3章 お子様にも情けご無用
イース暦27730年1月7日、シュウは新春の【大粛清大会】で一番の大手柄を立てた。
「黒不死鳥、ニライカナイ、先日の活躍お見事。その手柄により、本日付けで君ら2人を2階級特進、さらに黒不死鳥を鉄槌団の団長に任命する。」
入隊からわずか1年と1日、私とシュウは晴れて第1級になったのだった。
今日よりシュウが団長を務める派閥、鉄槌団は構成員こそシュウを含めわずか19名と極端に少ないが、第1級をシュウを含め9名抱える最強派閥である。
「鉄槌団諸君、俺が今日よりお前らを率いることになるシュウ=アサイーだ。早速だが、こいつは、俺が成敗する。お前らも早速でなんだが、俺のシナリオの手伝いをしろ。」
そう言って、ルーン、アルファ、ベータに、目にも止まらぬ速さで書いた冊子を渡した。
今回のターゲットは年端もいかぬ少年、シカタナ=クヤッタ。こいつは13回も中央市場から品物を盗んでいて、しかもブランド物ばかり盗むので、被害額がもう、100ゼナを超えてしまったので、高級品屋の店主、レサエキ=ボロドーが今日、鉄槌団の門を叩いたのである。
「今は奴のせいで、お礼を支払うことができません!でもどうか、奴に報いを与えて欲しいのです!」
元団長ルーンは、それを快く承った。
「分かりました。外道による悲しみに貴賤などありません。お金は出世払いでいいですよ。」
「これは俺の流儀だが、これからは外道を拷問する前に、まず裁判で罪を炙り出す。鉄槌団裁判だ。俺が判事、ベータが検事、アルファが弁護。それ以外が裁判員&証人の役回りだ。」
但し、鉄槌団裁判は地球の裁判と違って、判事も検事も弁護人も証人も裁判員も名ばかりで、全員外道の罪を炙り出す役であり外道の見方は一人もいない上、黙秘も許さずに包丁を突き刺したり拳で殴ってでも強引に自白させるのが特徴となっている。
また上訴や再審といった概念もない。判決後、直ちに執行するのだ。
「よくシナリオを読んでおけ。俺は外道の確保をする。」
路地裏では、シカタナがブランドの服やバッグを山ほど身に着けて、ひたすら走っていた。
「早く、早く父さんに渡さないと!そうしないと今日のご飯がなくなちゃう…!」
目に涙を浮かべて走るシカタナの前に、スタッ、と、真っ黒な人影が現れた。シュウはターゲットを見つけた瞬間、ターゲットの前に飛び降りたのである。高所から飛び降りたのに巻き込まれたノラ猫がプチッ、と、逝ってしまったが、そんなことは知ったことではない。
「おまえ~は~小さ~な外道さ~ん♪」
「うがっ!」
シュウは何かの替え歌らしき歌を歌いながら、シカタナに強力スタンガンを浴びせて気絶させ、手早くブラックサンタ袋に詰め込んだ。原曲は、音程が外れすぎてよく分からない。
こうして懺悔の間に運び込んだシュウは、身ぐるみを剥ぎ取ってボロ雑巾一枚にし、審問椅子に括り付けた。
「被告人はわずか11歳でありながらこれまで13回の窃盗を繰り返し、100ゼナ以上の損害を出した外道です!よって私刑を求刑します!」
用意したテンプレートに沿って、茶番裁判が始まる。
「早く放せぇ!僕の今日のご飯がかかってるんだ!」
「静粛に!」
「それで、貴様は何故、懲りもせずに物を盗んだのだ?しかも入手困難な代物ばかり。店主の方に申し訳ないと思わないのか?」
鉄槌団においては何より優先されるは真実。ゆえに、反省が真実なら、少し罰を軽くしてやろう、と思ったのだ。
「申し訳ない?思わないね。だってしょうがないじゃないか!これを父さんに渡さないとご飯がもらえないんだ!」
シカタナの返答はこうだった。毒親の命令でやむなくやっていたとあっては、同情の余地もあるが、それでも罪悪感の1つや2つ、あると思っていた。シュウの顔に血管が浮かび、牙が魔力灯に反射して光る。
外道の罪は炙り出された。
「主文、被告人を私刑に処する。刑はむち打ちにて執行される。ルーン!用意しろ!」
ルーンが床に置いたキの字型の拘束具にシカタナをうつ伏せに固定し、最後のボロ雑巾を剥ぎ取っている間、シュウは言った。
「貴様には未来がある。だから警官には渡さん。だが、警官に捕まったほうがましだったと思えるほどの苦痛を味わわせてやる。お~仕置~きを受~ける準備はいいか~い♪」
シュウがアイテムポーチから引き出した手には、ギザギザになった禍々しい鞭が握られていた。鞭には棒ではないのに、「海軍精神注入棒」と、日本語で書かれている。さらにもう一本引き出し、ルーンに握らせる。
「居心地いいか?なかなか乙だろう。それより、歯を食いしばってないときついぞ。」
ルーンの鞭が背中、シュウの鞭が尻に、容赦なく降った。バシーン、と、大きな音がして、シカタナの口から悲鳴がこぼれる。
シカタナがわんわん泣くのも無理はない。モンスターの尋常ならざる力で振るわれる鞭は、肉を削り、吹き飛ばす威力があるのだから。
みるみるうちに、厚い尻の肉は無くなっていく。どんどん泣き声が大きくなると、シュウはサディストなので、鞭を持つ手に自然と力が入る。
「47、48、49、50!どうだ、少しは反省の「は」の字くらいはしたか?」
50回打ったところで、肉が無くなってきたので、シュウは強力魔法と強力ポーションをかけてやり、反省したがどうか問うた。
しかし、シカタナは返事をせず泣くだけなので、シュウは反省はしていないものと見なし、お仕置きを続行することにした。
地球では、昔、盗人の罰はむち打ちが相場だった。昔のヨーロッパでは、最大400回くらい打たれたらしいが…
「今回は事情が事情だ。最大限減軽し、100回で負けてやる。」
遂に、ラスト1回が力任せに降った。最後に強力魔法と強力ポーションで、中ほどに治す。3日くらい、尻が痛くて座れない程度に。
そして、シカタナを懺悔の間から放り出した。
「これに懲りたら二度と店のモンを盗るなよ、バーロー!」
万能の左目に、レベルアップを告げる文言が表示された。
【経験値が一定量貯まった。レベルが上がった。】
私は、シュウの容赦のなさに、少し引いてしまった。
小さな実行犯にはモンスターの鉄槌が下された。だが、事はまだ終わってはおらぬ。年端もいかぬ子供に犯罪に手を染めさせる親など、地球にも、ファンタジー世界アケレリアンにも、いていいのだろうか。否、いいはずがない。
シュウは即、シカタナの父親、二ムンヨ=クヤッタの確保のため、外道が巣にしている築40年のアパートに向かった。
「何が失敗しましただ!バカ息子め!親が命じた仕事ができないとは、どういう料簡だ!罰として当分、飯はないと思え!」
ニムンヨは酒瓶を振り回し、シカタナに当たり散らしていた。シュウに鞭で削られ、実の父親に酒瓶で殴られる、この子は痛い思いをするためだけに生まれてきたのだろうか。前世の業だろうか。
父親に折られた指に、酒瓶がまた振り降ろされる。しかし、酒瓶がシカタナを捉えることはなかった。
何故なら、今、アパートに向かって飛ぶ恐怖と絶望の黒い鳥は、ただの烏ではないのだから。
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