Ep.11

 

 セントラルカジノシティ 地下街 円形階層5階 14ブロック  地下大衆食堂玄関前


「なかなかガッツがあるじゃないか。本当に火傷が治っているな。うちに食材を仕入れている農協に連絡を入れておくよ。武器、いや魔法のこもったアイテムは大したものを紹介できないと思う。でもタワーは良いものがあるからさ」

 名前を知らないコックはガスマスクを着けたままでエニシィにスポンサーを紹介した。エニシィは腕をさすりながら周囲を見渡した。地下街は半分未完成の状態だった。営業している店にはお構いなしで同じような空テナントや街に必要な電力や水を供給するための発電所のようなものを作っているのかケーブルや電圧計のようなものがむきだしになった空間で工事が進められている。天井を見上げると大きな換気扇がモーター音をたてている。

「ぜひお願いします。闘士に必要なアイテムはすぐにみつけますよ。まずは指輪屋にいくことになっています。そうだよねデイジーおじさん」

 デイジーは地下街の空気を名いっぱい吸い込んでから「そういえばそうだったな。ろくなものはないと聞いているが掘り出し物があればラッキーだなエニシィ」 

 数人が歩いてきた。通り過ぎた工事現場の作業員たちはヘルメットではなくガスマスクをつけたままで食堂にはいっていった。

 異世界とはいえ人生最初のアルバイトである皿洗いは熾烈を極めた。肉とバターから発せられる湯気と水道の蛇口から無限にあふれ出るお湯から立ち昇る湯気でガスマスクのゴーグルは曇っていた。ゴム手袋をした手のひらと腕はたちまちに水ぶくれを起こして腐り果てる寸前で再生していく。エニシィは手が腐る体験などしたことはないが手袋の中の腕が細くなっていくことがわかった。破壊と再生を繰り返したエニシィは次第に熱を感じなくなった。その間もかかさずにガスマスクの中で「時を戻してくれ」とアリスに命令しつ続けた。女神の懐中時計が巻き戻す時間はドンキフォート大陸の時間を戻すことはなかったがエニシィの腕を回復させ続けた。周囲にいるコックたちはひたすらステーキを焼き続けていたし皿をあらう巨大な食器洗浄機は動きをとめることなく仕事をしていた。エニシィは湯だった水のなかにある皿を食器洗浄機の金網に差し込み続けた。調理場の床に流れる煮えたぎった汚水で常に足の裏全体が針で刺されたような違和感の正体はアリスの回復によってわからずじまいだった。 

「何が売っているのかな。契約闘技はまだ見たことがないから何が強いのかがわからないな」

 セレナがガスマスクを外した。そういえばこの美形の公務員は食堂の調理場にはいなかった。ずっと店の前にいたのだろうか。

「エニシィ殿は貧民街生まれですからね。あなたに力があることはよくわかりました。契約闘技の概要は契約者様へのガイダンスに載っているのでご確認してください。ラジオを買わないといけないですね。ぜひ今回の皿洗いの報酬で買ってください。ナイターの放送は午後7時から深夜3時まで行われています。勉強してくださいね」

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