2章 懲悪組
転移先、人気のない路地裏では、青と白のクリスタルマークを掲げる組織と、鉢巻きに赤一色の旗の組織がドンパチ、ドンパチ、戦っていた。
「おい、お前助っ人か?まあこの際どうでもいい!とにかくあの赤野郎どもを倒せ!
奴らはこの繁華街の治安を乱す外道どもだ!」
黒スーツにサングラスの、禿げ頭の男が、魔法銃を連射しながら、シュウと私に命令してきた。そして、シュウはというと、外道、という単語を聞いた瞬間、顔に笑みが宿った。早速外道を狩って、経験値を稼ごう。
シュウは魔力弾を防ぐバリケードから、おもむろに飛び出した。当然、魔法銃や魔法の杖から次々に攻撃が繰り出されるが、
「遅い。そんな弾が当たるか。」
モンスターの常人離れした速度と反応速度の前では、躱すことは簡単だ。
「外道に手はいらない!貰ってもいいか?」
シュウはどこからともなく、二つの白く光る、細長く尖った物を取り出した。それは神界でいつのまにか仕入れていたミスリル製の刺身包丁であり、それを両手に持つと、魔法銃を持つ手と魔法の杖を持つ手を同時に切り飛ばした。
「えっ…ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁ!」
一瞬遅れで外道2名は、手首から先が無くなったことに気が付き、悲鳴を上げながら腕を抑えてうずくまる。
「くそ!えっと…刃物を持った敵に有効な武器は…えっとえっと…」
混乱した大将は、混乱しながら武器選びをしている。その間に、構成員の悪いことをする手は全て、地面に転がった。
「判断が遅い!武器くらい一瞬で選べないでどうする!」
大将はとっさに、今持っている角材を持って、シュウに殴りかかった。
角材はシュウに触れることはなかった。左の包丁が空を切ると、角材が何か所も輪切りになって、使い物にならなくなった。そして間髪入れず、右の包丁が空を切り、外道の手は、二度と凶器を持てなくなった。
およそ20秒で、外道どもの薄汚い手は全て斬り落とされて、完全に無力化された。
シュウは原子操作で鎖を何本も用意すると、無力化した外道を一人一人、芋虫のようにぐるぐる巻きに縛り上げて、クリスタルマークの組織の大将に引き渡した。
「見事だ。一瞬で全滅に加え、生かさず殺さず無力化するとは。ぜひ、我ら懲悪組に入らないか?俺はダイヤ組長の知り合いだから、俺が紹介してやるよ。」
「聞きたいことがある。仕事内容は?」
シュウは労働条件等々は聞かなかった。もし悪かったら、モンスターの圧倒的な力で脅して強引に改めさせればいいと思ったから。
「俺たちの仕事は、外道を狩ることだ。外道に恐怖と苦痛を与え、場合によっては、殺す。」
それを聞いて、シュウは、懲悪組に入ることを決意した。この組織に入っていれば、効率よく経験値を稼いで、早く魔王軍に挑めると思ったから。
シュウは、懲悪組本部の、一番立派な部屋に通された。奥の高そうなデスクには、一人の、背丈2メートル以上ある竜人がどっかり座っていた。
灰色で、所々紫のパンチパーマの髪にねじれた角が特徴の竜人で、黒シャツに白地に紫の円と直線の模様のジャケットを羽織って、サングラスをかけた、ザ・ヤクザ親分という見た目だった。
「私が組長、ダイヤモンド=アキツシマだ。ダイヤ組長と呼べ。確か、お前、名は、ショウ=アサイーだったか?ぜひ、私からも頼む。ここに入れ。報酬は弾むぞ。」
「よろしくお願いします。名前はシュウです。黒不死鳥と呼んでください。」
「お前の任務は、外道を捕らえ、成敗することだ。だだし、私が許可、または命令を出した時以外は殺すな。」
「はいっ!」
「いい返事だ!気に入った。これからはお前は懲悪組の一員だ。早速、前金だ。50ゼナ(1ゼナ=約1万円)あれば足りるな?今は一番下の第10級だが、手柄を立てて、もっと昇進すれば、もっと大量の報酬を毎月やる。」
上司がこうも太っ腹だと、仕事のやる気がわいてくる。シュウは人間時代、せっかく国立大学を出たのに、安月給でホームセンターで働いていた身分だ。嬉しさで涙を流している。
「さあ、明日からバリバリ外道狩りをやるぞ!」
シュウはレベルがただでさえ高く、さらに向上心も申し分ない。それが、シュウの昇進の異常な速さにつながった。
シュウは入隊からわずか7日後の1月13日には、第9級になり、その年の立秋には、もう第7級になっていた。
そして年が改まる前に、懲悪組が今まで手をこまねいていた赤い旗印の組織【ダーリング】本部を単身で壊滅、ダーリングを解散に追い込んだ大手柄により、なんと4階級も特進、第3級になった。
「ここは裏社会のはずなのに天国だぁ!頑張った分だけ結果として現れるなんて夢みごこちだぁ!俺は幸せもんだぁ!」
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