第17話

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【Q.〈彼〉についてどう思いますか?】


「なんでも腕力で解決しようとして、実際に解決しちまういけすかない野郎さ」


 ふよふよと空中に浮遊した少女は、苛立った様子でいった。背中の中ほどまで伸びた緩くウェーブのかかった栗色の髪を指でいじり、半透明の体でまるで空中に浮かんだ見えない椅子に座ってるかのように足を組んでいる。


【Q.勝算はありましたか?】


「そりゃあったさ! あいつに霊感はおろか魔術の才能がないってわかったときなんて百二十パーセント勝ったと思ったさ! だってあたいは幽霊だぜ? 物理攻撃無効っていう天からの贈り物ギフトがありながら、あたいは負けたんだ! いまでも納得できない!」


【Q.もし再戦できるとしたらしますか?】


「しないよアホか! あんな馬鹿げた奴に構ってるなんて時間の無駄だっての。まぁ、あたいには腐るほど時間があるんだけどね」


【Q.そもそもなんで人間を襲うんですか?】


「そりゃ楽しいからさ。他に理由なんてないね、キヒヒ!」


【Q.成仏したいと思いませんか?】


「あー? でもせっかく拾った命だしさ。あいつにも……お前らがいう〈彼〉にも、命は大事にしろよっていわれちゃったから。しゃーない、もう少し現世にとどまってやるかって感じ?」


【Q.ツンデレなんですね】


「違うし、質問じゃねーだろそれ!」


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 暗い部屋の中、小さな電球だけがか細い光で部屋の中央を照らしている。


 スカートのように広がった光の中央には、後ろ手に縛られたキリカとリリィが背中あわせに座らされていた。


「あ、あれ? ここ、どこ?」


 キリカは目を覚まし、周囲を見渡した。見知らぬ部屋だ。妙な部屋でもあった。見渡す限り、少なくともキリカに見える範囲には窓もなければ扉もない。完全な密室だ。


 辺りを調べようと思って立ち上がろうとするが、自分が縛られていることに気づいて途端に不安が込み上げてきた。


「どうなってるの?」

「うぅ……」

「リリィ! リリィなの!? 大丈夫?」


 後ろにいるであろう親友に声をかけるが、苦しそうに呻くばかりで返事はない。


「キヒヒヒ! ようやく目覚めたのかい? お寝坊さん!」


 どこかから声が聞こえ、体がびくりと震える。

 リリィほどではないにしても、キリカにも多少は周囲の気配を感じ取る能力がある。それでも、いまはこの部屋に、自分とリリィ以外の気配は感じられなかった。


「だれなの!? どこにいるの!?」

「ここさぁ!」

「きゃあ!」


 目の前に半透明の女の子が現れた。ふわふわの髪に、レースをたくさんあしらったふわふわのドレス。なのに足には靴はおろか靴下も履いてない。


「お、お化け?」

幽鬼レイスと呼んでくれ。そんなんじゃ恰好がつかないだろう? キヒヒ!」


 レイスはわざとノコギリのような歯を見せつけるように笑った。


「あ、あなたがわたしたちをここへ連れてきたの?」

「正解正解だいせいかーい! あたいがこの秘密の部屋に招待したのさ! 光栄に思えよ? 人間」

「すぐに元の部屋に帰して。こんな寒い部屋じゃ、リリィが、友達が凍えちゃう」

「友達って、その死にかけのことかぁ?」

「そんな風にいわないで」

「ふーん、そんなに大事なのか」


 レイスの表情から笑みが消え、彼女はふわりと背後に回り込んだ。


 リリィの顔を興味深そうに見つめ、そっと頬に手を触れる。


「う、くっ……」

「なにしてるの!?」

「なーに、ちょいとあたいの冷気を送り込んでやっただけさ」

「やめて! そんなことしないで!」

「キヒヒ! やだやだ、やめなーい。あたいは友情とか奇跡とかそういうの大キライなんだ。そんな目に見えないものを信じてるアホをみると虐めたくなっちゃうんだ」


 レイスの言葉に、キリカは背筋に氷柱を押し当てられるような寒気を感じた。

 背中から、リリィの震えが伝わってくる。キリカは少しでも彼女を温めようと、手を摩った。


「お願い! やめて!」

「キヒヒ! さーていつまで耐えられるかな!」

「頑張ってリリィ! 負けちゃ駄目!」

「健気だねぇ、必死だねぇ。どうしてそんなにそいつを助けようとするんだ? 人間なんてどーせいつか死ぬじゃないか」

「だからだよ! お母さんが死んじゃって! カインがいなくなっちゃって! そのあとお父さんまで死んじゃって! わたしだけが一人取り残されて! あんな寂しい思い、もうしたくないよ!」

「……まさか、独りぼっちだったあんたに寄り添ったのがこの女なのか?」

「そうだよ! リリィはわたしの寂しさを埋めてくれた! わたしを一人にしないでくれた! だから、お願い! もうこんなことはやめて!」

「そうか。なら……」

「わかって……くれたの?」

「なおさら殺さないと」


 キリカの目の前を、ナイフやフォークが意志をもったように飛び回る。何週目か、無数の凶器が静止してキリカたちに切っ先を向けた。


「嘘……」

「んー、こんなものじゃさすがに一回じゃ殺せないかな。まぁ、死ぬまで何度でも刺せばいいか。何度でも。何度でも。何度でも何度でも何度でも!」


 キリカは目をつむり、祈った。


「助けて、カイン!」


 神ではなく、誰よりも信用できる男に。


「キヒヒ! 無駄無駄、ここは屋敷の仕掛けを解かなきゃたどり着けないよ。窓も扉もない秘密の部屋なんだ。助けを求めたって、だーれも来てくれないのさ! さあ、諦めて死を受け入れな!」

「わたしはカインを信じてる! きっと助けにきてくれるもん!」

「そんなわけ----」


 キリカの声が天に届いたのかどうかは定かではないが、彼女の祈りと共に、屋敷全体が震えた。天井からパラパラと埃が落ちてくる。


「な、なんだ!? なにかが……近づいてくる!?」


 次の瞬間、部屋の壁が粉々に吹き飛んだ。


 レイスの意識もキリカたちから謎の乱入者へと向けられる。集中力が途切れたのか、宙に浮かんでいた凶器が乾いた音を立てて床に落ちた。

 

「ようやく見つけたぞ、キリカ。リリィ」

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