盗聴していたものだ。
「アスカ、よくやった。」
アルファはそう言って、踊り子のような見た目の少女を褒めていた。
「良心が痛む?お前何言ってんだ、シカタナ!お前は俺がいるから生きていけるんだぞ?俺が命じたら盗みも殺しもやって当然だろ!」
ニムンヨはそれに気づいて、真っ青になった。先程の反省の弁が嘘である証拠を突き付けられたのだから。
「先ほどの発言は全て出まかせであり、同情の余地はありません!」
「おい、嘘だろ!アンタ、弁護人だろ!弁護しろよ!」
アルファは腰に差していた刀身が黒と赤の剣を抜き、ニムンヨの口を耳まで切り裂いて、口裂け男にしてしまった。
「黙れ!この状況下でなお、てめぇの味方がいるとでも思ってたのか!」
青ざめることしかできない外道に、シュウは判決を言い渡す。
「主文、被告人を私刑に処する。刑はモンスターのフルボッコの刑により執行する。ルーン、今回は準備はいらない。審問椅子から外しなさい。」
審問椅子から解き放たれた外道を前に、シュウは酒瓶を渡し、手招きする。
「ほら、来いよ。俺をシカタナみたいに殴れよ、その酒瓶で。」
「舐めんじゃねぇぇぇ!」
ニムンヨは酒瓶でシュウの頭を殴ろうとした。シュウは眼鏡を割られては困るので、少し横にずれる。結果、事前に石を詰めて、外道にハンディを与えた武器は、シュウの肩をしこたま打って、粉々に砕けた。しかし、シュウのモンスターボディには、全くダメージは入っていない。
「雑魚にダメージを喰らわされるようで、勇者稼業が務まるか。じゃあ反撃するぞ。モンスターパーンチ!」
シュウはニムンヨを殺さないよう、手加減して拳を振るった。それでも、モンスターはモンスター。その尋常ならざる力はニムンヨの拳を正面から相殺して、逆にニムンヨの右腕を蛸の腕にして使い物にならなくした。
「モンスター、パーンチ!モンスター、キーック!モンスター、ビーム…はまだ出せないから…もう一回、モンスター、パーンチ!」
シュウは恐ろしい笑みを浮かべながら、外道の手足をモンスターの手と足で壊していった。もう左足しか、まともに機能しないニムンヨは、芋虫のように無様に這い回る。
「ラストは左足!お前は芋虫!お前の人生台無し!どうだ、自分より強いものに抵抗できずボコボコに殴られる痛みと恐怖が分かったか?お前はこれを、実の息子にやってたんだぞ!」
「ゆ、ゆるひて…くだはい…ほくは…わるかったでふ…」
「何言ってるのか、わかんねぇな!」
口が壊れてまともに発音することが出来ないだけである。
こうして当分の間殴り続けると、ニムンヨは動かなくなったが、死ぬことは許されない。懺悔の間の裏に設置されている【医療用再生装置】と呼ばれる体育館サイズの機械に放り込めば、体が修復され、元気になった姿で出てくる。
「さぁ、第2ラウンド開始だ。今まで13回も実の息子にやらせてきたのだ。当然、第13ラウンドまであるからな。覚悟しておくがよい。」
「ひえぇぇぇ!」
私は、それを見て、少し哀れむ。この悪漢は悪因悪果、因果応報、自業自得の末路を迎えることになったのだが、シュウの逆鱗に触れたらどうなるか、この悪漢は知らなかったらしい。
「よーい、カーン!フフッ、外道さん、どの世界にもね、必ず、怒らせてはいけない存在がいるんですよ。」
私は暇つぶしに、シュウvsニムンヨのデスマッチの実況をしていた。
1ラウンドあたり、シュウがニムンヨを無力化するまでに約1分、そしてミンチ一歩手前にするのに約2時間だから、この全13ラウンドのお仕置きは丸1日を超える長期戦になった。
「試合終りょー!13対0で、シュウの勝ちー!」
私は試合、もといお仕置きの終了を宣言して、半死半生のニムンヨを医療用再生装置に放りこんだ。でてきたところで、シュウに捕まって、懺悔の間から路地裏に放り出された。
「これに懲りたら、二度と他人を駒にするなよ、バーロー!後、もう酒を飲むなよ…いいな?」
シュウは最後に、恐怖とトラウマを植え付けておいた。
その後、ニムンヨはアパートの隣室に住んでいるロット=トノリナに通報されていたらしく、程なくして捕まり、牢屋に放り込まれた。ニムンヨは取り調べの際にシュウに何度も死の一歩手前までフルボッコにされたことを話したそうだが、警官はシュウを逮捕はおろか取り調べすらしなかった。それはそうだ、警官はシュウらの裏の所業を知っていて黙認しているのだから。
シカタナは、既に離婚していた母親、シワケナ=イーサに引き取られ、今は母子家庭で貧しいながらもよりましな生活をしているそうだ。
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