第34話
「ちっ! これじゃ馬鹿王子に馬鹿にされちまう!」
「いかせないよー!」
ロバートがすぐさま追いかけようとするも、事前に着地点に先回りしていたキリカがロバートの襟を掴んだ。
そのまま足払いをかけ、転倒を狙う。ところがロバートは右足を上げてキリカの足払いを躱すと、逆に彼女の道着を掴み、力づくで振り回した。
「邪魔だ! どけぇ!」
「うわわわわわー! って、あれー?」
力任せに投げられたキリカが柱にぶつかりそうになるも、ロザリアの腕が彼女の体を支え地上におろした。
「ありがとうロザリアちゃん!」
「お礼はいいですわ! それより、接近戦は任せましたわよ!」
「うん!」
「お前たち……少しきつめのお仕置きが必要なようだな」
ロバートが手にメリケンサックを嵌め、構えた。
「お仕置きが必要なのは、おじさんのほうだよー!」
「そうですわ! お父さまはもう隠居してくださいまし!」
「馬鹿言うな。俺ぁ生涯現役さ」
ロバートが一足で間合いを詰め、神速のジャブをキリカの顔面に打ち放った。
一撃で鼻血を噴き出すキリカ。
顔が上がるも、すぐに前を向いて前進。ロバートの懐にもぐりこむまでにさらに三発食らうも、止まらない。
彼女はロバートの襟を掴むと、鼻や口から血を流しつつ、にっこりと笑った。
「捕まえたー!」
「捕まったの間違いだぜ」
ロバートもまたキリカの手首と襟を掴み、互いに組み技へとシフトする。
互いに逆方向を向いて背負い投げの体勢になるが、引き寄せられたのはキリカだった。
「嬢ちゃん軽いなぁ! 俺を投げたきゃもっと食った方がいいぜ!」
「それセクハラだよー!」
「そ、そうか……?」
ロバートが投げようとしたその時、彼の膝の裏に銀の拳が突きささる。
「うお!」
かくん、と膝を曲げられたロバートは、キリカによって投げられるも、片手を地面について体勢を立て直した。
「ナイス、ロザリアちゃん!」
「いえいえ。それより、いまのはセクハラですわお父さま」
「ったく、おっさんには最近の若い子の基準はわからねーなぁ!」
ロバートは足元に落ちていた近衛隊長の兜を蹴り上げる。
キリカが手刀で払い落とすも、逆に手が弾かれた。
「おもっ!?」
彼女が兜の威力に驚いていると、目の前にはすでにロバートの拳が迫っていた。
「させませんわ!」
ロバートがキリカに攻撃する隙をロザリアは突いてくる。
けれど彼は、すでにそのパターンを読んでいた。
キリカに突き出した拳を開き、彼女の襟を掴んで引き寄せた。
「わわわ!」
「あぶない!」
ロザリアは自分の拳がキリカにあたると判断して即座に拳の軌道を変えた。
銀の拳は柱にめり込み動かせない。
「くっ、完全にハマってしまいましたわ!」
「まだまだ甘ちゃんだな!」
ロバートはキリカの背中を蹴り飛ばし、吹き飛ばされた彼女は、ロザリアを巻き込んで倒れた。
「うぅ……き、キリカさん、大丈夫ですの!?」
「がはっ、げほっ!」
押し倒されたロザリアはまだしも、直撃をくらったキリカはもんどりを打って苦しんでいる。
二人の前にロバートが歩み寄り、彼は、キリカの足首を掴んで持ち上げた。
「さて、この子に恨みはないが、まだもう少し痛い目にあってもらわないとな。最低でも、二度と歩けないくらいにしないきゃならねぇ」
「お、お父さま……? 嘘ですわよね……?」
「ああん? なにをいってんだロザリア。本当なら国家反逆罪で一生牢屋の中だぞ? むしろこれは、この子のためだ」
ロバートは右手でキリカの左足首を掴み、左手で足の裏を掴むと、力づくでねじり始めた。
「あああああ! ぐっ、あああああああ!」
「足首、膝、股の順で関節を破壊する。まあ、反対の足をやるころには痛みにもなれるさ」
「お、お父さま! おやめになってくださいまし!」
ロザリアがロバートの服にしがみつくも、彼は蹴り飛ばした。
「ああっ!」
「いっておくが、お前のその腕も後で破壊する。だが、せめて記事がかけるくらいの義手をつけてもらえるように掛け合うつもりだ。だから安心しろ」
「そんなものいりませんわ! わたくしの腕ならいくらでもさしだします! だから、キリカさんを許してくださいまし!」
「……腕がなきゃ、記事を書けなくなるんだぞ?」
「かまいませんわ! わたくしは、わたくしなりのやり方でお母さまの想いを実現しようとしました! 力に屈服するようなら、こんな腕は必要ありませんわ!」
「そうだったのか……だからお前は記者に……。はぁ、情けねぇ。まさかいまのいままで娘の夢を知らなかったなんてよぉ」
「お父さま……」
「だが駄目だ。お前とこの娘のことは別の話だ。お前は俺の子で、この子は違う」
「そ、そんな! お願い、やめてええええええ!」
ロザリアが叫んだその時、ロバートはキリカの足を手放して振り返った。
眼前に迫ってくる兜。彼はそれを片手で受け止めた。
「やっぱりな、なんか妙だと思ったんだ。さっきこの兜を蹴り上げた時の感触。それと、この嬢ちゃんの反応。それほど強く蹴ったわけでもないのに、手刀が弾かれてた。ありゃあ、勢いが強かったからじゃねぇ……この兜が本当に重かったからだ」
ロバートは掴んだ兜を握りつぶした。
彼の眼前には、縦縞のトランクス一枚姿の近衛隊長が立っていた。
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