第15話
さらに森の奥深くへと入っていくと、崖までやってきた。
「たしかここに吊り橋が……あれ?」
鉢巻が崖に向かって駆け出すも、立ち止まった。
「どうしたのー? あれ、落ちちゃってるね」
その後ろからキリカが近づいていく。どうやら吊り橋が崖の下に落ちてしまっているようだ。
リリィは嫌な予感がした。
「待てキリカ! これは!」
罠だ----その言葉が出る前に、どひゅ、となにかが発射される音が聞こえ、茂みの中から飛んできた矢がキリカに向かっていった。
「ふっ!」
リリィの呼びかけで振り返ったキリカは左右の腕で円を描く防御術、回し受けで矢を払い落す。
ところがお代わりと言わんばかりに茂みの中から追加の矢が飛んできた。
「ふっ、はっ!」
難なく二本目、三本目の矢を落とすキリカ。リリィは助太刀しようと駆け出した。
「うわあああ! き、き、キリカちゃんは、俺が守る! ふげっ!」
鉢巻がキリカを庇おうとするも地面のくぼみに足をとられてすっころんだ。
その時、キリカの体を押してしまい、彼女のタイミングが狂う。
「あっ……」
四本目の矢に対応できないキリカ。
彼女の瞳孔が開いたその時、リリィはとっさに彼女を突き飛ばしていた。
リリィの肩に、放たれた矢が突き刺さる。
「うぐあ!」
「リリィ!」
キリカとともに崖の下へ落下する。気持ち悪い浮遊感を覚えながら谷間から顔を覗かせる空を見上げると、誰かが、自分たちを追って飛び降りるのが見えた。
それがだれなのかを認識する前に、二人は水しぶきを上げて川へと着水したのだった。
※ ※ ※
「ありがとう。それとごめんね、アスベルまで崖の下に落ちちゃって」
「気にするでない。余が自ら飛び降りたのだ」
ゴブリンの奇襲によって崖下に落下したキリカとリリィを追いかけ、自ら崖に飛び込んだアスベル。
川に着水するとすぐに二人を抱きかかえて付近の岸へと身を寄せた。
アスベルはもとい、普段から修行で滝に打たれているキリカも崖から落ちた程度ならなんともないが、問題はアスベルに背負われているリリィだった。
「はぁ……はぁ……」
息が荒く、体温も高い。なんらかの中毒症状を起こしているのは明らかだ。
「リリィ、大丈夫?」
「矢に毒がぬってあったのやもしれぬ。急ぎ、医者にみせねば」
「問題……ない。わたしは、あらゆる毒に適応する体質だ……時間が経てば、じき治る」
息も絶え絶えな様子でいうリリィ。彼女がどのような経緯で抗体を得るに至ったのかはわからないが、いずれにしてもこの状況では医者に診てもらうことはできない。
それに日も暮れてきている。いまは安全に一夜を明かせる場所を探さなければならないだろう。
アスベルはリリィを背負ったまま森の中を歩いた。上よりも木々が密集しているせいか、空気が濃い。いつしか背中から寝息が聞こえてきた。呼吸は、落ち着いている。
「森を歩いていると、父上との日々を思い出すの」
「前国王様と山ごもりしてたの?」
「うむ。修行ゆえ甘えは許されなかったが、それでも充実した日々であった」
「どんなことを教えてもらったの?」
「生きる術、話し方、王としてのありかた。ありとあらゆることだ」
「そっか。いいお父さんだったんだね」
「うむ。余の誇りである。ん?」
キリカと話していると、木々の向こうに明かりが見えた。
草木を掻きわけて行くと、そこは開けた場所になっており、巨大な洋館が佇んでいた。
「人がいるのかなー?」
「明かりがついているのだ。そうに違いない。今晩は泊めてもらうとしよう」
日ごろから地で正々堂々を貫く二人に、警戒心という言葉はなかった。
「う、うーん……馬鹿ぁ……」
衰弱したリリィですら夢の中で危険を察知しているというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます